夕凪の街 桜の国
採点:★★★★★★★☆☆☆
2007年11月3日(DVD)
主演:田中 麗奈、麻生 久美子
監督:佐々部 清

田中麗奈と麻生久美子のW主演の原爆を扱った作品、そしてこの作品を見た友人たちの間で評判だったこともあり、楽しみにしていた作品。

原爆投下から13年後の広島。26歳の皆実は、母親と二人で質素な生活を送っていた。そんなある日、会社の同僚の打越に告白される。だが彼女は、原爆で妹と父を失い、自分だけが生き残ってしまったことで、後悔の念にとらわれてしまっていた。そんな彼女も次第に打越と打ち解けていくが、やがて皆実にも原爆症の症状が現れる―――。
半世紀後。東京で暮らす皆実の弟・旭はある夜、家族に内緒で旅に出る。そんな父を心配する娘の七波は、父を尾行することにする。その途中で友人の東子も一緒に旅することになる。そしてたどり着いたのは旭の故郷である広島だった―――。

"広島のある 日本のある この世界を愛するすべての人へ"
映画の冒頭、いきなりこのテロップと共に映画は始まる。そして物語りは原爆の悲劇を直接的に描くのではなく、被爆者の皆実と被爆2世の七波、この2人の女性と戦後の2つの時代を通して、新たな視点から戦争、原爆の恐怖などを間接的に描いていく。
しかも男性ではなく、"か弱い"女性を主人公にすること(しかも2つの時代の女性)、そしてその静かでありながらも"凛"とした強さを持って投げかける女性の言葉を通して、反戦を訴えている。これって、プラカードを掲げて、声高らかに"戦争反対!"と訴えるよりもよほど効果がある。1つ1つの言葉がすごく重いのだ。

「なあ、嬉しい?13年も経ったけど、原爆を落とした人は私を見て、"やった、また一人殺せた!"って、 ちゃんと思うてくれとる?」

「わたしは生きとっていいのでしょうか?」
「わかっているのは『死ねばいい』と、誰かに思われたということこと。そう思われたのに、まだ生き延びていること。」

「原爆は落ちたんじゃのうて、落とされたんよ」


こんなにも重い台詞がたくさんあるのにも関わらず、作品全体を通してみると、見終わった後の印象としては不思議なほど爽やかな気分になれる。原爆という重いテーマを扱っているにも関わらず、なぜここまでの爽快感を味わえるのか?それが、この作品の良いところでもある。
その1つは原爆落下直後の映像を入れていないことが大きい。そういった凄惨な場面は小学生が書いた絵を使うことで、間接的に悲壮感を出しているし、小学生の絵を使うことで、"子供ですら知っている"という日本人なら当たり前の感覚を1人1人の想像力に訴えることで、より一層、観客の心に訴えているとも言える。

それを危ういところで原爆から逃れて、生き延びたにも関わらず、放射能という二次的な脅威にさらされてしまった女性の人生を追うことで、さらに心の奥深い部分まで届かせることに成功している。

そんな第1部を終えて、物語は第2部、現代になる。
第2部は現代が舞台であり、物語も第1部とは打って変わり、コメディタッチに進んでいく。例えば、女2人でラブホテルで休憩するシーンがあるのだが、七波が自分の弟と付き合っている東子に対して、「こーゆーとこ、よく来るの?」と聞くシーンは、いろいろと考えが広がって面白い。

かと思えば、第1部の皆実には決して感じられなかった、第2部の七波でしかわかりえない思いというのも描かれている。
第1部でショックから一時的に失明になった母親のことを、「(悲惨な光景を)何も見ずに済んだ」と責めるように言った皆実。だがそんな母親の中に40年経っても消えない傷があり、その傷を突きつけられてしまう幼い七波。
1つ1つの時代においては、決して理解し得ないものが、こういう風に世代を超えてつながることを描く上で、この作品を第1部、第2部に分けた点は非常に素晴らしい。
が、その一方で七波のバックグランドを描く時間が少ないため、第2部に関しては、感情移入しにくくなってしまうという欠点もあったりもするのだが・・・。

それとこの作品、学校教育(むしろ「裸足のゲン」)で必ず習う原爆の恐ろしさを知っている予備知識のある状態で見るから、日本人が見る分にはまったく問題ないのだが、外国人が見るとなると、ちょっと難しいかもしれない。というのは、上述したように原爆の直接的描写がなく、何をそれほど恐れているのか?というのが伝わりにくい。

もう1つあげるとすれば、キャスティング。主役の2人は、これ以上ないくらいに素晴らしいし、その他の俳優たちも問題ないのだが、旭役の2人(伊崎充則と堺正章)だけは、ちょっと違和感がある。
正確に言うと、これが第1部、第2部、それぞれ独立した作品であれば、問題ないのだが、どう考えても、伊崎が数十年後に堺にはならない。そういった意味でキャスティングに問題があったと思う。

ただし、第1部と第2部、2つの時代の切り替えと第2部のラストシーンが憎らしいほどうまく交差していて、また第2部の最後の方でボケだと思っていた父親が電車の中で隣に座るシーンなどもかなり良い。

重いテーマに、重い台詞でありながらも、爽やかな気分にさせてくれるのは、重いだけじゃない台詞もあるから。その中で最も印象的だった台詞を最後に、今作のレビューを終わりたいと思います。
「生きとってくれて ありがとうな」

一口コメント:
"広島のある 日本のある この世界を愛するすべての人へ"
送る作品です。

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