ボクたちの交換日記
採点:★★★★★★★★★☆
2013年4月17日(映画館)
監督:内村 光良
主演:伊藤 淳史、小出 恵介、長澤 まさみ、木村 文乃、川口 春奈

子供の頃から好きだったウッチャンナンチャン。そのウッチャンはもともと映画監督になるために芸能界に入って、この作品が2作目・・・ってことで見に行った作品。

甲本と田中はお笑いコンビ・房総スイマーズを結成して12年。営業や前説などで食いつないできたが、2人とももう直ぐ30歳。面と向かって本音を言えない2人は交換日記を始める。お笑いの大会に出場し、一次予選、二次予選と順調に勝ち進んでいく。20組が残った準決勝、大事な場面で甲本は台詞が飛んでしまう。
この大会後、2人は解散の決意を固め、甲本は1年にわたる海外ロケへと出発する―――。

号泣・・・。
数年ぶりに映画館で泣いた。自分の過去と重なる部分が多くあり、心の奥深くをえぐられた感じ。といってももちろん芸人だった過去があるわけでもなく、芸人を目指したこともない。
お互いを思いやりながらも不器用で思いを伝えられない2人が、面と向かっては直接言えない言葉も交換日記なら言い合えるだろ?のアイデアで始まったこの作品。この"面と向かって言えない+文書だと冷静に伝えられる"という設定、誰しも共感できる設定だと思う。そして夢を追いかけて、ちょっとだけ夢に近づけた!と思ったら、やっぱり挫折して、しばらくしたらまた夢に近づいて、再び挫折して・・・大きな苦労と小さな成功、この繰り返し。これもまた誰もが共感する部分。
夢を真剣に追いかけたことがある人間なら誰もが共感できる作品だと思う。夢を追うことが格好良い!とか、夢を諦めた人間が新しい夢を見つけて奮闘する映画は一杯あるが、夢を諦めることが格好良いことだと教えられた作品はこの作品が初めてかもしれない。

夢を追いかける主人公を描いた映画は過去にもたくさんあったが、この作品がそれらの作品と違ってわかりやすかったのは、お笑いがテーマだった点かもしれない。例えばスポーツだったり、弁護士や医者といった限られたエリート世界の仕事だったり・・・といった通常理解しにくい一部の特殊設定ではなく、日本人なら誰もが理解しやすい"お笑い"、かつ共感しやすい"生活感"がこの作品の根底にある。
テレビでは一流のお笑い芸人だけでなく、売れない芸人の生活なども放映されており、一般庶民にもその生活ぶりは伝わりやすい。いやむしろ、一般庶民のほうがより豪華な生活を送っているとも言える。そこを甲本と田中の2つの視点を使い分けながら、2人それぞれの心の葛藤や苦悩などが上手く描いていることもあり、あぁこの苦労わかる!的なあるあるネタがそこかしこに発見できる。

1年間の海外ロケから戻った甲本。そしてテレビで活躍するかつての相棒を見て「オレ、お笑いやめるわ」と妻に向かってつぶやく。その時点でウルウルしていたが、直後に何も聞かずにただ一言、「お疲れ様」と言う妻の言葉に涙が零れ落ちた。それ以降最後まで泣きっぱなし。解散直前に公園で漫才をしているシーンはお笑いのネタを披露しているにも関わらず、涙無しには見られなかった。
17年後に明かされる解散の真実、そして再び始まる交換日記・・・。このあたりの流れも一級品。一体どんな結末を迎えるのだろう?という期待が最後の最後まで引っ張られる緊張感もたまらない。
またテレビ局のプロデューサーに解散を迫られ、殴ろうと思った甲本。しかし殴れなかった。それは甲本自身が同じことを考えていたからだった・・・なんて切ない。
そして「夢を諦めて良いのは、夢を諦める以上に誰かを幸せにしたいと思った時だけだ!」との甲本の台詞。この台詞だけでもグッと来ていたところに、「その誰かが父の場合は、母と私と・・・田中さんだったんですね」の娘の台詞で止めを刺され、涙の防波堤が崩れ落ちた。

マイナス要素を語るとすれば、長澤の看病シーンの稚拙さが挙げられる。一瞬、中学生の妄想か?と思わざるを得ない稚拙な感じはあったが、最後にオチをつけているので、狙ってそういう演出にしたのだろうとも考えられる。
そして17年後。ここはかなりひどい。演出がひどいとか、演技がどうとか、ストーリーがどうとかってわけではなく、特殊メイクの問題。小出、伊藤、長澤の主要キャラクターがとても17年経ったようには見えない。これは監督の力量と言うよりはプロデューサー、スタッフ、予算の問題なのだが、かなりレベルが低い。
しかしこの作品に関していえば、そんなことは些細な問題であり、映画としての大勢には影響を与えない。

というのも上述したように夢を追いかけた経験を持つ人は涙無しでは見られない後半の展開、そしてそこにいたる過程としての前半部分"さすがウッチャン!"の漫才、このバランスが最初から最後まで一貫しているから。
漫才のレベルはもちろん高く(タクシーのネタはさすが!)、劇場内も笑いに包まれるのだが、それを全部見せるのではなく、必要最小限、あくまでも映画を進行させる一要素として描かれているだけ。要するに、描いているのはあくまでも"映画"であり、"漫才"ではないのだ。さすが映画監督になりたくて芸人になったウッチャン。他の芸人監督とは一味も二味も違う。"笑い"のバランスと"映画"のバランスが絶妙だ。
また2人の水泳シーンを俯瞰で撮影したものが3度挿入され、その時々の2人の気持ちのシンクロ具合を上手く表現しているあたりは映画らしい演出と言える。また喫茶店でのネタ作り、公園での稽古、ネタをしても誰も聞いていない営業・・・"芸人のリアル"に関してはウッチャンの力量が冴え渡る。さらに悪役を登場させず、主人公に感情移入させるあたりの手腕もウッチャンならではかもしれない。

キャスティングに関して言えば、女優陣がやや美人ぞろいな感は否めないが、伊藤淳史と小出恵介のコンビは素晴らしいキャスティングだった。実際にこの2人の漫才を見てみたいと思ったし、2人のボケと突っ込みのバランスも絶妙。ネタを書き、マジメな田中(伊藤)が提案しそうな交換日記をチャラチャラして軽い感じの甲本(小出)が提案する掴み、それを一言"嫌です"とだけ書きながら、マジメに日記上で返答する田中。この2人のバランス、キャスティングは素晴らしい!
そしてウッチャンの人脈が生きたキャスティングも見逃せない。入江さん、遠山さんといった懐かしい面々からベッキーや竹山さんなどの現在が旬のタレントまで、その幅広さも見所の一つ。

そして何より小出恵介の演技=この作品における感動要因の最大の功労者。彼の演技に泣かされたといっても過言ではない。特にコンテストで台詞につまるシーンは見ているこっちも辛くなったし、プロデューサーに解散を迫られた際の演技も素晴らしかった。
そして名台詞が多かったのも小出恵介。上述の「夢を諦めて良いのは~」、「あのとき"ウザイ"と思ったことが、今ならわかる。」、「"やろうと思っている"と"やる"の間には大きな川が流れている。」など、子供の時にはわからなかったことでも大人になった今ならスッと心に入ってくる。

久しぶりに映画館で号泣した映画、一度でも真剣に夢を追いかけたことがある人にはぜひ見て欲しい作品です。

一口コメント:
夢に向かって頑張ったことがある人なら、誰もが共感できる作品だと思います。

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