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フジテレビの球体が海面に浮いている予告編、そしてそれを製作したのが日本テレビというニュースを見て、2つの意味で衝撃的だった作品。AFMの試写会で見てきました。
関東で大規模な地震が発生した数週間後、ようやく都市としての機能を回復しつつあった東京。娘の誕生日プレゼントを買うために銀座で買い物をしていた元ハイパーレスキュー隊員の祐司のもとに、突然異常なまでに大きい雹が降ってくる。後頭部に雹が直撃した男性を助ける祐司の下に妻から電話がかかってくる。
地下鉄で新橋駅に駆けつけた祐司を駅構内に入り込んだ津波が襲う!!
何はともあれ、フジテレビが破壊されたシーン。映像は衝撃的だが、さすがに鉄の塊である、あの球体は水に浮かないでしょ?いや、そんな突っ込みはさておき、これを日本テレビが撮っているというのが衝撃的である。
さらに"水難事故"+"フジテレビ"とくれば、誰もが「海猿」を思い浮かべるだろうが、その主演の伊藤英明をこの作品でも主演に起用している。映画制作の裏側に見える黒い部分を想像すると非常に面白い。この映画で一番面白い部分かもしれない。
さて、本編について話そう。いろいろと突っ込むべきところはあるが、日本でこういうパニック大作が作られることは素直に嬉しいし、今後もどんどん作っていって欲しい。「ハリウッド作品と比べて迫力がない!」と言われるのは作る前からわかっているであろうが、そんな風に言われることを踏まえた上でこういったパニックものを作ってくれた製作者の皆さんに、まずは「ありがとう」と言いたい。(実際、同じ劇場で見ていた見ず知らずのアメリカ人は号泣してましたしね・・・)
ただし、やはりいろいろと粗がありました。ただし、それは映像的な迫力ではなく、脚本上の矛盾と言うか、演出上の矛盾というか、映像的な迫力とは違う部分の問題です。
たとえば、冒頭で大津波が襲ってくるんですが、あれだけの勢力で突っ込んできたはずの大津波・・・フジテレビが崩壊するほどの力を持っていながら、日本テレビがある汐留では特にそれほど甚大な被害は出ていない。というか、通常通りにニュース速報してしまっているのはどうなんでしょう?地理的には絶対日本テレビにも何らかの影響あると思うんですが・・・?
日本テレビはさておき、あれだけの大津波が東京を襲ったのであれば、死者・行方不明者が数十万人単位で出るはず。しかし、それが伝わらない。これは新橋駅だけに話を詰め込んだ脚本のせい。いや、話を新橋の一箇所にまとめて、物語の中心を設定したという意味では脚本はこれで正解と言える。だとすれば、監督の演出力の問題か?せっかく日本テレビのニュース速報を劇中で流しているんだから、そこで死者何万人とか、被害状況を伝えれば良かったのに、残念だ。
それ以前にもったいないのが、東京で大型地震が起きた数日後という設定。せっかく面白い題材を持ってきているのに、ぜんぜん活かされていない。大地震の描写があるわけでもなく、大地震があったという事実が津波後のトラブルに反映されるでもない。
地震がありましたよ!という設定だけで、それがものの見事に本筋に絡まない。ここまで絡まないのに、地震があったということだけ伝える。一体何の目的で地震という設定を持ち込んだのだろう?これなら、別に地震という設定はなくても何の問題もないし、むしろない方が良い。
次はキャスティングについてだが、伊藤英明のキャスティングについてはもうこれ以上何も言うまい。
そうなると、この役者についてだけは言わなければいけないのはキム兄。正直、このキム兄のキャスティングって、どうなんでしょう?東京に大阪人がいるのはまったく問題ないし、ストーリー上も大阪人が東京に製品を売りに来てる話だから、良いんだけど、何かキム兄だけがこの映画の中で妙に浮いている。演技力どうこうの話ではなく、何か浮いているんです。それはもちろん、大スターのようなすごいオーラを放っているという意味で浮いているのではなく、文字通り"浮いて"いるんです。(ある意味フジテレビの球体より、"浮いて"います)
もう1人、主要キャストで韓国人が出演しているんですが、彼女の方が馴染んでいる。東京だし、韓国人もたくさんいるだろうし・・・と納得できるんだが、なぜか同じ日本人のキム兄だけが浮いている。これは一体何なんだろう?
この映画、もちろんマイナス面だけの映画ではない。ところどころ泣けるシーンもいくつかある。
一番のキーポイントは仲間を助けられなかったという事件をきっかけにレスキューを止めた弟とその兄、という設定。そこにレスキューものにはつきものの"要救助者の命と隊員の安全のどちらを優先させるべきか?"という普遍的テーマが何度も絡まり合い、涙を誘う。
ただし、この普遍的テーマに関して、若いレスキュー隊員の演技が臭過ぎる、というか演出がベタベタ過ぎて、やや気持ち悪いくらいだ。10年前の日本ならまだしも、現代の日本で、そこまで暑っ苦しい若者はまずいないだろう!という演技+演出でやや引く。
それでも少しずつ物語りに入り込んでいき、ラスト近くで主人公の娘が泣くシーンはこちらも少しウルウル来る。こうなることは容易に予想できるありきたりの展開なのだが、それでもやはりこういう展開は嫌いじゃない。
しかしこのシーンでも粗が目立つ。地盤がもろくなっているから爆破での救出は危険だ!と言っていたはずなのに、爆破後にレスキュー隊員が、爆破によってさらにもろくなった地盤の上に大勢ひしめいている。爆破の前後で地盤の強度が急激に強まったらしい・・・と自分の中でそこは流す。
しかしその後に更なる"ドン引き"が待っていた。最後の結末のシーンだが、いくらなんでも、これはやりすぎだろ!と頭の中で突っ込んでしまう!しかも多くのレスキュー隊員がその場を取り囲んでいながら、誰一人手を貸そうとしない。もうドン引きです!
物語に入り込んでいれば、号泣するシーンなのかもしれないが、残念ながら入り込むことができなかった自分は冷めた目でラスト・シーンを見つめるしかなかった。
とはいえ、一緒に見ていたアメリカ人男性がラスト30分近く、ずっと号泣していたせいか、作品全体を通して見れば、パニック映画としては、楽しむことができた作品でした。正月映画としては、家族そろって楽しめる映画ではないでしょうか?