VEXILLE/ベクシル 2077 日本鎖国 |
日本に帰国する前に、帰ったら何を見ようか?と考えていた時に、予告編を見て、そのアイデアに一目惚れした映画。
2067年、バイオテクノロジーとロボット産業の分野で市場を独占した日本に対して、国連が厳しい国際協定を設けると、これを不服とした日本は、国連を脱退し、ハイテク技術を駆使した完全なる鎖国をスタートさせる。
10年後、日本の鎖国が続く中、米国特殊部隊"SWORD"が日本潜入の極秘作戦を決行した。潜入メンバーは、レオンをリーダーとする部隊。その中には、女兵士ベクシルもいた。そしてついに、彼らは謎のベールに包まれた日本の地を踏んだのである。
しかし、すでに日本側は、SWORDによる潜入作戦を把握しており、潜入メンバーは、大和重鋼のサイトウ率いる警備兵に取り囲まれてしまう。唯一日本への潜入に成功したベクシルはマリアという謎の日本人女性に出会う。そして、かつて栄華を誇った日本が、荒涼たる大地が広がる、荒廃した土地へと変わっているのを目にする―――!!
ハイテク鎖国。
特殊な電磁波を利用した防御壁で電波を遮断し、衛星からも見ることのできない完全な鎖国。そんな状態が10年も続いた国に、アメリカの部隊が進入する。
この設定、とても魅力的だ。この設定だけで、かなりの期待を持てる。
実写版があるなら、実写版も見てみたいような設定ではあるが、それを日本映画界の武器であるアニメにして、世界50カ国以上での公開にこぎつけた点も販売戦略としては正解ではないだろうか?
ただし、車や建物といった人工物、あるいは山や海といった自然界に関しては、世界最高峰のアニメのレベルであるのは間違いない(いや、もう実写と同等のレベルと言っても良いくらいだ・・・)のだが、人間に関しては、どこかぎこちない。もちろん、レベルは高いのだが、歩き方が不自然だったり、顔の表情がすごく堅かったりするのだ。喜怒哀楽の表情があるにはあるのだが、不自然なくらいにその一つ一つが過剰なのだ。だからキャラクターに感情移入ができないし、感情移入できないから、物語の世界観に入れないという悪循環。
それとは逆に、ハイテク産業の負の象徴とも言うべき、ジャグの描写がとても良かっただけに、とても残念だ。
そしてストーリー的にはハイテク鎖国という設定は文句なく面白いし、10年後の日本の現状もとても面白い(このアイデアはかなり素晴らしいものだが、これを言ってしまうと、それ以外にこの映画の見所がないので、言えないのがまた、寂しい・・・)。
だが、その設定にいたるまでの過程の説明が足りない。最初のハイテク鎖国にいたるまでの過程は、映画の冒頭5分くらいでナレーションで語られるので、良しとしよう。だが、10年後の日本の設定に関しては、なぜ日本が荒廃してしまったのか?(ジャグが食い尽くしたという風に考えられなくもないが、金属しか食べないジャグが自然も食べるってのはどうか?と思うので、簡単でいいから、少し描写して欲しかった)またなぜ日本人がああいう状況にになってしまったのか?大和のウィルスという説明があるが、こちらももう少し10年の間に起こった移り変わりの過程を描写して欲しかった。
要するに10年前と10年後の現状の違いを見せるだけで、どうしてそういう違いが生まれたのか?に関する説明が足りないため、そこにあるはずの登場人物たちの苦悩を感じられないのだ。自分が監督であれば、ジャグの誕生秘話をビジュアルで見せるなどして、その点を補っていたのだが・・・。
またハイテク鎖国というアイデアは凄いし、その鎖国を支えるRACEというシステムもすごいのだが、アメリカ特殊部隊が日本に侵入するシーンはちょっと拍子抜け。
海中から空中まで超強力なセキュリティーを敷いていて、鎖国から10年間、日本にやってきた外国人がいないという割には簡単に進入してしまったSWORD。10年後の日本人の現状を考えれば、アメリカ軍が使っていたシステムと同じものを使えば、すぐに潜入を把握できたはずなのに、どうなんだろうか?
ただし、主人公が日本人ではなく、アメリカ軍の女性にした点は良かった。
総合的には、ハイテク鎖国というアイデア勝負の映画であり、それを補う部分での説得力、キャラクター設定、そしてビジュアル的な説明が足りなかった。ただ、ハリウッドでの実写版リメイクなどがあるのであれば、見てみたいとは思わせるだけの可能性は秘めた作品でした。