H E R O |
2001年に連続ドラマ、2006年に特別編が放送され、すべての回において視聴率30%以上を記録した国民的テレビドラマ「HERO」の劇場版で、意外にも月9ドラマの映画化はこの作品が初。
久利生は同僚の芝山が起訴した事件の検事を任される。容疑者が犯行を認めていたこともあり、早期に決着がつくはずだったが、容疑者が一転、無罪を主張し始める。その裏には代議士・花岡の贈収賄疑惑という大きな事件が絡んでおり、容疑者の弁護人には刑事事件無罪獲得数日本一の弁護士・蒲生が就くことになる。花岡の弁護により、裁判は困難を極めていく。久利生と雨宮は証拠探しのため、韓国へ向かう―――。
映画はいきなり通販グッズから始まり、「あるよ!」のマスターも健在で、ドラマからの流れをうまく含みつつ、ドラマ・ファンを取り込むという意味ではまずまずの内容ではないだろうか?柴山の離婚裁判なんかもその流れを含んでいる。
しかし、わざわざ映画にする必要はなく、2時間ドラマで良かったんじゃないか?というのが率直な感想。
というのは、映画としてのスケール感が足りないし、脚本の詰めが非常に甘いし、お金を払って見に行くという前提で作った割には、見終わった後の満足感がいまいちなのだ。
まずは、悪役となる容疑者や代議士たちのバックグランドが描かれておらず、この2人に関しての敵意のようなものがあまり感じられない。特に代議士役のタモリこと森田一義はミスキャストだったのではないだろうか?どこの世の中に法廷にサングラスをかけて出頭する代議士がいるんだ!?これが完全に真っ黒なサングラスではなく、半透明のものであれば、それだけで悪役としての存在感が増していただろうに・・・。やはりタモリはタモリで森田一義にはなれてなかった(笑)。
そしてこの映画において、核となっている法廷シーンが貧弱。キムタクが言っている被害者の立場に立った弁護の内容はある程度的を得た発言をしており、グッと心をつかまれ、涙をこぼしそうになったりもするのだが、法廷劇において一番重要な証拠の理論付けがちょっと弱い。車4台―3台=1台といった理論は悪くはないが、まぁよくある話しだし、この4―3=1が重要なんですよ!といった映像面での演出が過剰すぎて、法廷に行く前に最期はこうなるんだな!と思っていた通りの展開で、拍子抜け。
またもう1つの切り札となる携帯も、最初の証人が犯行現場を見に行った理由を述べた時点で予測していた通りの展開で、これまた拍子抜け。
さらに日本最強の弁護士のはずなのに、あまりにもあっけなく引き下がってしまう蒲生もどうなんだろう?善良な気持ちを取り戻したというのを表現したかったのかもしれないが、それにしてはその表現が足りないし、そりゃタモリも怒るよ!
もう少しレベルの高い法廷での戦術論のやり取りがなされていれば、それだけでこの作品の評価が大きく変わっていただけに、この法廷劇はあまりにも残念だった。
それとドラマのスペシャル版を見ていない自分にとっては、中井貴一と綾瀬はるかの出演理由がまるっきりわからない。客寄せのために出演してもらいましたというのが見えてしまって・・・、もう少し脚本考えろよ!と言いたくなってしまう。その狙いが見えていても、ストーリー展開上必要なシーンであれば、まだいいのだが、とってつけた感満載の、明らかに不要なシーンだったので、せっかくの良い流れがこの2人の登場で止まってしまうのだ。
客寄せ狙いという意味では韓国ロケも同じような感じだ。イ・ビョンホンが友情出演しているのだが、わざわざ韓国である必要はない。映画としてのスケールを出すためには海外ロケが必要だというのもわからなくはないのだが、中古車の横流し先が韓国というのが、あまりに不自然。その場合、横流し先は中国というのが相場ではないだろうか?
その韓国である事件に巻き込まれてしまう久利生と雨宮。その際に意味あり気にポケットに入れられるUSBメモリ。その後の展開において、重要なアイテムなのか?と思いきや、何の意味もない。このシーンにおいても、この作品の演出面の弱さが垣間見える。
韓国ロケをして良かったと思えるのは、イ・ビョンヒョンが去り際に二人に言った言葉をラスト・シーンで繋ぎ合わせる愛の収め方だろうか?イ・ビョンホン、マスター、そして通販アイテムが絶妙に絡み合うラスト・シーンはこの作品の脚本のレベルの高い部分を見せられた。
願わくば、これと同じレベルの絡み合いを法廷劇に盛り込んで欲しかった。