ワンピース エピソード・オブ・アラバスタ
砂漠の王女と海賊たち

採点:★★★★★★★☆☆☆
2010年4月30日(DVD)
原作:尾田 栄一郎
監督:今村 隆寛

いまさらって感がないでもないが、初めて映画版「ONE PIECE/ワンピース」を見ました。その個人的第1弾は"アラバスタ編"。

グランド・ラインをアラバスタ王国に向かって突き進む、ゴーイング・メリー号。そこには、アラバスタ王国の王女・ビビもいた。砂漠の国といわれるアラバスタは、悪の秘密結社バロック・ワークスの暗躍により王国崩壊の危機に直面していた。ビビは組織の正体を暴くため2年前に国を出て、やがて諸悪の根源が国の英雄・クロコダイルだと知る。そして今、ルフィらルフィ海賊団という心強い仲間を得たビビは、父親でもある国王コブラと国の人々を救うため、いざアラバスタへ! その頃アラバスタでは、クロコダイルの陰謀により、国王軍と反乱軍の全面戦争が始まろうとしていた・・・。
両軍を激突させ、国が弱体化したところを乗っ取ろうと企むクロコダイルは、国王軍・反乱軍の両方に手下を潜入させ、確実に両軍が対立するよう周到に計画を進めていた。事態を知ったルフィたちは、一刻も早くビビを国王のもとに送り届けようとするが、その行く手にクロコダイルと彼のパートナーであるロビン、そしてMr.ボン・クレーら手下どもが立ちはだかる。

一言で言うなら、上映時間に対して、登場人物が多すぎて、一人一人に焦点を当てる時間が足りない。結果、ルフィ、ビビ、クロコダイルの3人以外は居ても居なくても、そこまで差し支えなかった感が否めない。わかりやすく例をあげるなら、「オーシャンズ」シリーズだろう。この作品も登場人物が多すぎて、一人一人の個性などを紹介する時間が足りなかった。
そしてもう1つどちらの作品にも共通するのが、上映時間が足りないものの、1つの作品として、最低限の完成度を保っているということ。特にこの作品に関しては、満点とは言わないが、3部作くらいにしたなら、もしかすると歴史に残る傑作になっていたかもしれない・・・それくらいストーリーが良い。

無論、原作やTVアニメのようにそれほど長い時間をかけて1人1人のキャラの説明や、1つ1つの小話、複数の伏線を張り、回収する時間はない。
例えば、クロコダイルがなぜ英雄なのか?という説明がないのに、国民がクロコダイルを支持しているシーンが挿入されているが、途中で実はクロコダイルが王国崩壊の影の仕掛け人であることがわかる。その過程の説明も当然ないが、そこは脳内で過去に見てきた映画やTVドラマのセオリーから推測・補完することができる・・・、というか、しなければならない。
原作ファンからはその推測・補完過程に散りばめられた伏線に感動の種が埋められているのに・・・という意見が大いに出そうだが、それをしていては3部作以上になってしまうので、この作品に関しては、TVアニメでは10時間以上の物語を良くぞ90分という上映時間に納めたという点を評価したい。
個人的にはせめて120分の上映時間にはできなかったのだろうか?という思いもある。これが東映ではなく、東宝の配給でドラえもんやコナンくらいの興行成績を過去に収めていれば、話は違ったのだろうが、そこはやむを得まい。

さて、それではなぜ90分という短時間に、10時間以上の物語を凝縮できたかというと、極力物語をシンプルに、そしてこういった善悪もののセオリーに沿ったものにしたから。
善の象徴であるルフィ一行、その行く手を阻む悪の象徴、クロコダイル。そしてこの善悪の戦いに巻き込まれてしまったヒロイン・ビビ。ヒーローと悪の親玉、そしてヒロイン。定番中の定番である。
それに伴い、サブ・キャラクターたちの活躍はかなりバッサリ削られている。ゾロ、サンジ、ウソップ、ナミ、チョッパーとバロックワークスのナンバーズの戦いなど、その最たるものである。ナンバーズに関しては、自己紹介もなく、いきなり戦いが始まってしまうのだから、初めて見る人にとっては、誰だ、こいつら?で終わってしまう・・・。
また水が枯れてしまったユバの町のおじいさんのエピソードも初めての人にとっては???だろう。どうせ大幅にカットするなら、このエピソードもカットしても良かったのではないだろうか?

それでも全編を通して、誰かがどこかで戦っている展開のため、退屈はさせないし、クロコダイルが徹底的に悪役になっていることで、物語の1つの主題でもある"仲間"というキーワードは最初から最後まで貫かれており、"友情"は裏切らないというメッセージもしっかりと謳われている。
キメの場面は劇画調で迫力もあり、1人のキャラのアップから広大なアラバスタへと引いていくカメラ・アングルや空・海を駆けるシーンも迫力がある。さらに、これは原作を知っているからかもしれないが、腕に記された×印をみんなで掲げるあのラストシーンは涙なしでは見れなかった。

90分という上映時間を踏まえて、映画としての完成度を高める方法があるとすれば、ビビが回想するという設定に変更すること。オープニングが途中につながるという意味での回想はあったが、どうせなら、×印のところから回想に入ってもらい、終始ビビの回想という形でストーリーを進めた方が、一つの映画作品としては完成度は高くなっていたのではないだろうか?

一口コメント:
この映画単体でも泣けること、間違いなしですが、時間があるなら原作をお勧めします。

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