海街 d i a r y
採点:★★☆☆☆☆☆☆☆☆
2016年5月21日(TV)
主演:綾瀬 はるか、長澤 まさみ、夏帆、広瀬 すず
監督:是枝 裕和

綾瀬はるか、長澤まさみの日本女優界の2トップとも言うべき2人が初共演、さらに新星・広瀬すずも加わるという豪華なキャスティングで制作決定時から話題になっていた作品。

鎌倉で暮らす、幸、佳乃、千佳の三姉妹。ある日、彼女らの元に不倫をして離れ離れになった父親が亡くなったという知らせが届き、葬式が行われる山形へと向かう。そこで離婚した父親が別の女性との間に設けた異母妹のすずと出会う―――。

なんだ、このつまらなさ。久々の駄作だ。
つまらない理由は単純明快で、物語にほとんど起伏がない。起伏が起きそうな要素は一杯散りばめられているのだが、何も起きない。
例えば腹違いの姉妹という設定。父親は同じだが母親が異なる三姉妹と、唯一血のつながりがあった父親が死に一人きりになった妹・すず。そんな4人が鎌倉の古民家風の一軒家で同居生活をするのだが、すずの苦悩を丁寧に描くでもなく、そんなすずがきかっけとなり、もともとの三姉妹にドラマが起きるわけでもない。
綾瀬演じる長女は同じ病院の医師と不倫をしているが、そこの関係性にも特に何かハプニングが起きるわけでもない。長澤演じる次女もフリーターの彼氏がいたが、何も起きないまま、別れてしまいう。また銀行で職種が変わり、初めて訪れた資金繰りに苦しむ顧客を目の当たりにして、仕事面で何か起きるのか?と思いきや、そこでも何も起きない。夏帆演じる三女に至っては何かが起きる気配すらない・・・。四女のすずは引っ越してきた新しい学校でサッカー部に入り、サッカーと恋愛の2つの要素で事件が起きそうな気配はあったが、こちらもやはり何も起きない・・・。
唯一、事件が起きそうな感じがした三姉妹の母親が戻ってきた際も、特に何も起こらない。ここまで来ると「事件起きるぞ!詐欺」のような感じだ。
人によっては、これぞ日本映画の醍醐味だ!という人もいるかもしれない。言葉や設定だけで写真も含めて画面に登場しない人物が多数いて、そこを説明をしない、絵として見せない=観客の想像力に訴えかける=邦画の魅力と捉えることもできなくはないが、こういった演出方法は1つ大きな見せ場が合って、その後の解釈を観客に委ねるというやり方でないと、大半の観客にとっては創造力を膨らませる前に映画が終わってしまう、ただのつまならい作品ということになるのではないだろうか?

またこの作品で最も説明が必要なはずのシーン、すずが3姉妹と暮らす決断を下す過程についてすら何の説明もない。そこの説明がないから、四姉妹として暮らし始めたところで、観客としては何の感情もない。そこからスタートしてしまい、途中も説明もなく、絵としても見せないのだから、最後まで何の感情も起きない・・・。

そして1人、1人のキャラが立っていないのもダメなところ。唯一立っているのが長澤演じる次女の佳乃。男性と軽く付き合え、お酒が大好きでグータラ。彼女だけは最初から最後までこのキャラを貫き通してくれる。しかしそれ以外の登場人物はキャラが薄い。登場人物が多すぎて1人1人にフォーカス出来ていない。とはいえ、登場人物が多くても1人1人のキャラが立っている作品は他に多数ある。
解決策としては、1人だけ背景が異なるすずにフォーカスして、すず視点で作品を描き、すずが本当の姉妹になれた!と感じるまでを描いたら、すずに共感してこの作品を見ることができたのではないだろうか?

一番の問題点はこの作品に登場する人物の中に、根っからの悪人というか、嫌われ役がいないこと。ドラマであれ、SFであれ、アクションであれ、どんな映画であっても、基本的には敵役がいて、そこに反感感情を覚えるからこそ、主人公やその他の登場人物に感情移入していくのだが、この作品にはそれがない。
本来ならそれが不倫した父親ってことになるのだろうが、上述したように説明しない、絵として見せない演出のため、不倫したという事実もかなり薄く、敵役としては役不足。あるいは3姉妹の中の誰かが意地悪で、その人物とすずが和解していくという方法もあるかもしれない。もう1つの可能性があったのが、遺産問題。そこもしれっとスルー。
これでは作品を通して、誰かに感情移入することはできない。だからこそ、つまらなく感じる。

また上述したように、さらっと流してはいるが、この作品の根幹には父親の不倫問題がある。長女は両親が苦しんだはずの不倫をしていて、しかもそこに何の葛藤も抱えていない(実際には抱えているのだが、そこを深くは描いていない)。さらにすずをこの世に生んでくれた父親は優しい・・・なんて描写もある。
そして作品は何のオチもないまま、終わってしまう。「えっ、これで終わり?」っていう終わり方も久しぶり。一体全体この作品が伝えたかったのは何だったのか?まったくもってはっきりしないし、不明瞭。

この作品を通して唯一とも言うべき良かったシーンは桜トンネルのシーン。すずを後ろに乗せて自転車をこぐクラスメート。学生の甘酸っぱい恋が始まる予感が満載のシーン。
しかし結局何も始まらない。この作品の核は結局、この"何も始まらない"の繰り返しただということだろうか?

一口コメント:
「事件起きるぞ!詐欺」の連続だが、最後の最後まで詐欺で終わる起伏のない作品です。

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