冷静と情熱のあいだ
採点:★★★★★★☆☆☆☆
2001年12月1日(映画館)
主演:竹野内 豊、ケリー・チャン
監督:中江 功
原作:江國 香織、辻 仁成

原作が300万部突破のベスト・セラー、主演は日本と香港を代表するスター、主題歌はENYAということで、期待の高かった作品。公開後「千と千尋の神隠し」を引き落とし、2週連続一位を記録。

絵画の修復士を目指す順正はフィレンツェの工房で修復をしていた。その才能は同僚や先生までもが認めるほど素晴らしいものであったが、心の中には昔、愛した女性あおいがいて、忘れる事ができずに空虚な日々を送っていた。
イタリアを訪ねてきた友人から、あおいがミラノにいることを聞き、会いにいくが、あおいに会いはするものの、あおいは青年実業家と一緒に暮らしていて、順正が抱いていたわずかな希望は崩れさる。
フィレンツェに戻った順正を更なる悲劇が襲う。修復していた絵画が何者かに切り裂かれていて、その事件で信用を失った工房は一時閉鎖になり、順正は逃げるように東京に戻ってくる。そして東京で友人から2人が別れることになった原因の裏に隠されていた真実を聞かされる。
それを聞いた順正は、10年前に冗談半分で交わした約束にかける。「あおいの30歳の誕生日にフィレンツェのドゥオモに登る」という約束に・・・。

主なストーリーはこんな感じだが、これ以外のストーリー展開も面白い。特に順正の友人役のユースケ・サンタマリアがいい味を出している。あおいとの再会の原因でもあり、あおいと順正が別れた原因の真相を話すのもユースケであり、この真相を聞いて、順正のあおいに対する気持ちが再度高まっていくのだから、順正とあおいの転機には必ず、ユースケの影が存在していると言える。ユースケ自体はしがないサラリーマンだが、順正に対する友情の描き方がすんなりと心に入ってくる。狙われた描き方ではなく、ごく自然に友情の良さを感じさせてくれた。
また、10年という流れを過去から未来へと一方通行で描くのではなく、現在から過去に戻ったり、その逆を辿ったり、ともすれば話の流れがわかりにくくもなりそうな描き方をしているが、それがとても巧みに描かれていて、話の流れがわかりやすく、主人公の気持ちの変化も非常に繊細に描かれている。
さらに時間的な変化だけでなく、空間的な変化もこの映画の重要な要素だと思う。フィレンツェから始まり、ミラノ、東京での、2人のそれぞれの生活を描く。そこに10年間という時間が絡んできて、ストーリーに深みを持たせている。
男と女が、10年前の約束を果たすというだけの映画であったら、面白みのない、ありふれた映画の1つになっていたのだろうが、数年前に別れた2人が1人の友人を通して再会するという設定で物語が始まり、過去を思い出として描きながら、ストーリーが進み、主人公の気持ちの移り変わりの基点は常に現在にあり、現在から見た過去の感情を描くことで、主人公の切なさが痛いほど伝わる。
そして約束を果たした後の2人に、10年前の思い出が2人に甦るシーンがありますが、自分はこのシーン、かなりお気に入りです。

恋人と交わした約束がなかったか?と振り返り、心のどこかにその人が存在しているのなら、おそらく幸せな気持ちになれるのではないかと思います。
自分の場合は映画館を出た後、ふと10年後の自分を想像してしまいました。

一口コメント:
過去の約束を振り返ってしまう作品です。

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