男たちの大和 YAMATO |
日本映画としては破格の30億円という予算をかけて作られ、そのうち6億円は実寸大の戦艦大和を再現するために使ったという、一歩間違えばハリウッド大作になりえた邦画作品。
かつて戦艦大和の乗組員だった老漁師の神尾は、同じ大和の乗組員であった内田二兵曹の娘、真貴子に頼まれ、60年前に沈んだ船が場所へと漁船を走らせていた。そんな神尾の胸に60年前の光景、戦友たちの姿がよみがえってきた・・・。
昭和19年2月、神尾たち特別年少兵が、大和に乗組む。乗艦した彼らを待ち受けていたのは、厳しい訓練だった。そんな中、彼らは烹炊所班長の森脇二主曹や機銃射手の内田二兵曹に、何度か危機を救われる。森脇と内田は配属場所こそ違え、気心の知れた仲だった。
同年10月、レイテ沖海戦に出撃した大和はアメリカ軍の猛攻を受けた。大和の乗組員たちも多数死傷し、内田も左目に重傷を負い、大和の任務からも外されることとなった。
翌年3月、乗組員たちは出撃前最後の上陸を許される。全員が、これが最後の上陸になることを覚悟しながら、恋人、母、馴染みの女性、それぞれに大切な人と最後の時間を過ごす・・・。そして大和に戻っていく男たちの群れに、病院を抜け出した内田の姿もあった。
同年4月1日、ついに米軍は沖縄上陸作戦を本格的に開始。4月5日、大和に沖縄特攻の命令が下される。
4月6日、遂に大和は出航、そして4月7日、ついに米軍戦闘機の大群が大和に襲いかかっていった―――。
久々に心奮える映画だった。
当時「お国のために・・・」などという言葉が当たり前のように、使われていた時代。戦争という、どうにもならない、そして誰のためにもならない、そんな現実によって引き裂かれていく人間関係をすごく丁寧に描いている。
最後の上陸となったシーンで描かれた数々の大切な人間模様。1つは息子を思い続ける母親とその息子。1つは待ち焦がれた恋人とその恋人に最後の別れを告げに来た男。そして兄を亡くし、母をもなくし、1人になってしまった少年兵と幼馴染の女の子。
戦争さえなければ、普通の幸せを築いていたはずの多くの人間関係が戦争によって引き裂かれてしまう現実に、涙を覚えた。
そして戦争に挑む前の艦上での男たちのドラマ。「死に方用意」と書かれた文字に思い思いの言葉を大声で泣き叫ぶ男たち。その一方で死地に赴く友情を確かめ合う3人の男たちとそれを見守る少年兵。
そして戦闘シーンにおいて、無残に死んでいく兵士たち。その横で、かなわぬ敵に射撃を続ける兵士。そして船が沈みかけた時に、「生きろ」と言われて「自分も一緒に死にます!」と言い放つ少年兵。
ここまでは戦争映画ならよくある話だが、この映画の良いところは戦争が終わった後の描写も長いところだ。無駄に長いのではなく、中身の濃い"長さ"だ。
戦争が終了した後、同い年の仲間の母親の元を訪ね、息子が戦死したことを告げる神尾。その神尾に向かってその母親が言った言葉。
「あんただけ、のこのこと生きて帰ってきて・・・」
この言葉が当時の日本を語っている。惨めに生きるのではなく、立派に死ぬことを良しとしていた時代が確かにあったのだ・・・、ということをこの一言が表していた。
そしてこの"惨めに生きる"という言葉が、最後の最後、60年後の神尾が、内田の言葉から「やっと生き残った意味がわかりました」と、惨めに生きてきた60年を良かったと思える瞬間につながるあたりの伏線の引き方は非常にうまい。
といったわけで、本当にたくさんのドラマが詰まっているにも関わらず、1つ1つが薄っぺらではなく、1つ1つが本当に重い。
そんなわけで、ドラマの部分は文句なく満点の出来栄えといえる。しかし映像に関してはいくつか問題点がある。銃弾を浴びた兵士の表情、そして肉片が飛び散る様子などの細かい戦闘シーンの描写は非常に良くできている(ハリウッド映画にも引けをとらない程の出来栄え!!)のだが、もっと大きな意味での描写が物足りない。例えば、大和は他に何隻かの船と共に連合艦隊として出航したはずなのだが、他の艦が画面に映ることがほとんどないし、戦闘中は甲板からのカメラアングルばかりで、外からのアングル、つまりアメリカ軍側からの視点がない。さらに戦闘中の全景図もなく、映像的な描写にはいまいち、物足りなさを感じた。
外からの視点、そして全景図ともに、戦闘以外のシーンでは描写があっただけに、CGでの制作が大変とはいえ、30億円の予算をかけておきながら、戦闘シーンだけその描写を入れなかったのは残念だ。
ハリウッドがこの作品を作ったら、おそらく戦闘シーンそのものに重きを置くところを、さすがに日本映画はそうではなく、大和に乗り組んだ戦闘員たち、1人1人、そしてその家族や恋人などといった人間ドラマに重きを置いている。
ここまでは今までの日本映画と一緒なのだが、この作品が他の日本映画と一線を画しているのは、ドラマに重きを置くあまりに戦闘シーンの描写がおろそかになりがちだった今までの多数の邦画とは異なり、戦闘シーンも非常に力を入れている点だ。
戦後60周年記念大作ということで、戦争の悲惨さ、そして当時命がけで日本を守ろうとした人たちがいたこと、そして戦争の後の60年という時間を士道を持って生きてきた人たちがいることを、戦争を知らない世代の自分に教えてくれたような気がします。
映画の中で、"武士道"と"士道"の違いをこんな風に語っていた。
"死ぬ覚悟"と"生きる覚悟"。