エクスクロス~魔境伝説~
採点:★★★☆☆☆☆☆☆☆
2008年6月22日(DVD)
主演:松下 奈緒、鈴木 亜美
監督:深作 健太

最近、気になっている女優・松下奈緒が出演しているということで、見てみたいと思っていた作品。

山奥にある"阿鹿里村"に傷心旅行にやってきたしよりとその友人愛子。しかし些細なことでケンカをしてしまった2人。しよりは先に戻ると言い、愛子を1人温泉に残し、ロッジへと帰っていく。
ロッジに戻ったしよりだったが、突然村中が停電になってしまい、そこに携帯電話の着信音が・・・。押入れの奥にあった携帯を手にしたしよりは、「今すぐ逃げろ!足を切り落とされるぞ!」という声を聞く。すると、すぐに村人の様子が豹変し、愛子は命からがらロッジを逃げ出す―――。
一方の愛子。昔寝取った男の女、レイカが復讐を誓い、愛子を追い回す―――。

違う意味で、驚かされた!
第1回<このミステリーがすごい>大賞で"隠し玉"賞を受賞した作品ということ、予告編の映像などから、てっきりホラー、もしくはミステリー作品だと思っていたが、ジャンル分けをするのであれば、間違いなくコメディーである。
しかも飛びっきりくだらない、アホ過ぎて笑えるコメディーである。

物語全体の構成は、小説がもとになっているせいか、いくつかの章に分かれている。そして章が変わるごとに、しよりと愛子が交互に物語の主人公になっていくという構成。しかも章が変わるごとに、時間軸が2人が交錯した時点まで戻り、それぞれに起きた事件を描いていくというスタイルで、この構成の仕方は非常に面白かった。
例えば、ある章でしよりが森の中で、闇の中の何かを恐怖の対象として描いている。しかし、次の章を愛子の視点から描くことで、その場面の恐怖の対象が何だったのか・・・ということがわかるといった感じだ。
要するに前の章で1人の主人公が謎として提示した問題を、次の章でもう1人の主人公が回答を示すわけである。これは物語に入り込むという意味では素晴らしい構成の仕方である。

とここまで書いてみると、非常に面白いミステリー作品として見えるかもしれない(実際、自分でもそう思う)。が、しかし、その構成をすべて無に帰してしまうほどの穴だらけの設定。
実はしよりがこの旅に来ることになった直接のきっかけである浮気相手が愛子なのだが、しおりの恋人を愛子が寝取った理由が全く描かれていない上に、最終的にその原因が何なのかもわからないまま、仲直りしてしまうという設定。
ある登場人物の妹の携帯電話。物語の一番のキー・アイテムなのだが、行方不明になったはずの妹の携帯の電源が、何ヶ月も使える状態で残っているという設定。
女性であり、ずっと村にいたはずながら、村人に追われることなく、足も無事な状態のままのレイカ。一体、何故彼女は村人に追われなかったのだろうか?
一度は携帯を捨てたはずのしよりだが、メルアドをすべて手帳にメモってあり、そのメモ帳を常に持ち歩いているという設定もいかがなものだろうか?

そもそも最初の携帯電話の通話で「早くそこから逃げろ!足を切り落とされるぞ!」とスクリーンから聞こえた時に、失笑。
そして最後の最後で、今まで足を引きずっていた阿鹿里(足切り)村の住人が、普通に走り出した時も最初と最後で設定が180度変わる映画ってどうなのよ!?と思わずにはいられなかった。

そしてこの作品の最大の間違いシーン、ある意味においてはハイライトとも呼べるアクション・シーンが2つある。
愛子vsレイカ@トイレである。最初は屋外のトイレ。この戦いはレイカが一方的に愛子に襲い掛かるというシーンだが、倒したアイテムが「混ぜるな危険!」の洗浄液。
そして最大最強のシーンが仮設トイレでの第2ラウンド。最初は第1ラウンドと同じく、レイカが一方的に攻めるのだが、途中から愛子が切れて、チェーンソーを手にレイカに襲い掛かるのだ。一方のレイカの武器はハサミ。第1ラウンドの時にすでに巨大なハサミ(二刀流)だったのだが、第2ラウンドは両手で扱うほど極大なハサミ。チェーンソーvsハサミという爆笑戦闘シーンである。しかもこのシーンは、とある、あり得ない設定での爆発で終わるのだが、この爆発も爆笑である。思わず手を叩いて笑ってしまった。
そして物語最後のオチもドリフ大爆笑を見ているかのような、出演者総動員でのドタバタ劇というおまけ付き。これがコメディーでなくて、一体何なのだ!?

個人的に一番笑ったのは、携帯のフラッシュで敵を倒そうとする主人公と、実際にフラッシュによって、ひるむ敵。主人公の決め台詞は「日本中にこの写真バラ撒くよ!」。大爆笑です!!

もう1つ、中川翔子演じるしよりのもう1人の友人、弥生は、シーンごとにしよりを助ける助言をするのだが、実はしよりを最も惑わせていたというなんとも迷惑なキャラクターで、正直このキャラクターの設定は邪魔である。コメディーなら、コメディーらしく、笑いに導く助言をすれば良いのだが、ミステリーに導く助言をしておきながら、結局、筋の通っていないミス・リードを行う。ミス・リードをするなら、するで、物語における整合性が取れていないといけないにも関わらず、その整合性が取れておらず、コメディ要素としても、ミステリー要素としても存在価値がない。

ただし、キャストに関しては、第一印象以上に良かった。優柔不断だが、芯の強さを持ったしよりを演じた松下奈緒と、性悪な存在である愛子を演じた鈴木亜美。2人とも役柄にマッチしていて、演技力どうこうではなく、見ているだけで説得力を感じるキャラクターになっており、見事なキャスティングだと思いました。
キャスティングという意味では、やはりレイカを演じた小沢真珠は外せない。最近、まったく見なくなったと思いきや、こんなところで、こんな役を演じているとは・・・。見事なまでにトチ狂ってました。

最初からコメディーと思って見ていれば、かなり高得点を挙げていただけに、宣伝の段階で、もう少しそちらの色を強く打ち出して欲しかった。
皆さんも経験があるとは思いますが、ドラマを期待して見に行った作品が、実はコメディーだった、あるいはラブ・ストーリーを期待して見に行った作品が、実はホラーだった時のやりきれなさ。それを痛い位に感じさせられた作品です。

一口コメント:
最初からコメディーとわかって見ていれば、もう少し高得点を挙げていた作品です。

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