ポリス・ストーリー/警察故事 |
ジャッキー・ファンなら誰もが知っているであろう作品。少年時代に初めて見た時の衝撃はすさまじいものがあった。
香港警察のチェンは麻薬捜査チームの一員として取引現場である住宅街に張り込んでいた。警察の存在に気づき、逃げ出そうとする一味のボスを捕らえたチェンは、裁判で証人となる女性の警護に付くように上司から言われる。この任務によって、恋人メイとの仲が一時的に悪くなり、さらに裁判当日、証人には逃げられ、証拠となるはずだったテープも役に立たない。そして数日後、一味のボスの計略により、チェンは警官殺しの罪を着せられ、署長を人質にし、証人を救い出し、一味の情報を盗ませ、舞台はクライマックスであるデパートへと移っていく。
何回見ても、この映画のアクション・シーンは飽きることはない(日本公開が1985年だったこと考えるともう20年近くになるというのに・・・)。冒頭、山の斜面に建てられた住宅街を突き抜けていくカー・チェース。その続きで、二階建てバスを追いかけ、傘を使ってバスに乗り込むシーン。敵のアジトから証人を救い出した直後、証人を屋上からプールへと飛び込ませり、デパートの商品売り場での格闘シーン。そして最後のパイプ滑り。これらの派手なアクションはもちろんだが、細かなところも非常に上手くできている。
投げ飛ばされた敵が二つ並んだエスカレーターの間の溝を滑り落ちたり・・・、冒頭のバスを止めるシーンで急ブレーキによって、窓ガラスを突き破って敵が落ちてきたり、デパートの商品売り場での格闘において、突っ込んでくるバイクに飛び乗り、蹴りをお見舞いしたり(個人的にはこのシーンが、かなりお気に入り・・・)、そしてジャッキー映画の特長ともいえる小道具(時にそれは部屋においてある何気ない椅子だったり、商品売り場のハンガーだったり、車のドアや窓だったり・・・)を使っての格闘シーンだったり・・・、そして車一台分のスペースがぎりぎりあるかないかというスペースに横滑りで駐車をするシーンだったり・・・。
毎回見るたびに、本当によくぞここまでいろいろなアイデアが出てくるものだと感心させられると同時に、その思いついたアイデアをよく実行したな!と驚かされます。山の斜面を車で滑り落ちるシーン、傘でバスにぶら下がるシーン、そしてデパートのポールを滑り落ちるシーンなんて、生でやろうというその意気込みというか、良い意味でのアホさ加減というか、素晴らしい(CGで何でもできる今ならまだしも、20年近くも前に実際にやってしまったその実行力には感服です)。またこの頃のジャッキーは体のキレが素晴らしいという意味でも感心させられた。
また、ドラマとしての人間描写もすごくよくできていることに今回気づいた。冒頭の民家での銃撃戦のシーンで、ビビってしまって放尿する刑事は勿論、その直後にジャッキーが発砲する前の表情、顔を出した瞬間に撃たれて死んでしまうかもしれない恐怖に対して決死の覚悟で行動しているのが伝わってきます。
さらに物語中盤で署長に向かって言う本音。「俺らが命懸けで犯人逮捕に四苦八苦しているのに、あんたはデスク仕事。部下が死んでも線香と葬式だけか?」的な発言をするシーン。子供の時はそうでもなかったのですが、今回改めて警察の仕事というのは命懸けの仕事なんだということをこの台詞とそれに続くジャッキーの行動(署長を人質に逃亡)で痛感させられました。
またヒロイン二人も個性が出ている。彼女と証人、性格的には真逆ともいえるヒロイン二人と会話することで、ジャッキーというキャラクターの性格もうまく表現されている。
そして敵側の弁護士。こいつがいい!子供の時に見たときはなんとも憎ったらしい、むかつくヤツだと思っていたが、それこそが悪役の醍醐味であり、その意味でこの弁護士は素晴らしい。法廷シーンで弁護士が「バスの片側=50%しか見えていなかったはずだ」とか「あの時間帯、2分半の間に最低でも10本のバスが通っていた」という台詞は今考えれば、どうにでも否定できるのだが、それなりに理屈も通っているし、当時はすごく驚異に感じた。そして今回その弁護士の理論に対して、「あんたはバスを待ったことがないのか?」と返すジャッキーの台詞にうまい!と思わされました。
またコメディとしての要素もたくさん詰まっている。例えば証人の証言を吹き込んだテープに上書きで吹き込まれた会話の内容だったり、上司と署長の凸凹コンビ的な台詞のやり取りだったり、メイとジャッキーの恋愛でもめた時の会話の内容やアクション(メイがバイクで走り出す瞬間にジャッキーが彼女のリュックを引っ張って、バイクだけが走り出すシーンは面白い)だったり・・・。
そんな素晴らしい要素がたくさん詰まった映画であるが、最後の終わり方が中途半端であると言わざるを得ない。ジャッキーの怒りが現れていると言えば、現れているが(作品全体を通してジャッキーは切れやすい性格であることを踏まえれば、これも一つの選択肢かもしれない・・・)、ジャッキーの感情としては完結しているかもしれないが、作品としての結論がないため、そこをうまく描いていれば、この作品はより素晴らしい作品になっていたかもしれない。