劇場版 コード・ブルー
-ドクターヘリ緊急救命-
採点:★★★☆☆☆☆☆☆☆
2019年12月7日(テレビ)
主演:山下 智久、新垣 結衣、戸田 恵梨香、比嘉 愛未、浅利 陽介
監督:西浦 正記

今年2019年は飛行機の中とテレビでしか映画を見ていない。映画館には2081年の10月以降足を運んでいない・・・そんな状況の中で久々にこの映画レビューを書く・・・そして久々に残念な作品を見る結果となった。

日本とカナダの病院において合同のライブ手術が行われる当日、成田空港に乱気流に巻き込まれた旅客機が着陸。要請を受けた救命救急センターはドクターヘリで白石たちを現場に向かわせる。そこにはカナダにいるはずの藍沢がいて、患者たちのトリアージを既に終えていた。
そんな中1人の女性を病院へと運ぶと彼女が末期癌であることがわかる。また頭部に包丁が刺さったアルコール依存症の女性が病院に訪れる。彼女は雪村の母親だった・・・。
続いて海ほたるにフェリーが衝突したとの連絡が入り、再びドクターヘリに乗り込む藍沢と白石達。現場に着くと鉄パイプに腹を突き抜かれた男性が車の中にいる。果たして藍沢たちは次々と押し寄せる患者たちを救うことができるのか?

冒頭にも書いたが、かなり残念な内容。
映画のオープニングがいきなり「これまでのコード・ブルー」とテレビ・シリーズと同じ前回までのダイジェストで始まる。テレビ・シリーズを見ていない人からすると???。シリーズ初見の人向けのダイジェストかと思いきや、テレビシリーズ、3つ分のダイジェストのダイジェストなので、おそらく初見の人にとってはあまり伝わらない内容だったのではないかと思われる。
そして内容的にも緋山が冴島の苦労話を語る場面があるが、冒頭のダイジェストにも含まれていない内容で、テレビシリーズを見ていない人には何の話?感満載な演出になっていて、置き去り感は半端ない。
それでも93億円の興行収入を上げるわけだから、多くの人に愛されていたということがわかるし、その多くの人に向けての大団円という意味では最後の結婚式とエンドロールでのコメントは良い内容だったと思うが、これもまたテレビシリーズ未見の人にとっては上述の苦労話ほどの何の話?感はないものの、そこまで作品に入り込める要素ではなかった。

そして一番の問題はこのシリーズの肝でもある災害現場における治療シーン。
この劇場版における治療シーンは今までテレビシリーズで何度も見てきたシーンの焼き直し感が半端ない。それだけならまだしも焼き直した上でスケール感が小さくなっているという致命的なミスも起きている。劇場公開時にTVで流れていたCMでは「未曽有の大事件が・・・」的な演出をしていたが、内容が薄く、演出がいまいちでその事件のスケール感が伝わらないという初歩的なミス。これならドラマで描かれていた地下鉄事故の方がよほど未曽有の大事件に見える。

これらはすべて脚本家のせいだろう。
テレビシリーズのシーズン3から脚本家が変わったことで、シーズン1、シーズン2が医療現場に置ける救命救助活動を通して人間ドラマを描く秀作だったのに対し、シーズン3は恋愛要素が増えて、医療ドラマというよりは医療現場を舞台にしたラブコメ的な雰囲気が少しだけ感じられたのだが、劇場版にもその悪い流れが入り込んでいて、そこに時間を割いた分(特に緋山先生)、医療ドラマの方が薄くなってしまった。
シーズン1、2の脚本家であればフェリー事故の現場で鉄パイプの患者だけでなく、もう1人くらい現場で治療するシーンを描いたのではないだろうか?もしかしたらオープニング直後の飛行機の描写をなくして、すべての出来事をフェリーに集約していたかもしれない。またシーズン3で白石のリーダーとしての成長を描いていたはずだが、それもどこかに消えてしまっている。シーズン3と同じ脚本家であれば、白石はあの事故現場に残って現場を仕切る姿を描くべきだったのではないか?
それなのにこの脚本家はそんな自分で描いた設定を忘れて、お涙頂戴に狙いを定めて、腹を鉄パイプが貫通している父親を前に息子が確執を持っているという無駄な設定を持たせている。これから命を救おうという状況でこの設定はいらない。しかも現場で治療をするシーンは描かれたものの、その後どうなったのか?生死も含めて親子の確執がどうなったのか?に関する描写が一切ないというあり得ない脚本。そこを描かないと救命救急が扱う命の大切さが伝わらない。この脚本家はそこを分かっていないので、医療ドラマなのに軽々しいラブコメ要素を散りばめるのだろうか?
もしかしたらエンディングが藤川と冴島の結婚式という既定路線があるので、この作品では極力生死を描かないという決め事があったのかもしれないが、それこそ本末転倒な形だと思う。この作品が多くのファンに愛されている理由であり、優先順位は「命の重さ」>「恋愛」であるはずだと思うのだが、この脚本家はどうも「恋愛」>「命の重さ」と考えている節がそこかしこに見られる。
緋山先生の恋愛エピソードはこの劇場版に関してはまったくもって不要のものだった・・・。

もう1つ致命的なのが、シーズン1、2を通して丁寧に描かれてきた安全確認の重要性もこの脚本家はわかっていないと思われる。シーズン1で黒田先生という名医が、医師としてのキャリアを失う結果となった腕を切断してまで伝えた安全確認。
それをシーズン3では藤川先生が、そしてこの劇場版では主役である藍沢が安全確認を怠った結果、生死をさまようことになる。藍沢本人のミスではないものの、そこはシーズン3の3か月を通してフェローたちに教えたはずではなかったか?
そんな大事なことすらなかったかのように藍沢がもらい事故に遭ってしまう。しかもその後、特にストーリー的に起伏がないまま、何もなかったかのように復活するという設定。そこまでして結婚式を描きたかったのだろうか?
他にも脳死の息子の現実を受け入れられない両親に臓器移植の話を持ち掛ける描写も薄い。橘先生の行為はちょっとあり得ない。

まとめるとテレビシリーズなら1話に1つのテーマで丁寧に描くべき話を、劇場版では末期癌患者、アルコール依存症の母親、腹部貫通親子の確執、脳死の息子の死に葛藤する両親、そして藍沢のもらい事故と大きく5つのテーマを入れ込んでしまったため1つ1つが薄っぺらくなってしまったと言わざるを得ない。
おそらくこの5つのテーマを1つ1つテレビシリーズの1エピソードとして描けばそれなりに面白くなると思われる。
10年にわたるシリーズの集大成が結婚式という設定の脚本に、プロデューサーもよくOKを出したなと感じる。結婚式を盛り上げるための設定で末期がん患者を登場させたのだろうが、この患者の描写にかけた時間を、腹部貫通患者のその後含めて、上述してきたような他に描くべきだったのではないか?
コードブルーのファンは集大成として結婚式を見たいわけではなく、命の重さを扱う救命救急の医師たちの苦悩と成長を見たかったのではないか?もちろん結婚式を見たくないわけではなく、それはあくまでもサイドストーリーであって、それが本筋に据えられるのは違うと思う。医療行為を通じた成長ドラマと結婚式に絡んだ恋愛ドラマの時間配分が完全に逆!

もしシーズン4なり、劇場版2が作られるのであれば脚本家を変更してほしい、それがこの作品を見て思った一番の感想かもしれない・・・。

一口コメント:
テレビシリーズ(特に第3シリーズ)のファンのための作品で、シリーズ未見の人にとっては???、第1、第2シリーズのファンにとってはある種冒涜的な作品です。

戻る