SP 野望篇 |
深夜枠放送のTVドラマとして、歴代一位の高視聴率を記録した「SP 警視庁警備部警護課第四係」の劇場版第1作。ドラマの最終回放送時に映画化決定!のニュースが流れてから2年半の月日を経て、ようやく公開された作品。
警視庁警備部警護課第四係・SPの井上は、自殺した理事官に対して「大義のためだ」と上司である尾形が発した言葉に、不信感を抱いていた。1ヶ月後、六本木ヒルズのイベントで警護に当たっていた井上は、爆弾テロを起こそうとする不審な男を事前に察知、追跡劇の末に男を逮捕する。
尾形は公安に目をつけられながらも、党代表という地位に上り詰めた伊達の元に集まり、高級官僚として要職に就く同士のメンバーと共にあるテロ計画を実行する策略を練っていた―――。
ある日、第4係のメンバーらが伊達の警護任務を終えた直後、北朝鮮が日本に向けてミサイルを発射したという情報が入り、第4係のメンバーはこの事態に対応するために国会議事堂に向かう官房長官の警護を担当することになる。そしてそこにテロリストが襲ってくる―――!!
2部作の前編ということで、基本的には謎は未解決のまま終わってしまった。しかもTVシリーズを見ていない人には思いっきりわかりにくい始まり方。あくまでもTVシリーズの続編的位置づけとしての映画である。
その証拠にタイトル・ロールは最後まで出ない。映画としては極めて異例。しかもEpisode Vの文字が入っており、TVシリーズで語られた4つのエピソードの続きと宣言しているのだから、もうこれはTVシリーズのファンのみに向けて作られた作品と言っても過言ではない。
アクション・シーンに関してはTVシリーズの時点で、これは映画にしたら格好良くなるだろうと思っていたが、その想像以上のものに仕上がっていた。特に冒頭のチェース・シーン。日本映画史上でも稀に見る完成度。"ジェイソン・ボーン"シリーズのような派手さはないが、抑えの効いた演出に手に汗握る興奮とでも言えば良いだろうか?
この冒頭のチェースだけでも、この作品を作った価値があると言っても良い、それくらいのハイレベルなアクションです。
しかし、その後の展開がいまいち盛り上がりに欠けるというか、穴だらけというか、TVシリーズの方が興奮したぞ!というシーンの連続。
まず多分誰もが思うことだが、なぜ拳銃を使わない?
官房長官を護送するシーンは4回に分けて(4回目は未遂に終わるが・・・)、テロリストが襲ってくるのだが、1回目に相手が銃を使ってきて、それに応戦する形でSP側も銃を使っているのだが、2回目、3回目は相手が銃ではないからか、SP側も銃を使わない。それならそれで銃を使うのは3回目以降にして、1回目、2回目は銃以外での格闘シーンにすべきではないか?1回目に銃を使っているのに、2回目以降に使わない理由がないのに、銃を使わないことでトーンダウン。
そして犯人側の対応。
1回目はマスク+拳銃で襲ってきたにも関わらず、2回目は素顔+ナイフでの襲撃(劣化している!?)。そして3回目は再びマスク+ボーガン&爆弾、という意味不明な襲撃順序。襲撃を単発で見れば、各襲撃ごとに盛り上がるのだが、順番をきちんとしておけば、更に盛り上がっただけに残念。
そもそも政治家が裏で絡み、国家を揺るがすはずのテロなのに、なぜ動きずらいマスクをつける?映画的に恐怖感を煽る目的というのはわからなくはないが、つけるならつけるですべての襲撃でつけておかないと意味がない。
そしてそもそもなぜ誰も応援を呼ばないのか?というのが疑問。尾形には連絡するが不通という断りはあるにはあるが、SPじゃなくて、普通の警官を呼ぶなり、いくらでも対処があっただろうに・・・。
さらに悪いことに「ホテルで一旦休みましょう。」という井上の提案に対して、「ホテルの皆さんに迷惑かけたくない」と断る官房長官。いや、ホテルで客待ちしてるタクシーに乗れよ!と突っ込みたくなる。
2年半の準備期間があったわりには、このクライマックスの部分の脚本が甘いといわざるを得ない。
お笑いに関してはTVシリーズから引き続き、お笑いキャラが決まっていることに加えて、トラックの運ちゃんがダイヤモンドユカイというミスマッチなキャスティングに笑わせてもらった。
それと3度目のテロリストの襲撃の際、爆弾を投げ返すあたりは、右脳でそれはねぇだろ!とか思いながらも、左脳は格好良い!と思わせてもらいました。
冒頭にも書いたが、これはあくまでもTVシリーズの続編としての映画であるが、映画版が初めてという人に最低限の説明をしないといけないと思うのが、井上のシンクロ。映画版から見た人は井上が超能力か何かで、危機を察知しているかのように見えるというか、そうにしか見えないだろう。
超能力ですべて解決しているように映ってしまっては、この作品の醍醐味が半減してしまう。TVシリーズで説明されていることをまとめると、井上は異常な記憶能力と、緊張状態になると発揮される異常な頭の回転の速さと鋭くなる五感を持っていて、それから論理的に思考した結果、導き出した危機予測なのだが、映画だけを見ると超能力のように見えてしまう。この能力に苦しむ主人公の心の葛藤が浅く、それが脚本の浅さにもつながっているように思えた。
何にせよ、冒頭のチェース・シーンを除いて、TVドラマのエピソードを見ていた時ほどの興奮がない、というのがこの作品の評価ということになるのだろうが、前編の伏線をキレイに回収するなど、後編の内容次第では、化ける可能性もある。それは感じさせてくれる作品です。