ラスト・サムライ
採点:★★★★★★☆☆☆☆
2003年12月6日(映画館)
主演:トム・クルーズ、渡辺 謙
監督:エドワード・ズウィック

かつて数多くの戦争で数多くの名誉を手にしてきたオールグレン大尉は酒浸りの毎日を送っていた。そんな彼の元に日本の軍隊の教官としての依頼が舞い込んでくる。戦いの相手は近代化を目指す日本において古来の伝統を重んじる勝元という名のサムライであった。
裏では、金儲けを企てながらも表面上は日本の近代化という名目で外交を続ける外交官大村が天皇のお気に入りである勝元を殺してしまおうと画策していた。
そして戦いの日が訪れる。オールグレンの率いる軍隊は勝元率いる侍達に敗れ、オールグレンは捕虜になってしまう。
囚われの身となった彼は勝元の治める山奥の村で生活していくうちに、侍の持つ武士道に、そして勝元の人間性に心魅かれていく。天皇の召集命令に従い、上京する勝元に連れ添い、久しぶりに東京を訪れたオールグレン。そこで待っていたのは大村の勝元とオールグレンの暗殺作戦だった。仲間の犠牲を払いながら、何とか村に戻った勝元とオールグレンはかつて自分が率いた日本の軍隊と勝元率いる侍達の最後の戦いに軍人としてではく、サムライとして挑むことを決心する―――。

"アメリカの描く日本"、今までにも同じようなテーマの作品は映画に限らず、いくつもあったが(映画でいえば、最近では中国人が日本人の役を演じている時点で間違っている「キル・ビル」や戦勝国が敗戦国を描く「パール・ハーバー」などがそう)、大半の作品は間違った日本を描いていて、日本人から見れば「何だこれ?」というものが多かった。しかしこの作品に関して言えば、非常によく調べてあり、日本人から見ても違和感のないハリウッド製日本映画と言えるのではないだろうか?
まず、時代としては明治維新直後の日本を描いており、軍隊の組織化や鉄道網の整備などの近代化日本と廃刀令などにより時代遅れになっていく武士や農民などの古来の日本が交錯する時代であり、外国人から見ても新旧の交錯という興味深い時代を描いていると思う。

また武士道という日本人ですら難しいテーマを選んでいるにも関わらず、自己犠牲の精神、約束を重んじる精神、死を潔いとする美徳観など、日本人としてみても非常に共感できる武士道の描き方であり、また外国人の立場で見たとしても、おそらく共感できる描き方なのではないかと思う。

そして日本刀の殺陣に関して二刀流すら優雅にこなすほどに習得しているだけでなく、武士道以外の点でも当時の女性の価値観、農耕民族であった農民達の生活感や村祭り、さらに日本の代表的な花である桜など情緒あふれる日本を非常に正確に描いていると感じた。その理由はやはり日本人俳優や日本人スタッフを使っているからだろう。
まず渡辺謙と真田広之というキャスティング自体に日本をよく調べているなと感じさせられる。時代劇という意味での日本映画界を代表する二人であり、日本アカデミー賞に何度も顔を出している二人であり、真田は昨年度の「たそがれ清兵衛」で最優秀主演男優賞を獲得している。一方の渡辺謙はアカデミー賞にノミネートされるのではという報道もされるほど素晴らしい演技を見せてくれているし、よくぞこの二人を起用してくれたと感心せざるを得ない。
エンド・ロールを見ていると日本人スタッフが多いこともわかるし、作品の節々で本当に日本に対して敬意を表しているなと感じることのできる作品でした。

しかし個人的には今ひとつこの作品に入り込めなかった。それは大きな疑問が最後まで解けないまま残ってしまったから。それは渡辺謙演じる勝元が最初から英語を話せたこと。外交官である大村や地位の高い天皇が英語を話せるのは理解できるが、戦に明け暮れ、近代化を否定してきたはずの武士である勝元が、どのようにして英語を学んだのか?勝元が英語を学ぶ背景がないまま、ストーリー展開上英語を話せる設定にしただけという感じが最後まで残ったままで、この点が解消されていれば、より一層感銘深い作品になっていたと思う。

一口コメント:
ハリウッドによる史上初の正しい日本映画です。

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