初 恋 |
昭和最大の未解決事件「府中三億円強奪事件」を扱った映画であり、しかもその犯人が女子高生という設定を聞き、以前から見てみたかった作品。
高校生のみすずは、小さい頃に母親に見捨てられ、叔母家族に引き取られた。そんなある日、母親に連れて行かれた兄がみすずの前に現れ、マッチを手渡した。そのマッチを頼りにたどり着いたのは、ジャズ喫茶B。そこで兄の亮と彼の取り巻き5人と出会う。その5人の中に1人だけ雰囲気の異なる東大生の岸がいた。「子供が何の用だ。」そう冷たく突き放す岸にみすずが返した言葉は・・・「大人になんかなりたくない。」こうしてみすずはBの仲間に加わり、中でもバイクを教えてくれたり、補導されそうなところを助けてくれた岸に対して、恋愛感情を抱き始める。
そんなある日、岸がみすずをラブホテルに誘う。しかしそれはある話を、他の誰にも聞かれないための岸の措置だった。その話こそが三億円強奪の話である。決行まで2ヶ月の間、何度もリハーサルをし、みすずはますます岸のことを好きになっていく。そしていよいよ決行の日が訪れる―――。
まず、3億円事件そのものを知らない人がいるかもしれないので、簡単に紹介しておこう。1968年12月10日、ある会社のボーナス3億円を乗せた現金輸送車が強奪される。連絡を受けた警察はすぐに検問を開始したが、結局犯人は見つからなかった。さらに強奪された現金の一部が通し番号だったことが判明したものの、一枚も使われることなく、事件は1975年12月10日に時効を迎えた。
というのが大筋なのだが、実は3億円事件に関して、日本人は1円も損していない。保険がおりて、盗まれた会社には3億円払われ、さらに保険会社も海外の保険会社から保険がおりているのだ。
そういう意味でも(誰も血を流していないし、損もしていない)、 昭和最大の事件と言えるかもしれない・・・。
さて、映画の話に戻ろう。ストーリーの設定は非常に面白いのだが、脚本がいまいち、というか、まったくもって、完成度が低い。
例えば、みすずの兄やその仲間たち。はっきり言って、登場する必要性がない。冒頭に1人1人を紹介するようなシーンがあるのだが、紹介をするだけしておいて、その後、重要な見せ場は何もない。それなのに、エンディングで各メンバーの消息を紹介したりしているが、途中からまったくもって存在感のなかったメンバーの行方を最後に紹介されても、見ているこちらとしては、何のこっちゃ?としか思えない。
極めつけは3億円強奪が無事に成功した後のみすずの兄の事件。何をしたかったんだ?この脚本家は?こんなところで、そんな事件を起こしてもストーリーに何の意味ももたらさないだろう?事件を起こすなら、3億円強奪の前に起こすべき。そうすれば、ストーリーに対する深みを与えることができる。とはいえ、そうなっていたら、この映画のタイトルでもある「初恋」というニュアンスが薄れてしまうが・・・。
おそらく60年代の若者はこういう風だったんだ(学生運動とか・・・)!というのを伝えるために兄とその仲間たちを登場させたのだろうが、1人1人のキャラ設定と言うか、人物描写が薄く、さらにメインの2人(みすずと岸)のストーリーとの絡みがまったくないため、"おまけ"的な存在にしか映らない。
そして映像的にもワンカット、ワンカットが長すぎる。初恋の刹那さをカットの長さを使って表現したかったのだろうが、本来カットを短くすべきカットまでも長くなっていて、全体を通してワンカットが長いために、メリハリがなくなってしまっていた。
例えば、警察との闘争シーンのカットはもっとカットを短くしたりできたはず・・・。
それと3億円事件そのものに期待して見るつもりの人がいたら、この映画はお勧めしない。というのはこの作品における3億円事件はあくまでも調味料であって、メインディッシュではないから。特に目新しい解釈があるわけでもなく(犯人が女子高生という設定が目新しいが・・・)、物語の進行上もメインの話というよりは、あくまでも初恋の途中の1ステップでしかない。
しいて挙げるとすれば、白バイにひっかかっていたシートの解釈。そして事件の首謀者が内閣の重要人物の息子であり、それを事件後に、通し番号の入ったお札を使って暴露しようとしていたという設定の2つだろう。
しかし、この映画の基礎である"初恋"の描写に関しては、かなり切ない思いが伝わってきたた。大きな一因はこれが1960年代の話であるということ。これが現代であれば、高校生で初恋というのはちょっと遅いし、こんなに切なく暗い恋愛は今の時代の風潮には合わない。
そのみすずの初恋は基本的に自らは何もしない。映画が始まってからずっと、他人に流されるまま、言われるがままに行動するだけの生き方。だからこそ、そんな自主性のない女子高生が3億円強奪事件の犯人だったという設定が生きてくる。初恋の相手が言ったことだから・・・、ただそれだけの理由でそこまでの行動を起こさせる初恋の力はすごい。
そういう意味で、やはりこの映画のタイトルは「初恋」であるべきだし、3億円事件はあくまでも調味料なのだ。
そして、それを微妙な感情の動きを表情で伝えきった(役の設定上、無口な役なので・・・)宮崎あおいも良かったし、最後の最後まで2人が再会することなく終わった点も「初恋は叶わない」と言われるような刹那さを伝える意味で、とても良い終わり方だった。
それともう1つ、昭和という時代背景ということで、スクリーン上に映る1つ1つの小道具(車だったり、オートバイだったり、電話だったり)もすべて昭和になっていた点も良かった。こういった回想的映画というのは、たまにそういうところが現代のままだったりするので・・・。
映画を見終わって思ったのは、この作品の中での時代、1960年に青春を生きた人たちはこの映画を見て、どう思うのだろうか?ということ。そして「三億円強奪事件」の真犯人は?