リアル鬼ごっこ |
日本全国の"佐藤さん"が無条件に鬼ごっこに参加させられ、捕まったら殺されてしまうという、その設定をどこかで読んだだけで、ぜひ見てみたいと思っていた作品。
"佐藤"姓を持つ人が次々と死んでいくという不可思議な事件が起きていたある日、佐藤翼は、現在と平行して存在する別世界に"パラレル・スリップ"してしまう。
王政が強いられたその世界では、王の命令で、佐藤姓の者だけを捕まえて処刑するという"リアル鬼ごっこ"が行われていた。
面白かった!久々に脚本ではなく、アイデアに魅せられた作品である。ある意味スピルバーグのデビュー作「激突!」やあるいは、ガキ使の「24時間耐久鬼ごっこ」に共通するものがある。
"佐藤"という姓を持っているだけで、無条件に鬼に追いかけられ、殺されてしまう。
その裏に一体どんな理由があるのか?
何故"田中"や"伊藤"、"鈴木"ではなく、"佐藤"なのか?
こうした理不尽な理由で殺されてしまう恐怖。しかもその処刑方法が"鬼ごっこ"というのが、実に面白い。
車社会の現代にありながら、自分の足を使って、全速力で逃げる。ある意味で、これ以上ない最高のシチュエーションとも言える。
突然、街中で武装した誰かに追いかけられたら、大抵の人は逃げるのではないだろうか?しかも銃で一発で殺されるのではないというのが、また恐怖心を煽る。
その鬼のデザインもなかなか面白い。全体的に黒くまとまっている中で、目にあたる部分だけが、赤く光るというデザイン。全体的にB級映画の雰囲気が漂う作品にマッチしたデザインである。
またこの鬼ごっこにはルールがある。逃走に乗物を使用するのはご法度。鬼ごっこが行われる時間は決まっており、合図と同時にその日の鬼ごっこは終了。
そしてこの鬼ごっこによって、"佐藤さん"は毎日減っていくが、追手の数は変化しないので、"佐藤さん"一人当たりの鬼の数がどんどん増えていくというもう1つの恐怖。
この辺りの設定が本当に面白い。
また、一生懸命に逃げる"佐藤さん"と、それ以外の人間との間にあるギャップが面白い。アナウンサーが、主人公にインタビューするシーンがそれを端的に表していて、"佐藤さん"にとっての理不尽さを強烈に訴えてくる。
そして、制限時間がある鬼ごっこという設定。この制限時間内における鬼は残虐そのものなのに、制限時間を超えると残虐という言葉とは正反対にピタッと追うのを止めて、帰宅する。しかもその戻る場所が「鬼ごっこセンター」という名称。この何とも言えないB級っぽさがたまらない。
しかも鬼ごっこ開始時にかかる「元気一杯、鬼から逃げてください」というアナウンスがこの路線に拍車をかける。
このどこかくだらない感じのB級っぽさが、この作品には妙にマッチしている。というか、B級っぽさがなければ、この作品は成立しないかもしれない。
というのも、パラレル・ワールドが存在し、そのパラレル・ワールドの設定があまりにもB級の王道を言っているから・・・。
そのパラレル・ワールドだが、過去や未来に行くタイム・トラベルではなく、並列的に存在するもう1つの世界に行くという設定。そのパラレル・ワールドに存在するもう1人の自分が死ぬと、別の世界の自分も死んでしまう。
このパラレル・ワールドのルールをチェス盤で説明するアイデアは、非常にわかりやすくて良かった。
しかし、この「片方の世界で人が死ぬと、もう1つの世界の同一人物も死ぬ」というルールは納得できるものの、そこから「片方を助ければもう片方の人物も助かる」というルールを作り出すのはちょっと無理がある。
しかしそこを救うのがこの作品全体に漂うB級っぽさ。B級映画だし、そこは許そうという気にさせられる。
他にも最後の方で、妹が国王の横で、鬼ごっこの始まった理由を説明しているシーンも、本来であれば、理由知ってるなら、最初から兄に伝えろよ!という突っ込みを入れたくなるシーンも、B級パワーでスルー。
鬼ごっこが終了するまでのスピード感あふれる演出はほぼ満点に近かったが、鬼ごっこ終了後の説明部分がトーンダウンしてしまった感が否めない。それでも全体的に見れば面白かったといえる作品です。