ダークナイト/THE DARK KNIGHT |
公開初日、公開週末、最短3億ドル突破(10日間)など、公開直後からありとあらゆる記録を塗り替えている作品。「タイタニック」の持つ6億ドルにどこまで迫れるのか?という議論も出ていることもあって、見てきました。
ゴッサムシティーにジョーカーと名乗る素性不明の男が現れた。部下ですら躊躇なく殺し、殺人に対する抵抗がまったくない。それどころか殺人をゲームとして楽しみ、他人を不幸に突き落とし嘲笑うことに喜びを感じる男であった。
一方、バットマンはゴードン署長と組んで、ゴッサムシティーのマフィアを撲滅すべく暗躍する。資金洗浄を行っていた市内の銀行を次々に摘発し、マフィアの資金源を断つことに成功。"光の騎士"として尊敬される正義漢の検事ハーヴェイも加わり、ゴッサムを平和な町にすべく奮闘する。
その頃、ジョーカーはマフィアに成り代わってバットマンを追い込むためのゲームを開始。それは「バットマンが正体を明かさなければ、毎日市民を殺す」というルールで、戦いの中ゴードンも殺害されてしまう。ブルースは遂にバットマンの正体を明かすことを決意し、記者会見に向かうが、それを制したのはハーヴェイだった・・・。
面白いかどうか?と聞かれれば、面白いし、1年に1本あるかないかのレベルの作品なのは間違いないのだが、ここまで歴史的な記録を残すほど、あるいは10年に1本あるかないかのレベルの作品か?と聞かれると、正直、悩んでしまう。
作品の内容としては、"光と闇"、"正義と悪"が絶妙なタイミング、バランスで入り混じっていて、"アメコミ映画の範疇を超えた!"という一般的な解説は的を得ていると思う。他のアメコミ映画と違う点を挙げるなら、一見"正義vs悪"という単純な構図なようでありながら、実は"正義"vs"悪"vs"正義/悪"の構図になっている点。
この"正義/悪"というのは、最初は"正義"でありながら、途中から"悪"へと落ちていく人物のこと。もちろん、トゥー・フェイスのことだが、"正義"=バットマンをして、この男に託してバットマンを引退しようとさえ言わしめるほどの男が、"悪"=ジョーカーの手がけた罠により、"悪"へと変わっていく男の存在。
これがこの映画の主題とでも言うべき、"正義"と"悪"は表裏一体のものであるということを象徴している。
この"正義/悪"の存在を確立させるためには、各方面において絶賛されているヒース・レジャー演じる"絶対悪"ジョーカーの存在がとてつもなく重要となる。実際にはこの"絶対悪"が際立っていて、面白さを増しているのだが、際立ちすぎている気がしないでもない。
本来"正義"であるはずだったバットマンを追い込んだだけでなく、バットマンに変わるはずの"正義"をも"悪"に変えてしまうジョーカー。ここが通常のアメコミものであれば、"正義"は"悪"に勝つというのがルール。それを"正義"が"悪"に変わるという設定を持ち込んだことで、この作品を他のアメコミ作品とは一線を画する作品へと昇華させている。
さらにジョーカーは悪党たちを人を殺すことに何の抵抗もない。それどころか、殺人をゲームとして楽しんでいる。わかりやすく言えば、殺人をする時にある種、究極の選択を与え、その選択に悩む人々の様子を楽しむ。
「この男が60分以内に死ねば、病院を爆破しない」と言い、自分の家族が爆破される病院にいて、一人の命でその他大勢の人が救われる状況。だけど、人としてその殺人を実行できるのか?という究極の選択。
親友とその親友の婚約者が、それぞれ遠く離れた場所で、爆破されようとしている。時間的に救えるのはどちらか一人だけ。しかしお互いの声は通じる様になっていて、愛する者を救いに行って欲しいのか、それとも自分を助けに来て欲しいのか?という究極の選択。
2つの船があり、その内の1つだけが爆破される。お互いの船には、相手の船の爆弾の操作キーがついていて、向こうの船を爆破すれば、自分たちの船は助かるという究極の選択。
よくもここまで究極の選択を考え付くものだと思わずにはいられない選択肢を1つではなく複数思いつき、しかも選択肢によっては、自ら手を下さずにお互いに殺させるという設定もあり、"絶対悪"の存在が観客の心理に浸透していく。
そして"正義"であるはずのバットマン。自ら"正義"でないと宣言し、町の警察に追われるお尋ね者の身であるという設定も、またアメコミ作品の範疇を超えている。ただでさえ罪人扱いされているのに、さらに警官殺しの汚名までも着せられてしまう。
といった感じで一人一人のキャラクター設定とそれに伴うサスペンスの部分においては、素晴らしいの一言に尽きるのだが、アクション・シーンになるとややレベルが落ちる。
、バットモービル(車)やバットポット(バイク)などの乗り物でゴッサム・シティーを疾走するシーンなどがそれに当たるのだが、作品のスケールの割りに地味というか、控えめというか・・・。
もちろん、作品全体のトーンを考えて、あえて抑えた演出にしているのだろうが、個人的にはもう少し派手な演出にしても良かったのではないか?と思う。
例えば、カーチェイスのシーンなら「マトリックス~リローデッド~」のようなド派手な演出などが、それに当たる。
あるいは地味な演出で抑えるのなら、「ボーン」シリーズのように、地味ながらリズム感のある演出にするとか・・・。
アクション・シーンのレベルが高ければ、本当に記録にふさわしい作品になっていたのではないか、というのが率直な感想です。
それでは、なぜここまで記録破りの成績を収めているか?と言われると主な要因は3つある。
1:"バットマン"シリーズの続編であること
2:シリーズにおいて、最も有名な"ジョーカー"が登場していること
3:そのジョーカーを演じるヒース・レジャーが今年1月に死んだこと
病院をまるごと爆破したりこのどれがかけても、ここまで記録的な数字を残すことはできなかっただろうし、この3つだけでは足りない要素もあるかもしれない。
しかし記録的な作品が登場する時には、理屈ではない何かが働くものである。その何かがわかれば、それこそ記録的作品が続出することになるのだろうが・・・。