13 階 段 |
「13階段」このタイトルから、死刑囚の命の尊厳に関するテーマの映画だと思って見に行った。もちろん、そのテーマがこの作品の核になっていることは間違いないが、日本映画にしては珍しくそれだけにとどまらない中身の濃い人間ドラマになっており、久々に心を揺さぶられた。
誤って殺人を犯して3年の刑に服していた三上が仮釈放されるところから物語は始まる。ある日三上を訪ねて刑務官の南郷が訪れる。ある死刑囚の冤罪を晴らす調査を手伝って欲しいと頼まれ、三上は南郷の手伝いをすることになる。
千葉県で起きた宇津木夫妻殺害の犯人として服役中の死刑囚の冤罪を晴らす調査を進めていく中で、三上と南郷の過去が少しずつ明かされていく。ひどく無口で人間的な感情を表に出さない三上と、仕事とはいえ、死刑を執行した過去にとらわれた南郷。三上に息子を殺された父親、そして宇津木夫妻の過去を知るホテルのオーナー。この4人を中心にサスペンス的要素としての物語は進展していく。その謎解きともいえる過去を明かしていく中で、最初は心を閉ざしていた三上が次第に南郷に気を許し始める。南郷がなぜこの調査を引き受けたのかを解き明かす謎解きの要素と、三上が"殺人者"から"一人の人間"へと成長していく要素、そしてこの2人に関わる複数人の繊細な心理描写。
記憶を無くしていた死刑囚のわずかに甦った記憶から"階段"というキーワードを得る。"階段"を探しながら、三上と南郷は殺害現場付近の山中を歩き回る。そしてある日、三上が"階段"を見つけたことで、全ての謎が解ける。
それで終わりだと思っていたら、その後に更なるドラマが待ち受けていた。謎解きが終わったと思いきやまだ語られていない三上の過去が明らかになる。物語の中で三上の過去を語る場面はいくつかあるが、素晴らしい順序構成だと思う。最後の最後にこれか?とうなってしまう。
そして最後の謎解きが終わり、物語は人間ドラマの要素を色濃くして、続いていく。普通ならもう満足です。ここで終わればいいのにと思うのだろうが、この映画は違った。謎解きが終わって、すっきりした気分でいたところに、今回の調査を通して、三上が人間として成長した様を描くことで感動を与えてくれる。
この作品の中でキーとなっているのが、"タンポポ"と"パン屋"。この2つが関連するのは主人公である三上ではなく、刑務官の南郷。南郷の過去の苦しみの象徴ともいえる"タンポポ"と、南郷のささやかな未来像を示す"パン屋"。この2つのキーが南郷の過去と未来を写すだけでなく、謎解きと人間ドラマのキーにもなっており、エンド・ロールにも"タンポポ"が使われている。
みなさんもご覧の際にはこの2つに注目して見ていただければ、より一層この作品を深く知ることができるのではないでしょうか?