お く り び と
採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2008年8月10日(DVD)
主演:本木 雅弘、広末 涼子
監督:滝田 洋二郎

楽団の解散でチェロ奏者の夢をあきらめ、故郷のに帰ってきた大悟はNKエージェントという会社の"旅のお手伝い"という好条件の求人広告を見つける。面接を受け、その場ですぐ採用されるが、仕事の内容は予想外のものだった。それは遺体を棺に収める仕事、"納棺"。当初は戸惑っていた大悟だったが、さまざまな境遇の別れと向き合ううちに、納棺師の仕事に誇りを見いだしてゆく。

久しぶりに純粋に心の落ち着く日本映画を見た。人の死を扱った映画であるにも関わらず、心が温かくなるストーリーはもちろんだが、ところどころに笑いを入れている点も共感する。従来の日本映画であれば、死人を笑いのネタにするということはしなかったが、この作品は、一部ではあるが、それをしている。これはハリウッド映画が得意とする手法である。(といっても、そこまでの大爆笑というわけではないが・・・)

この映画を見終わって、なんとなく良かったと思う人は多いと思う。それは納棺師という、映画の中でも言われていたが、"隙間産業"であり、普段スポットの当たることのない職業を主題にしていて、知らないものを垣間見れたという、一種の満足感のようなものから来るのだと思う。
この作品の題名にもなっている"おくりびと"=納棺師とは亡くなった人に化粧をし、旅立ちの衣装を着せ、その人なりの美しさを最大限に表現して、遺体を棺に納める職業である。この作品の中ではこの納棺師という仕事に対する周りのリアクションがどうも極端すぎる感じがした。納棺師をまるで水商売関係者のように皆が嫌っている上に、蔑むような描き方をしているが、実際、そこまで忌み嫌われるような職業なのだろうか?特に大悟の妻が"汚らわしい"と言うシーンは、そこまで言うか!?とちょっと引いてしまった。この台詞を言うことで、妻の気持ちを表すだけでなく、納棺師という職業に対する世間の見方を端的に表したかったのだろうが、自分の感覚からすると、納棺師=汚らわしい職業という方程式は成り立たない。だから、このシーンが非常に押し付けがましく思えた。

また納棺師という職業に就いた大悟が短期間で仕事が出来るようになっているのもリアリティーがない。例えば、社長と2人で訓練するシーンを入れるだけで、この問題はクリアできるのだが、そういった描写は一切ない。


とはいえ、この作品は1シーン、1シーンは非常に綺麗で、見ごたえのあるシーンが多い。
例えば、死後二週間たった遺体を見て家に帰った後、妻を求めるシーン。
例えば、納棺をする前に体を清め、化粧をしているシーン。
例えば20年前に生き別れた父親との思い出の一つの「石文」のやり取りのシーン。
など、本当に素晴らしいシーンがいくつもあるのだが、いかんせん1つの作品として全体を通して見ると、いまいち最初から最後まで、通して見て良かったという感覚が他の作品に比べて薄い。
その最たる例が、主人公がチェロ奏者を夢見ていたという設定。チェロ奏者でなくても、物語の進行には何の問題もない。しいて言えば、クライマックスで河原で1人演奏するシーンがあるのだが、そのシーンだけを見れば非常に綺麗なシーンなのだが、物語のつながりを考えると、明らかにあのシーンだけ浮いている。例えるなら、とても重厚な人間ドラマを描いていたのに、突然そこだけがミュージカル映画に変わったような感覚だと言えば、わかってもらえるだろうか?

納棺士という仕事の実態を知らない人が多いと思われる日本に現状からすると、この隙間産業を描いた作品は、知らないものを知るという人間が持つ知識欲を刺激する、ことさら自分の場合はかなり刺激された。
が、上映時間が2時間強と、内容の割りに正直、ちょっと長かった。
これがTVのドキュメンタリーなどであれば、満足度も高かったのだろうが、お金を払って見る映画としては、やや物足りない内容だった。

一口コメント:
納棺師という職業を教えてくれるTV番組なら、満足度の高い作品でした・・・。

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