散歩する侵略者
採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2017年9月9日(映画館)
主演:長澤 まさみ、松田 龍平、長谷川 博己
監督:黒沢 清

ここ数か月、映画館に行くたびに何度も予告編を見てきた中でなんとなく興味を魅かれて映画館に足を運んだ。

ある日、一家惨殺事件が発生する。事件後、1人だけ女子高生・立花あきらが生き残る。たまたま出張でその地方を訪れていたジャーナリストの桜井が、その家を訪れると天野という男子高校生が「自分は宇宙人で地球を侵略するためにガイドになってくれないか?」と桜井に話しかけてきた。ジャーナリストの勘が働き、天野と行動を共にすることにした桜井は失踪した女子高生・立花あきらと合流する。
一方、原因不明の精神疾患に陥った夫・真治を迎えにきた鳴海。その真治が「地球を侵略しにきた」と鳴海に告げる―――。

何だったんだろう、この作品は?宇宙人の侵略もので、こんなにものどかな作品がかつてあっただろうか?
途中までは「どういう結末になるんだろう?」とものすごくのめり込んで見ていたのだが、最後の方は何だかな?という感じで終わってしまった。言うなれば、途中までは傑作だったが、そこまでのレベルが高く、期待度が上がっていたことが、かえって終盤のイマイチ感を際立たせてしまった感じだ。
教会に入るシーンで、そういう終わりか!?と思ってしまった=結末が見えてしまったと思ったら、それは実はフェイントという高度な技を見せたあたりまでがピークで、その後は下り坂を転げ落ちるように終わってしまった・・・。

まずはオープニング。一家惨殺というかなり衝撃的なシーンで始まり、直後に文字通り"散歩する侵略者"の背後でダンプカーの横転事故が発生するなど、のどかな雰囲気=日常の中で起こる"非日常"というギャップでつかみはOK!!
そして宇宙人のガイドが2人存在し、一方は夫婦(鳴海)、一方はジャーナリスト(桜井)と高校生2人という組み合わせの妙も素晴らしい。のんびりとした夫婦の生活を描いている一方で銃の乱射など比較的過激な行動を取る、その対比構造が中盤までは非常に効果的だった。2組の侵略者がそれぞれ親和性と残虐性を観客に見せることで観客の気持ちはアップダウンの繰り返しで、次はどうなるんだ?感を煽られ続ける。

また映画としての見せ方も、夫に見られていることに気づきゾクッとする演出に見られるジャパニーズ・ホラーの恐怖感と宇宙人が攻めてきた(そこまでのスケール感がないのは邦画の悲しい宿命・・・)という恐怖感。2つの恐怖感を上手く取り込んでいて、中盤までは邦画と洋画の良いとこ取りな感じでとても楽しめる。
しかも過去にあった宇宙人の侵略作品とは一線を画す「概念を奪う」という新しいタイプの宇宙人像にぐいぐい引き込まれていく。"奪う"という言葉通り、概念を盗られた地球人はそのが概念を"失う"という設定も非常に面白い。"概念を奪う"ということは裏を返せば、その概念とは何なのか?ということを示すわけで、それを作品中で宇宙人が言っているように言葉ではなく、概念で説明するというところがこの作品の核だ。

しかし鳴海と桜井が出会い、2組・3人の宇宙人が一緒になったあたりからいろんなことがおかしくなってくる。まず最初におかしかったのが、桜井がパーキングエリアでいきなり演説を始めるシーン。そこまではとても論理的かつ現実的な行動をし、「自分は人間側の立場」と言っていたのに、急に「宇宙人側の立場」へと転換してしまう。その理由が明示されておらず、観客に委ねるという感じの描き方。このあたりが心理的な意味ではこの作品の最大の欠点かもしれない。
さらにそのきっかけとなった立花の死。オープニングで金魚から移っているわけだし、さらにそれまで散々地球人を殺してきた彼女があの場面で"他の人に移る"という選択をしない理由も不明。
途中で「3分で侵略出来ると思ってたけど、3日くらいかかるかも。」的な発言をしていた割に、あまりにもあっけなく死んでしまう天野も、なんだかなぁ・・・。
邦画なので仕方がないと言えば仕方がないのだが、侵略される!感を全く感じられないのも残念。日本ののどかな風景のみしか描かれず、海外どころか都心のカットもない。このあたりハリウッド作品であれば少なくとも数か国のカットを入れるのだが、予算規模が違うので諦めるしかない。

そしてもっとも映像的にダメだったのか、ラストで待っている爆撃機のシーン。爆撃後に地面がえぐれることもなく、炎の残り火のみという貧弱な演出はいかがなものか?上述の理由で脚本的に萎えていたところに、映像的にも萎えてしまった・・・。

しかし、宇宙へと信号を発信する部品をセットして、アンテナを起動した桜井が地球人のままだったのか?否か?そのあたりの含みを持たせた終わり方は嫌いではない。 そして最後の最後に鳴海と夫のシーンが待っている。人間の根幹に関わる、とある概念を失った鳴海。そこに至る過程は長澤まさみの演技力もあり、すごく重いはずのこの作品の核となるテーマ=概念について、説得力を持たせてくれている。

といった感じでストーリー展開に合わせて良し悪しを並べてみた。すると、改めて途中まではものすごく面白かったはずが、終盤で一気に減速した感が否めないことがわかる。
個人的にはぜひハリウッド版リメイクを見てみたい。

一口コメント:
3/4までは傑作、1/4は駄作という割合の今までにない新しいタイプの宇宙人侵略モノです。

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