HANCOCK/ハンコック |
"Mr. Independence Day"ことウィル・スミスの独立記念日映画、最新作。この作品を持って8作連続1億ドル突破という史上初の記録を成し遂げた。
超人的な力を持つものの、酒に溺れ、ホームレス同様の生活をしていたハンコック。その力で犯罪を食い止めるのはいいのだが、子供を泣かせたり、街を破壊したり、そのやり方に対して、多くの人は迷惑に思っていた。
ある日、偶然ハンコックに命を助けられた広告マンのレイが、ハンコックのイメージ・アップの計画を提案してくる。レイの妻、メアリーと息子との交流を通して、徐々にスーパーヒーローとしての風格を身に着けていく・・・。
物語は前半は徹底的にコミカルに描かれている。中でも刑務所内で、囚人2人に対してハンコックがあることをするシーンはある意味で、映画史上に残る名シーンかもしれない。その一方で、同じ刑務所内でバスケをしながら、一度は塀を越えるものの、再び戻ってくるシーンでは、一転シリアスな展開になっている。
こういった両極端な個性を持つキャラクターを演じさせたら、ウィル・スミスは素晴らしい。他にもレイが持ってきたヒーローとしての戦闘服を初めて着た時の何とも言えない、むずがゆい表情なんかは、ウィル・スミスならでは。
世の中でたった一人だけの特殊な能力を持ったハンコック。そんな彼にしかわかりえない孤独感。そういったものを絶妙なさじ加減で演じている。コミカルな部分が派手すぎて、隠れてしまっているが、実は非常に人間臭さを感じられる物語の展開です。
そして後半は、ハンコックの弱点が露見し、不老不死のハンコックが、ある条件下では普通の人になってしまうという事実が判明し、映画はコミカル路線から一転して、人間ドラマへと進んでいきます。
この変わり目があまりスムーズではなく、前半と後半の物語に温度差があるために、全体を通してみると、ややちぐはぐな感じがしないでもない。
とはいえ、登場人物の設定は面白い。
酒飲みのスーパー・ヒーローというのは過去に例がないわけではないし、戦闘中に酒を飲むというのも「酔拳」を見て育った自分としては、なんら違和感はない。が、子供を泣かせるヒーローというのは見たことがない。作品の中で、その超人的な力を持って、子供を思いっきり泣かせるシーンがあるが、こういったヒーローもの映画においてはタブーなはずの設定を逆手にとって、笑いに変えているのはアメリカ映画の得意ジャンル。安心して見れる・・・いや、安心して笑える。
他にも戦闘服を嫌々着てみたり、高速道路の看板を無意味に破壊したり、刑務所に入れられたり、やることなすこと、すべてヒーローっぽくない点が、この作品の面白いところであり、他のヒーローものとは大きくことなる点である。
上述の点は他の作品と異なっていて、プラスに働いている点であるが、逆に他の作品と異なる設定であるが故にマイナスに働いている点もある。
ヒーローものといえばクライマックスで正義と悪の壮絶な戦闘シーンがあり、そこに向かって物語りは進んでいくのだが、この作品にはヒーローを苦しめる絶対的な悪役がいない。なので、物語が進むに連れて、本来緊迫感が高まっていくべきところなのに、この作品はいまいち盛り上がらない。その点は非常に残念だ。
そして、レイというキャラターだが、実に面白い設定。人気のないヒーローを自分がPRしようというのはもちろんだが、後半に登場するもう1人のヒーローとハンコックの間に存在する唯一の"普通"の人間として、ある意味で"普通"の人=鑑賞者代表として、この作品と客をつなぐ存在ともなっていて、前半は"普通"の仕事をして、"普通"の妻と、"普通"の生活をしている、あくまでも"普通"の人間。しかし、後半はそれが一変して、ただの被害者へと変わってしまう。しかもそのきっかけを作ったのはレイ自身。それが実に悲しい。
悲しいといえば、もう1つ。ハンコックがすべての記憶を取り戻した時にわかるもう1人のヒーローの存在。2人ともある言葉によって、ブチ切れてしまうという共通の設定が、この2人がいかに似たもの同士であるかというのを端的に示している。そんな2人だからこそ、地球上でお互いの能力をわかることのできる存在のはずなのに、お互いが側にいられないという設定が非常に切なく、悲しい。
アメコミ原作ではなく、映画オリジナルのヒーロー作品として、久しぶりに興行的に成功した作品であるという事実は、今後のハリウッド映画の新しい方向性を示したと言えなくもない。この作品の続編があるかないかはわからないが、個人的には続編ではなく、また違ったヒーロー映画を作ってくれることを願う。