愛と青春の旅立ち |
今までにおそらく4、5回は見ているこの作品。しかし何回見ても泣ける名作である。
母親を早くに亡くし、親父がアル中という廃れた生活から脱出しようと心に誓い、海軍士官養成学校に入校するザック。鬼軍曹と呼ばれる教官フォーリーにしごかれる毎日だったが、学校でできた仲間たちと一緒に、厳しい訓練を乗り越えていく。しかし、13週間という長期にわたる訓練過程の中で、仲間たちが次々に脱落していく―――。
一方、将来のパイロットと結婚するために訓練生に近づいてくる地元の女性が多い中で出会ったポーラと恋に落ちるザック。しかしポーラの友達とザックの親友の間にある悲しい事件が起きてしまい、ザックとポーラの恋にも陰りが見え始める―――。
やはり名作である。ストーリー展開はわかっているのに、それでも泣ける。こういう作品を名作と呼ぶのだということを教えてくれる作品である。
オープニングはザックの子供時代の回想と現在のシーンが交互に入り乱れる形で幕を開ける。これでザックという人物がどういう人間なのか?というのを端的に描写しており、訓練の途中で「俺には帰る場所がないんだ!」と、ザックの心の奥から沸いた叫びをより一層深めてくれる。この冒頭のシーンがなければ、この叫びもおそらく"?"で終わってしまう。
しかもこの「俺には帰る場所がないんだ!」というのがこの作品の中でも重要なシーンであることもあり、一見ありがちに見えるかもしれないが、実は非常に深みのあるオープニングである。
他にも、このオープニングが影を落とすシーンがいくつかある。
例えば、ポーラたちと酒場を出た直後に絡んできた若者たちの1人を殴り倒した後、モーテルで自虐的になってしまうザック。ポーラに対しても「帰れ!」と冷たく当たってしまう。幼少時代のトラウマが悪い方向に出てしまうシーンである。
逆に、障害競走の歴代記録を塗り替えるチャンスをも捨て、友を助けるシーンは、自分よりも大切な仲間を優先させたいという、トラウマが良い方向へ出たシーンである。
そしてその主人公を演じたリチャード・ギアが妙にこの役にはまっている。外見が格好良いはもちろんのだが、幼少時代に起因する内に秘めた頑固さというのが、他の役者では出せないほど、リチャード・ギアによってもたらされている。
一方、鬼教官を演じたルイス・コゼット・ジュニアも良い。その年のアカデミー賞では見事オスカー像を獲得している。
映画にはいろいろな要素が詰まっているのが普通だが、この作品が名作と呼ばれる所以は、いろいろな要素が詰め込まれているだけでなく、その要素の長所と短所を両方、取り込んでいるからではないだろうか?
例えば、友情。上述したようなザックと彼を取り巻く仲間との友情。その友情の中に脱落者がいる点が、サバイバルを生き残った仲間意識をより深く植えつけてくれる。
例えば、愛情。ザックとポーラのハッピー・エンドな愛情だけでなく、その二人の親友同士のバッド・エンドな愛情を描くことによって、愛の生み出す善悪を見せ、よりザックとポーラの愛情に深みを持たせている。しかもザックとポーラの愛にも起伏を持たせている点も上手い。
例えば、師弟愛。おそらくこの作品の一番の魅力であるかもしれないこの要素。入隊の時には「お前はゲイか?」と罵られながら、卒業時には"教官と生徒"という立場が、"教官と将校"と立場が逆転し、敬礼の際に、自分よりも身分が下になった教官に対し、"殿"と敬称をつけて呼んだり、逆にかつての教え子に対し、"殿"と敬称をつけて呼ぶこと(しかも涙を流しながら・・・)で、見ている自分たちに対し、身分や立場が逆転しても、そこにある師弟愛は変わらないのだということを、実に巧みに教えてくれる。
しかも最後にザックがフォーリーにかける言葉が泣かせてくれる。
「君をいつまでも忘れない」
そんなこんなでいろいろと名場面がたくさんある映画だが、この映画が日本のTVドラマに与えた影響は計り知れない。しかも名作と呼ばれるドラマばかりだ。
「輝く瞬間の中で」の鬼教授。第1回で新入生である主人公たちに語る台詞と最終回で翌年の新入生たちに語る教授の台詞が同じという設定は、この作品の鬼教官とまったく同じである。
「妹よ」のラストシーン。唐沢寿明演じる金持ちが町工場で働くヒロイン和久井映見を迎えに行く設定は、この作品でリチャード・ギア演じる海軍の将校が町工場で働くヒロインを迎えに行くのと全く同じ。
そして「愛という名のもとに」。主人公の親友であるチョロが取った行為は、この作品の主人公の親友が取った行為と全く同じ。
といった具合に、日本のTVドラマ、全10話くらいの中でも1、2を誇るような名場面が、この作品には一杯詰まっているのだから、やはりこの作品は名作なのだ。
そしてこの作品を語る上で忘れてはならないのが、主題歌「Up Where We Belong」。この曲がかかるだけで泣けるという人もいるのではないか?というくらい、映画のテーマにマッチした曲である。
数ある映画主題歌(テーマ曲ではなく)の中でも、この曲ほど作品に合った曲は他にないのではないだろうか?
俳優、演出、脚本、そして主題歌と間違いのない名作です。