STAND BY ME ドラえもん |
劇場公開時に見に行きたいとは思いつつ、なんだかんだでタイミングが合わず、見に行けなかった作品が地上波初放送ということでTVで鑑賞した。
運動オンチで勉強もできないのび太の前に、22世紀から玄孫・セワシが猫型ロボットのドラえもんと一緒にタイムマシンでやってくる。のび太が作った借金が原因で、セワシの代までずっと被害が及んでいたので、のび太のためにドラえもんを連れてきたのだった。ドラえもんはのび太が幸せになるまで未来には帰れないようにセワシによって設定され、しずかちゃんとのび太を結び付けるために悪戦苦闘の日々が訪れる・・・。
聞いていた通りに泣けるドラえもんでした。
原作の第1話から始まり、いくつかのエピソードをうまくつなぎながら、事実上の最終回とも言われる「帰ってきたドラえもん」で作品を締める・・・この一連の流れが非常に上手い。ドラえもんとの出会いから、しずかちゃんとの馴れ初め、そして別れ・・・、本来は1つ1つ独立したストーリーを無理やり感や強引さもなくスムーズにつなげていて、脚本が非常によく練られているというのが伝わる(もしかしたらダイジェストだとか、音楽で言うところのベスト盤だという人もいるかもしれないが・・・)。
原作モノの改変に対してはマイナスに働くことが多い日本映画界だが、この作品に関してはプラスに働いたと言って良いだろう。ストーリーを繋げるために加えられた、ドラえもんが未来に帰らなければならない理由、鼻のダイアル機能などの独自要素はプラス方向に働いている(これをマイナスだと言う人もいるかもしれないが・・・)。
さらにのび太の特技である"あやとり"も織り込まれているし(さすがに射撃の腕前については触れられていなかったが・・・)、秘密道具の数々もCGを使ってアニメよりもリアルに表現されている。例えばアニメの中では何の苦も無く使いこなしているタケコプターも最初は慣れるまで時間がかかったという描写を入れ、さらにそれをCGを使ってハリウッド製アニメのような躍動感あふれる演出にすることで秘密道具のリアルさだけでなく、のび太の不器用さもリアルに描いている。そのほかの秘密道具も"22世紀感"が溢れる形で表現されていて、今回セル画形式ではなく、CGアニメにした理由も十分に表現されていると言える。
しかし日本の国民的アニメということで良い意味でも悪い意味でも、いろいろなしがらみもあったということもいくつか見られた。
例えば大人ののび太の声優がTOYOTAのCMつながりで妻夫木が演じていたり、そのTOYOTAのロゴが"結婚前夜"の街中で見られたり・・・。同じくCMつながりでPanasonicの看板もやたらと目立っていた。
作品の前半はキャラ設定や世界観の説明などもあり、ドラえもんらしいのんびりとした展開が続いたが、後半は怒涛の展開で涙・涙の流れだった。
それもそのはずで個人的に号泣3部作の内、2作がこの作品の最後を飾っている。「のび太の結婚前夜」と「帰ってきたドラえもん」の2作がそれだ(「おばあちゃんの思い出」も見てみたかった・・・)。中でも"結婚前夜"の中でしずかちゃんのパパの台詞は何度聞いても泣ける。
「人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる。」
このセリフ自体はドラえもんだけでなく、無限にある日本アニメの中でも五本指に入るといっても過言ではない珠玉の名言だと個人的には思っている。しかし、このセリフには前振りが必要だ。このセリフはもちろん、のび太のことを指し示しているのだが、のび太が"人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる"というエピソードがこの作品の中では描かれていない。のび太の心の優しさを示すエピソードがあれば、この日本アニメ史上に残る名言がより一際輝いただけにその点だけは残念だ。
「結婚前夜」の中で今回初めて感じたのが、バチュラー・パーティーのシーン。結婚前夜にのび太、スネ夫、ジャイアン、出木杉の男4人だけで飲むシーンがあるのだが、このシーンは昔も見た覚えがあるのだが、当時はそんなことは思いもしなかったが、自分がお酒を飲むようになり、アメリカに10年近く滞在し、バチュラー・パーティーの文化に直に触れたこともあり、このシーンが持つ重みというのを感じるようになっている自分に驚いた。
そして最後の「帰ってきたドラえもん」も盤石の内容で、結末は知っているのに空き地でジャイアントの対決に挑むのび太とそれを陰ながら見るドラえもんの涙に涙するし、"うそ800(エイトオーオー)"の効果と使い方にも涙せずにはいられない。映画館で見ていたら大人も子供も泣いていたのだろうか?なんて考えがふと頭をよぎったりもしたが、自分は当然号泣していただろう・・・。
もう1つ気になったシーンは、"結婚前夜"の中で子供ののび太が大人ののび太に向かって「ドラえもんに会ってくれば?」と言ったのに対して、「ドラえもんは子供の頃の友達だから・・・」と答えたシーン。かなり意味深でいくつかの解釈ができるのだが、大人になって劇場まで足を運んでいる観客に対しては刺さる台詞なのではないか?
少なくとも自分はいろんなことを考えさせられる台詞だった。
この作品の続編はストーリー構成上、難しいのかもしれないが、大長編ドラえもんのCGストーリーを見てみたいと思わされたのは事実で、もし機会があれば、「日本誕生」とか「鉄人兵団」あたりを見てみたいものです。