アーティスト/The Artist
採点:★★★★★★★★☆☆
2012年2月26日(映画館)
主演:ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ
監督:ミシェル・アザナヴィシウス

2012年アカデミー賞、オスカー史上初のフランス映画としての作品賞、ならびに監督賞・主演男優賞を含む5部門受賞を成し遂げた作品。

1927年、サイレント映画のスターとして君臨していたジョージは、レッド・カーペット・イベントで女優志望のペピーと出会う。その後、撮影現場で偶然再会した2人。ジョージのアドバイスをきっかけにして、着実に女優としてステップアップしていくペピー。
時代がサイレントからトーキーへと移り変わると共にペピーは大スターになっていく。逆にジョージはサイレントに固執し、自身の監督・主演作がヒットせず、トーキーの隆盛とともに落ちぶれていく。妻とは離婚し、豪邸も手放し、家具などをオークションにかけ、衣装を質屋に入れるまでに・・・。果たして2人の運命は?

映画の歴史を振り返ってみると、サイレントからトーキー、モノクロからカラーと大きな時代の転換点があった。その後、1990年代のCG映画の隆盛、そして現在は2Dから3Dへの大きな転換期である。その2012年"2Dから3Dへの転換期"に"サイレントからトーキーへの転換期"の映画を公開し、それがオスカーを獲得してしまうという、これぞハリウッド!という王道ストーリー。
正直、この映画、サイレント映画じゃなかったら、ここまで評価されることはなかっただろう。なぜならストーリーそのものは、そんなに斬新な話でもなければ、むしろ先が簡単に読めてしまう。また映像に新鮮味があるわけでもない。
むしろこの時代にモノクロのサイレント映画を公開すること自体が、自分たちの世代には"新鮮”で、オスカー選考委員の世代にとっては"懐かしい"という奇妙な構図を作り出した。だからといってこの後モノクロのサイレント映画が再び脚光を浴びるというわけではないと思うが・・・。

この作品で一番感情移入しやすいキャラクターはもちろん、自分の居場所がみつけられずに、忘れられていったサイレント映画のスター、ジョージ。かつての栄光が大きければ 大きいほど、落ちぶれた人間はさらに駄目になるという逆サクセス・ストーリーの典型例。その葛藤を描いているのだが、台詞がないので、それを役者の表情や背景、さらには編集のカット割りなどで主人公の内面を描くのだが、そういう意味ではこのキャスティングは素晴らしい。サイレント映画の時代に顔の濃い俳優さんが多かった理由がうなずける。オスカー主演男優賞獲得も納得のキャスティングだ。
仮にこの役を、同じオスカー・ノミネートだったブラット・ピットがやっていたら、ここまでの説得力はないだろう。もう1人のオスカー・ノミネートのジョージ・クルーニーならまだ顔の濃さは負けてないか・・・?
その一方でスターダムにのし上がっていく新鋭女優という対比構造も単純明快でわかりやすい。映画の原点とも言うべきストーリー構成とも言える。

それと忘れてならないのが、ジョージの飼い犬。カンヌ映画祭でパルムドッグ賞という犬の最優秀俳優賞も受賞している。ユニバーサル・スタジオの動物ショーで見たような微笑ましい演技を見せてくれる。

そしてサイレント・モノクロ映画ではあるものの、実は随所にCGが使われている。中でも自分が関心したのが、落ちぶれたジョージが過去の出演作を見終わり、スクリーンに映る自分の影にしゃべりかけるシーン。フィルムの映写機の光によってスクリーンに自分の影が映っているのだが、その影に向かって(要するに自分自身に)怒鳴り散らす。すると影さえもそっぽを向いてスクリーンから消えてしまう。このシーンは主人公の心理を描く意味でも、特殊効果的にも、映画の見せ場としても秀逸でした。

今この時代に公開されたからこそのオスカー獲得作品であり、若い人には"新鮮さ"を、年配の人には"懐かしさ"を提供してくれる映画の原点とも呼べる作品です。

一口コメント:
2Dから3Dへの転換期に公開されたモノクロからトーキーへの転換期を主題にしたオスカー獲得に相応しい作品です。

戻る