メッセージ / Arrival
採点:★★★★★★★★☆☆
2017年5月27日(映画館)
主演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

以前に映画館で見た予告編が面白く、調べてみたらアカデミー賞8部門ノミネート、1部門受賞作品であったため鑑賞した作品。

何の前触れもなく、地球の12か所に突然現れた楕円形の宇宙船。その中の1つであるモンタナの米軍キャンプに言語学者のルイーズと物理学者のイアンは米軍のウェバー大佐に連れられてやってくる。彼らの任務は2体の地球外生命体とコンタクトし、地球来訪の目的を聞き出すことだった。
いろんな手段を試した結果、口頭での音によるコミュニケーションではなく、文字によるコミュニケーションに活路を見出したルイーズ。そしてとあるメッセージが判明する―――。
その一方で中国をはじめとする数か国が武力に訴えようと行動を開始する!!

見終わった直後にいろいろと考えさせられる作品だった。
「時は流れるものではない」という壮大なモノローグで始まった今作だが、正直、見ている途中は何だこの駄作は!?と思いながら見ているシーンもあったのだが、途中途中で提示されたミスリードと伏線を回収する仕掛けが最後の最後に待っていた!!
シックス・センス」程、すべてのピースが一瞬でつながる気持ちよさはないが、それ以上に長い時間考えさせられる仕組みであり、考えることが好きな人にはたまらない仕上がりと言っても良い。
SF映画で宇宙人と聞いて、地球人vs宇宙人的な映画を期待しているとかなり裏切られるし、そういう視点でこの作品を見てしまうと最後に待っている仕掛けの本当の意味にも気づかないまま、「駄作だった」という感想を持ってしまう。実際自分もそうだった。しかし映画館からの帰り道、いろいろと考えを巡らせていたら「実はものすごい傑作なのではないか?」という考えが宇宙船さながらに突然頭の中に現れたのだ!!伏線の張り方、そして最後に明かされたある仕組みを最大限に活かした編集。その意味が分かると恐らく多くの人が2度目を見てみたい!と思う見事な作品と言わざるを得ない。

ただし映画という意味では映像表現にもう少し工夫をしてほしかった。ルイーズを演じたエイミー・アダムスとその娘の物語がフラッシュバック的に何度か挿入されるのだが、娘は着実に歳を重ねているのだが、エイミーの顔はまったく歳を重ねない。あの仕組みを考えればフラッシュバックでありながら歳を重ねないのは逆の意味で不自然であり、ハリウッドのメイク技術をもってすればできないことでもないはず。
また宇宙人のデザインについても、もう少し何とかならなかったのか?と思わずにはいられない。今まで何度となくハリウッド映画の中で宇宙人は描かれてきているのだが、今作の宇宙人はオリジナリティがほぼない。一言で行ってしまえば7本足のタコ。彼らが地球に来た目的を考えれば前後左右という概念がないような外見としてあのデザインになったのかもしれないが、どうせなら前後左右だけでなく、そこに上下も加えて球状にしたり、複数の球を組み合わせた形態にするなり、別の表現方法があったのではないだろうか?

そして今作の最大の欠点はルイーズが中国の暴走を止めた1本の電話。この部分こそがこの作品のタイトルであり、一番重要な"メッセージ"のはずなのだが、中国語で話していて、日本語字幕だけでなく、英語字幕すらないという演出。
観客の想像にお任せします!的な演出というのも、なくはないのだが、それならそれで中国語で話しているシーンもカットすべきではないか?中国の観客だけはそのメッセージを理解できるわけで、中国語のわからない観客に中国語の意味を調べさせるという手間をかけさせる仕上がりになっている。もしかしたら中国資本が入っていて、故意にそうしている可能性もなくはないが、全世界で公開されることを前提としたハリウッド大作なのであれば、そこは全世界の観客が想像するなら想像するように編集すべきではなかったのだろうか?
もう1つ言えば中国の将軍がルイーズの言葉を信じるに足る理由が「奥さんの最後の言葉だったから」というのはやや強引過ぎるきらいもあった。

ダメ出しばかりしてきたが、作品の評価は8点。
ということでここからは良かった点。まずは宇宙人とのコミュニケーション。同じ地球人同士でも困難なコミュニケーションの難しさを宇宙人とのそれに置き換えることで現代の地球の置かれている状況に対する"メッセージ"を込めると同時に、コミュニケーションに使用した文字=墨で書いたような円形の文字もとても良い。宇宙人のデザインはイマイチだったが、この文字は彼らがもたらす全く新しい概念であり、映画を見終わって最後の仕組みの意味を理解するとその概念を表現するのにこの円形の文字以外には考えられないほど最適な文字だということがわかる。
劇中で説明された「サピア・ウォーフ仮説」=人間の考え方はその人が使用する言語によって影響されるという理論が、この円形文字を理解することでルイーズがとある能力を手にすることも理論的に正しいということを説明しているし、このあたりの脚本の構成は本当に素晴らしい!!

そして娘の名前、Hannah。これほどこの作品の内容を端的に表現し、かつ能力を手にしたルイーズの娘の名前としてこれ以上に最適な名前も他にない。

あらすじを簡単にまとめると、「突然やってきた宇宙人とのコミュニケーションを通してとある能力を手に入れた1人の地球人が地球を救う」というシンプルなお話なのだが、2つの科学的理論を入れたことでかなり深いSFヒューマン・ドラマ的な傑作に仕上がった。
1つ目は上述の「サピア・ウォーフ仮説」。そしてもう1つが「非ゼロ和ゲーム」理論。ゼロ和ゲームが誰かが勝者になると誰かが敗者になるという理論であるのに対し、簡単に言えばWin-Winの関係が「非ゼロ和ゲーム」。宇宙人が「非ゼロ和ゲーム」をするために地球に来ているのに対し、地球人は「ゼロ和ゲーム」の考え方をしてしまう。その例として麻雀の話が出てきたりするあたりの脚本も非常に上手いのだ!!

なるべくネタバレしないように書いたつもりだが、冒頭のモノローグの本当の意味に気づくかどうか?それがこの作品を傑作と判断するかどうかの分かれ目だ。
そこに気づきさえすれば、この作品がキューブリックの「2001年宇宙の旅」以上にいろいろな解釈をもたらし、スピルバーグの「未知との遭遇」以上にコミュニケーションの大切さを訴える作品であり、SF映画史に名を残す傑作だということがわかるのではないだろうか?

一口コメント:
キューブリックの「2001年宇宙の旅」+スピルバーグの「未知との遭遇」を2で割らないレベルの傑作です。

戻る