名探偵コナン 絶海の探偵
採点:★★★★★★☆☆☆☆
2013年10月27日(DVD)
原作:青山 剛昌
監督:静野 孔文

コナン映画シリーズ最高興収を記録した劇場版第17弾。

ある日、舞鶴港で海上自衛隊によるイージス護衛艦・ほたかの体験航海が開催され、コナンたちも高倍率の抽選を通過し、航海に参加していた。出港直後、排水溝で海上自衛官の切断された左腕が発見される。さらにCICでの公開訓練中に未確認物体が艦体に接近し、艦内は一時騒然となる。
捜査を進めるコナンは衛星電話を使用し、阿笠博士や平次らとコンタクトしながら、真相に近づいていく。そのやり取りの中で、正体不明な女性自衛官、左腕をなくした遺体、遺体の所持品である携帯電話、そして某国のスパイX・・・など次々と怪しい情報があがってくる―――。

ここ3年では最高の完成度(といっても前2作があまりにもレベルが低かったが・・・)。最近は探偵というより、アクション・ヒーローになっていたコナンだが、久々にアクションではなく、推理メインの劇場版。爆発もなければ、超絶スケボー・アクションもない。
"自衛隊全面協力"というフレーズも最近では聞きなれた感があるが、アニメでこのフレーズを聞くようになるとは自衛隊も変わったものだ・・・なんてこのシリーズの感想文に書く日が来るとは思いもしなかった。海上自衛隊の護衛艦という、国家機密の中でも超トップシークレットを舞台にしていることもあり、ついにコナンも国家の陰謀に巻き込まれることになったか?と思わされるストーリー展開。自衛官の不審死、不審船、さらに某国のスパイXといったミステリー要素が散りばめられ、重厚なストーリーを支えるようなアイテムも随時登場してくる。
また冒頭に描かれている乗艦者用に行っていた擬似訓練中に接近物体を発見し、戦闘態勢に切り替わるあたりの緊張感は、リアリティがあり、このストーリーに引き込まれた。このような描き方は最近のコナン映画では久しく見ていなかったこともあり、最初から好印象。
そしてこのシリーズ恒例となったゲスト声優。子供たちの素人吹替えは愛嬌ということで我慢できるのだが、随分前のDAIGOのようにすべてをぶち壊した実例があるので、毎回ヒヤヒヤさせられる。しかし今回は柴崎コウということでまったく違和感がなかった。実際、エンドロールで名前が出てくるまで普通に声優さんが演じているものかと思っていた。が、柴崎演じる藤井七海の絵の方に違和感があった。眉毛がなんとも表現しづらい形になっていて、気になって仕方なかった。

一方、ストーリーは山場がいくつもあり、話の展開・テンポは飽きが来ないし、イージス艦という舞台装置を使った伏線の回収も見事(特にラストシーン)。そして最近の劇場版で多かった犯人の動機が「えっ、そんなんが理由でこんな大事件を起こしたの?」って意味不明な動機ということもなく、最後まで安心して見ることができた。
また最近のシリーズだと最後にイージス艦を爆破!みたな展開になるのかと思ったら、それもなく最後までミステリーとして描かれていた点も素晴らしい。

しかし細かいところで突込みが必要な箇所がいくつか見受けられた。
例えば自衛隊の護衛艦に一般人を乗せるイベントをしているのに、搭乗者の確認がしっかりできていなかったり、立ち入り禁止区域に簡単に入れてしまうセキュリティだったり、未確認物体との遭遇をしたのにも関わらず、一般人の見学を中止せずに続行してしまったり、さらには一般人のいる前で艦長の独断で魚雷を発射したり、最高機密の塊といわれるイージス艦という設定にリアリティが欠ける点が多数見受けられた。
また最近の東アジアの情勢を踏まえて、具体的な国名を出さずに"あの国"という言葉を使っているが、そこも架空の国名を使うなどすれば良かったのではと思ってみたり、そもそも主役のコナンがイージス艦内で衛星通信を使って(=犯罪行為)いるのも子供向け映画としてどうなんだ!?と思ってみたり、最も重要なスパイXがあまりにも怪しい人物がまんま犯人!というあり得ない謎解きだったり、その後にもう1人の犯人が登場したと思ったら、かなりショボイ犯行でまったく盛り上がらない。大きい事件の後に小さい事件を出されても何も面白くないです・・・。犯人の解明の順番を逆にするだけで、大きく盛り上がり方が変わったと思うと、非常に残念。
他にも有名人とはいえ、一般人である毛利小五郎が捜査協力をするとか、もっと言えば捜査一課の人間がそんな簡単に自衛隊の管轄下に入れるものなんだろうか?とか、国家権力と民間、あるいは国家権力の中のバランス感覚がやや怪しい描写も見受けられた。

そして"推理>アクション"と言ったが、サッカーボールで犯人を倒すシーンは恒例と言えば恒例なのだが、今回はアクション・シーンを押さえた反動か、このサッカーボールが殺人クラスの驚異的な破壊力を見せる。艦橋から海に飛び込んだ犯人めがけて甲板からボールを蹴り込むコナン。動いている的にボールを当てるだけでも至難の業なのだが、そこはいつものコナンということで問題はないが、今回は上から下に落ちているもの(犯人)にボールを当て、さらに犯人を再度上方へ付き戻すほどの威力。普通なら即死している。

まぁ、何はともあれ、久々のミステリー中心の劇場版コナンを楽しめた!と思っていたら、この作品最高のクライマックスがエンドロールの後に待っていた。この冬、コナンvsルパン3世が劇場版になる!という告知がそれだ。
以前TVのスペシャル番組でやっていたが、劇場版になるとは・・・。とても楽しみだ。

一口コメント:
久々に"スーパー・アクション・ヒーロー"ではなく、"名探偵"のコナンを楽しめる作品です。

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