LIMIT OF LOVE 海猿 |
世界最大の映画マーケットであるAFM(American Film Market)の会場でやっていた作品で、ほぼ貸切の状態で見た作品でもある。
前作の映画に始まり、TVシリーズ放映を終えて、満を持して映画に戻ってきたという異色の作品でもある。
海上保安官で潜水士の大輔は、鹿児島に異動となった。そんな彼のもとに恋人の環菜が横浜から車で鹿児島まで会いに来ていた。環菜は手作りのウェディングドレスを大輔に見せに来たのだ、大輔はそんな環菜にプロポーズの返事を待ってほしいと告げる。
そんな中、鹿児島沖3キロで大型フェリーの座礁事故が発生。大輔をはじめとする海上保安官が素早くフェリーに向かうが、船は凄まじい早さで浸水を始め、傾いていく。更に船内には200台近くもの車が載っていて、引火すれば大爆発の危険もある状況だった。そして、パニックを起こして逃げ惑う620名もの乗客。その乗客の中に偶然にも環菜もいた。
何とか乗客全員を避難させることができたと思ったが、避難中に負傷した妊婦・本間の治療をしていた大輔は、逃げ遅れた男・蛯原、そしてバディの吉岡と共に部屋に閉じ込められてしまう。しかもその部屋の下の階は完全に浸水していて、上の階も火災が発生していて、どこへも逃げ道が無い!
上司である下川からの無線での指示により、何とかその危機的状況を脱した4人だったが、途中で爆発が起こり、吉岡が落下した鉄柵の向こうに取り残されてしまう。何とか3人で鉄柵を取り外そうとするが、どうにもならず、吉岡を残し、3人で脱出に向かう。「必ず戻ってくる」からと約束をして・・・。
そしてとうとう、20mのはしごを上りきれば、助かる状況になるが、上っている途中で再び爆発し、それに伴い船体が傾いていく。さらに上からものすごい勢いで水が流れ込み、とうとう3人は握っていたはしごの手を離してしまう―――!!
4月に日本に帰った時に、映画館で予告編を見た時から、期待していたこの作品だが、正直、期待以上のできだった。前作とは大違いで、かなりの完成度。
まずは今回も例に倣い、10隻近い船、そしてヘリコプターなど海上保安庁の全面協力ということもあって、とてもリアルな絵が撮れているし、前作の映画、さらにTVシリーズとやっているだけあって、役者の演技も堂に入ったものになっているし、CGのレベルもかなり高く、ハリウッド大作と比べても遜色ない。以前「HINOKIO/ヒノキオ」でも日本のCGについて書いたが、ひょっとしたら日本のCG技術のレベルは、ここ数年の間に世界でも有数のレベルになったのかもしれない。
そしてこの作品の一番すごいところは、2時間という長さの8割、9割を海難救助のシーンだけで乗り切った点。通常、この手の映画は事件発生前に、登場人物のバックグランドや交友関係などを描いた後で、本題の事件に入るものだが、この作品は最初の環菜のウエディングドレスを着たシーンと、ラストシーンの2つを除いて(どちらも数分程度)、すべて救助シーンなのだ。それでいて、登場人物のキャラ設定や、相関図の描写が薄いわけでもなく、1人1人の個性がしっかりと確立されているし、それぞれの信頼関係(時に"愛情"であり、時に"友情"であり、時に"師弟愛"である・・・)も丁寧に描かれている。
前置きになしに、いきなり本題に入る種類の作品としては、素晴らしい完成度だと言えるし、別に前作の映画やTVシリーズを見ていない、この作品がはじめての「海猿」だという人であっても、それは同じだろう。
そして感動的なシーンであっても、ちょっとしたボケを入れて、笑いを獲りにくるスタイルはもう邦画の域を脱していて、どちらかといえば、ハリウッド映画のスタイルに近い。
しかし、欠点もいくつかある。例えば、冒頭の航空機墜落事故の救助シーンは予算不足のせいか、見た目がしょぼく、ややリアリティーにかける(ただしそれを補う音響がきちんと施されているので、視覚で足りない迫力を聴力で補っている点はうまい)。
それと、登場人物を盛り込みすぎた感も否めない。その典型は地元TVのレポーター。環菜と共に避難するところから最後までずっと映り続けるキャラクターなのだが、この役の存在意義はない。はっきりいっていなくてもいいというか、いないほうが良いキャラクターである。このレポーターを描く時間があるのであれば、その他のキャラクターに時間を割くべきだし、このレポーターを描くのであれば、例えば、大輔と本部をつなぐ架け橋になるといった設定を織り込むべきだった。そういう意味で、このレポーターはいてもいなくても良い存在というわけだ。
しかし、本間と蛯原の2人に関しては、良かった。妊婦と逃げられた女房と子供にもう一度会いたいと願う男。特に蛯原の存在が大きかった。
最初はパニックになった状況でありながら、それを無視して、どうせ死ぬなら自分勝手に最後までやりたいことをやろうという感じなのだが、大輔、そして吉岡のバディとしての信頼関係を見ていくうちに、助かりたいという感情が表に出てくるというキャラクターであり、この作品の中でもっとも人間味にあふれた人間の1人であり、彼がいるのといないのとでは感情移入の度合いが大きく違っただろう。
おそらく今回アメリカで見たのは、日本版とはラストが違うらしい。違うというか、日本版はアメリカ版よりもエピソードが多いらしい。おそらく大輔と環菜の結婚式のシーンでもあるのではないだろうか?日本に帰った際にはぜひもう一度見てみたい作品、そして今年、ここまで見た中で最高の作品です。