ストロベリーナイト
採点:★★★☆☆☆☆☆☆☆
2014年1月12日(DVD)
監督:佐藤 祐市
主演:竹内 結子、西島 秀俊、大沢 たかお

TVドラマのクオリティが非常に高いと評判だった同名タイトルの劇場版ということで鑑賞した作品。

ある雨の夜、暴力団員の刺殺体が発見される。遺体の状況は先に起きた2つの暴力団員殺しと一致する部分があり、連続殺人事件として捜査一課と対暴力団チームとの合同捜査会議が行われる。しかし、単純な暴力団内の抗争と見るチームとそれに疑問を持つ捜査一課は対立し、別々に捜査を進めることになる。
その会議後、姫川は犯人は柳井健斗だという密告電話を受けるが、昔柳井の父と姉が関わった警察の不祥事を世間に知られたくない上層部から捜査に対して圧力がかかる。しかし姫川は部下たちを巻き込まないよう、単身捜査を始める。柳井の部屋を訪れたところで不動産会社の社員と名乗る牧田という男と出会う。しかし牧田の正体は殺された暴力団の若頭で情報屋の柳井に会いに来たのだった・・・。

う~ん。何でこんな風に仕上がってしまったのだろうか?TVドラマシリーズという映画よりも長い壮大な予告編で期待を煽られまくった結果が、この仕上がりだとするととても残念だ。あるいはTVドラマのクオリティが高すぎた・・・と言うべきかもしれない。
まず問題なのが脚本。原作がどうなっているのかはわからないが、登場人物のキャラ描写がなさ過ぎる。観客全員がTVドラマを見ているという前提ならまだしも、仮に見ていたとしてもドラマが終わってから時間が経っている状態で見る、あるいはTVドラマなしで見る人も多いのに、登場人物に対する説明がまったくない。主人公である姫川ですらどんな人物か?という点においては赤いバックを持っている何かトラウマを持った、自分の信念を曲げない女性だということしかわからず、この劇場版の肝とも言えるトラウマの原因が描かれていない。だから劇場版から見た人には何がなんだかわからないまま牧田と結ばれてしまうように映るのではないだろうか?
また菊田の姫川に対する想いもそれとなく伝わるがやはりTVドラマを見ていないとその切なさの深さが伝わらないのではないだろうか?思いを寄せる姫川が目の前で牧田に抱かれるシーン、一瞬駆け出した菊田がその歩みを止め、車へと引き返した瞬間はものすごく切ないはずなのだが、菊田という人物がどんな人間か?の説明がないので、劇場版だけを見た人には駆け出した瞬間の思いと車へ引き返した瞬間の思い、この2つの相反する気持ちが同居する理由が伝わらない気がする・・・。

その姫川も自分と同じように闇を心に抱えた牧田に惹かれるのはわかるとしても、あんなに簡単に体を許してしまうような女性だっただろうか?劇場版から見た人には一度だけの関係として伝わるかもしれないが、今度は逆にTVシリーズを見てきた人に対して姫川のキャラ設定からはあり得ない描写として違和感を与えるのではないだろうか?
そして刑事としての姫川もTVシリーズとは異なった人物として描かれている。例えば柳井を訪ねるシーン。TVシリーズならより慎重に柳井の行動を把握した上で接触していたはずだし、最後に「誰か、救急車を!」と叫ぶシーンも自分で電話をかけるキャラだったはず・・・。

続いて姫川班の面々。キャラ描写がないので仕方ないといえば仕方ないが、誰がどんな役割を担っているのかまったくわからない・・・。さらに捜査状況の描写もほとんどない。これなら姫川班として登場させる意味がない。姫川+菊田+その他の捜査員という描写で十分だ。
そして武田鉄也と遠藤憲一演じるベテラン刑事二人。この二人もTVドラマで描かれていたキャラ設定と大きく異なる。180度とは言わないが、100度以上は違う。TVシリーズはなかったことになったのだろうか?それならそれで最低限タイトルを変えるくらいはしてほしかった。

総じて映画版のキャラとTVシリーズのキャラがずれていてTVシリーズを見ていた人には違和感を与えるというTVシリーズの映画化としてはとても残念な人物描写ばかり。脚本化が変わりでもしたのか?というくらい不思議な脚本です。
またストーリーも、サスペンスとしては、殺人の動機がありきたりな上に、最後の最後でその動機を裏返すような殺人まで犯してしまい、一体なんだったんだ?感は否めない。
そして警察上層部の隠蔽体質はもはや映画やドラマの中では日常茶飯事になっており、こちらも新鮮味はないが、その隠蔽理由がこれまた定年間近の刑事の功績に泥を塗らないために・・・という何とも微妙な理由。警察組織がひっくり返るくらいの理由はないものだろうか?
そもそも今回の事件全部が偶然姫川が密告電話を受け取ったことで発覚したのだが、姫川以外の人間が電話を取っていれば、そのまま上層部に握りつぶされて終わっていた可能性が高い。そこは何かしらの必然性を持たせて欲しかった。
そして最悪なのが終盤での記者会見。姫川が苦労してたどり着いた真相。それを警察上層部は事前に知っており、姫川の捜査内容はまったく関係なく事件に幕が引かれる。主人公の努力とは関係のないエンディング・・・。ある意味それこそが事件だ・・・こんな映画、今までに見たことがない(当然悪い意味で・・・)。

とまぁ、映画にとって一番重要な脚本がダメダメなため、映画としても残念な仕上がりになっているが、絵として、この映画を見るといかにも映画らしい描写が多い。
TVでは描けないであろうリアルな死体描写、原作の"インビジブル・レイン"というタイトルに併せた全編にわたる雨降らし、このあたりは監督のこだわりが見られる。それがこの作品の救いかもしれない・・・。

というわけで監督の努力で映画っぽく見せているものの、TVドラマの2時間スペシャルで十分だったのではないかと思わずにはいられない。おそらく別の脚本家が書いた作品であればレベルの高い作品となっていた可能性が高い・・・そんな印象を持たされた作品です。

一口コメント:
ダメダメな脚本を何とか監督の努力で映画っぽく見せてはいるが、TVドラマの2時間スペシャルで十分だったのではないか?そんな印象の作品。

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