麒麟の翼 ~劇場版・新参者~
採点:★★★★★★☆☆☆☆
2012年10月28日(DVD)
主演:阿部 寛、新垣 結衣、溝端 淳平、中井 貴一
監督:土井 裕泰

TVドラマ「新参者」の劇場版であり、東野圭吾原作ということで楽しみにしていた作品。

日本橋である男性が殺害された。被害者は青柳武明。違う場所で腹部を刺された後に、日本橋の麒麟像の下まで自力で歩いてきたが、そこで力尽き、病院に運ばれるが死亡する。
日本橋署の刑事・加賀は捜査に加わるが、捜査一課の連中とは相容れない。そんな中、事件直後に八島という若い男性が現場から逃走するのを警備中の警官に見つけるがトラックにはねられ、意識不明の重体になる。彼の持ち物からは被害者が持っていた財布と書類鞄が発見されたため、警察は八島を犯人と断定し、捜査を進める。
一方、青柳が部長を務めていた会社では労災隠しの問題が発覚し、その責任が青柳にあることが公になる。このことで青柳の家族は世間からのバッシングにさらされてしまう。さらに青柳の息子が学校の水泳部で起こした問題も加賀は突き止める―――。

結果、いまいち・・・。
東野圭吾原作、TVドラマの映画化ということで、どうしても「容疑者Xの献身」と比べてしまうのだが、ストーリーも役者も演出も、すべてにおいて劣る結果となってしまった。ただし、一般的な映画と比べるのであればそこまでの優劣はないかもしれない。

まずストーリーだが、謎解きはあるのだが、アメリカの小説のアカデミー賞とも言うべきエドガー賞にもノミネートされた「容疑者Xの献身」の最後のどんでん返しの衝撃が大きすぎ、テーマや舞台設定的にどうしてもこの作品のトリックはスケールが小さくなってしまう。
ストーリーに関して言うと、他の作品と比べてもそこまで別格だというべき違いは見当たらないというのが正直なところ。

役者陣は正直そこまでの遜色はないのだが、容疑者Xの最後の堤真一の慟哭の演技の印象が強く残っているという意味では勝てない。この作品で堤真一の役どころにあたるのが、中井貴一演じる青柳ということになるのだが、さすがの名優も脚本に同様の見せ場が用意されていなければ戦いようがない。
主演の阿部寛はTVシリーズからの続投ということで、役作りは申し分ないが、こちらも福山雅治のちょっと常識からずれた感覚のキャラ設定と比較すると、演技力以前にキャラ設定の時点で既に負け確定なのである。
また新垣結衣の役どころは正直、必要か?という疑念が最初から最後まで消えなかった(これは容疑者Xの柴崎コウにも言えるのだが・・・)。原作ではもう少し細かい描写があって、その重要性が強調されていると思われるが、この映画だけを見るとその必要性は薄い。
といった感じで役者は純粋に演技力のみで勝負をできていれば、もしかすると名勝負になっていたのかもしれないが、勝負する舞台を与えられなかったことが残念だ。

演出的には10対0で容疑者Xの完勝である。
自分が最も気になった点は青柳の息子が絡む水泳のフラッシュバック。1回だけなら良いのだが、これを何度も繰り返して使用することでそこがこの作品のトリックのキーですよと暗示しておいて、実際にそこがキーなのだから、ミステリーとしては最悪の演出と言っても過言ではない。暗示しておいて、実際はその上を行くどんでんが用意してあるのであれば、問題はないのだが、この作品はやってはいけないことをやってしまっている。

といった感じで容疑者Xとの比較形式で述べてきたが、比較する相手が歴史に名を残すような傑作なので、仕方がないかもしれない。上述したように他の作品と比べた場合はそこまでの差がないどころか、役者陣に関してはたいていの作品には勝てるような豪華なキャスティングである。
ストーリーに関しても、中原の一言から、容疑者が八島から他へと次々と変わっていく展開はかなりのハイレベルなミステリーである。青柳がなぜ麒麟像まで歩いたのか?なぜ神社巡りを始めたのか?息子が水泳を辞めた理由などが絡み合っていく過程は、さすが東野圭吾である。また八島と息子の微妙な親子関係なども地味ではあるが、しっかりと人間ドラマが描かれている。中でも息子が父親の真意を知って流す涙は感動を誘わずにはいられない。
しかし演出に関しては上述した通り、ミステリーで絶対にやってはいけないことをやっていることもあり、並み以下であり、監督の技量がいかに映画全体に大きな影響を与えるか?を示す悪い意味での良い見本である。

全体的にはミステリー作品としては中の上といった感じだが、東野圭吾原作・TVシリーズの映画化という宣伝が「容疑者Xの献身」という傑作を連想させてしまい、嫌でも比較させてしまうためにマイナス思考になってしまうという、本来の宣伝目的とは逆の結果をもたらしてしまった。

一口コメント:
同じ東野圭吾原作のTVドラマの映画化作品「容疑者Xの献身」と比べると完敗の作品ですが、ミステリーとしては演出面を除いては見ごたえのある作品です。

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