名探偵コナン 漆黒の追跡者
採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2009年12月6日(DVD)
原作:青山 剛昌
監督:山本 泰一郎

シリーズ第13弾。13という数字にかけたらしく、久々に黒の組織が映画に戻ってきた。

梅雨明けの頃、東京、神奈川、静岡、長野で6件の殺人事件が発生した。現場には必ず裏に文字の書かれた麻雀牌が置かれており、警察は広域連続殺人事件と見て捜査会議を実施。事件は麻雀牌の意味、最後の犠牲者が残したメッセージ、「七夕・・・きょう・・・」の意味、被害者の共通点、被害者から1つずつ所持品を持ち去った理由、そして拉致現場と殺害現場が異なる理由、と多くの謎を残していた。
その会議には毛利小五郎も呼ばれ、コナンも一緒に警視庁を訪れていた。その時コナンは一人の刑事が黒いポルシェに乗り込むのを目撃する。それは黒い組織のジンの愛車であるポルシェだった・・・。さらに捜査が進む中で、黒の組織の一員が警察内部に潜入していることも発覚する・・・。

前作の最後についていた予告編で見たときから、ついにコナンの正体が黒の組織にばれるのか!?と期待していたが、予想通りの夢オチ。しかしそれがオープニングで描かれているため、作品全体に黒の組織の影を残像意識させるという意味では、素晴らしい始まり方だった。

しかし黒の組織をテーマにしていることもあり、例年の劇場版に比べ、原作あるいはTVシリーズを見ていないとわかりにくいというマイナス面が存在するのも否めない。
映画しか見ない人のために最低限の説明はされているとは言え、例えば「お前ちょっと痩せたな?」とか「お前がコーヒー(飲むのか)?」と言った台詞は、映画しか見ていない人には、ちょっとわかりにくい。
また各県警から集まってくる刑事たちだが、映画では初登場というキャラがほとんどで、黒の組織の人間が誰かに変装していると言われても、映画初登場のキャラに変装するわけもなく、自然と変装しているのが誰なのかが絞られてしまう。

ただし、広域連続殺人事件という1つの事件を追っていくうちに、別の事件が絡んでいることがわかる。しかも別の事件は黒の組織が引き起こしていて、しかも警察内部に黒の組織の内通者がいることも発覚するというストーリー構成は非常に良くできていて、コナンvs黒の組織vs警察vs真犯人という四つ巴の戦いという構図は非常に面白い。そしてそれを補う灰原の言葉がこの作品の核心を突く。

「まだわからないの?あなたが謎を解けば解くほど、あなたが工藤新一だってことがバレるのよ!」

刑事の中に黒の組織の新メンバーが紛れ込んでいる状況で、コナンが謎を解いていることがばれた場合、それは即座にコナン=工藤新一の周囲の人間にも危害が及ぶことを意味している。
この台詞は歴代コナン映画の中でも最高の台詞ではないだろうか?

台詞という意味では灰原と博士のやり取りは今回も大いに笑わせてもらった。
博士:「こないだから揚げ弁当を・・・」
灰原:「から揚げ弁当?」
博士:ぎくり
灰原:「またこっそりメタボってたのね」
灰原がそんな今風の言葉を使うとは・・・。真剣な台詞も、笑いの台詞も今回は灰原の台詞にやられたと言っても過言ではないです。

真剣な台詞という意味ではもう1つどうしても外せない台詞がある。それはコナンと服部。コナンが死を覚悟して、黒の組織との対決に臨むことを決めたことを悟った服部は「今度お好み焼き食べに来いや」と暗に"生きて帰って来い"とメッセージを送る。そして「絶対やぞ」と追い討ちの台詞。この2人の間にそこまで深い友情が芽生えていたのか?とちょっと感動。

そしてクライマックス。さすがに黒の組織ということで東京タワーならぬ東都タワーへ軍用ヘリからこれでもかというくらいの銃撃を浴びせ、コナンに反撃のチャンスを与えない。
そこでコナンがとった行動は「ダイハード」のマクレーン刑事も真っ青のダイブ。実写版でちょっと見てみたいとは思いつつ、あまりにも不自然が続いたクライマックスのため、ちょっと失笑。

それはDAIGOのあまりにもミスマッチな声優から始まった。クライマックスの盛り上がるシーンで一人だけ明らかに浮いている・・・。声優という職業の大切さを痛感させてもらったという意味では良かったが、作品的には大いなるマイナスだった。
そして数メートルという至近距離で銃弾を交わす蘭。お前はMATRIXか?しかも新一のヒントが「ライフル銃は秒速1000mだけど、普通の銃は300mくらいなんだぜ!」って、人間技じゃないだろ?それとも空手が強いとそれくらいの反射神経を持てるのか?
でもって、タワーの下にパトカーが何台もいて、タワー上部で、すさまじい銃撃が起こっているにも関わらず、下の警察は何もしないし、警察のヘリも出動しないという状況・・・。
そしてかなりの数の刑事がタワーに侵入したにも関わらず、全員たった一人の黒の組織の内通者にやられてしまったわりには、蘭一人に結構てこずってしまうという設定。
さらにあれだけヘリからのライトに照らされながら逃げているにも関わらず、黒の組織は「子供じゃないか!?」の一言も発せず、最終的に内通者と一緒にいたのが誰だかわからないというしょぼい組織という印象を植え付けられてしまった。
印象という意味では佐藤・高木刑事が乗っていた車を狙撃する際にタイヤをパンクさせたのも印象という意味ではマイナスだった。今までの組織のやり方であれば、パンクではなく、2人の頭部を狙撃すべきだったのでは?佐藤・高木という重要なキャラだからというのはわかるが、そこは現場に向かうのを他の刑事にしてでも、暗殺させるべきだったのではないかと思う。それでこそ、黒の組織の恐怖が引き立ったはずだから・・・。

それで内通者が探していた黒の組織の情報が入ったメモリーカードは結局どうなったんだ?物語の一番の重要アイテムの行方については触れないまま終わってしまって、拍子抜け。どうせなら内通者の射殺シーンでメモリーカードも撃ち抜くシーンを入れておけば、それで解決したのに・・・。

映画版コナンは大きく分けると3つの要素から成り立っている・・・と個人的には思っている。1つ目が推理・謎解き。2つ目がパニックあるいはアクション。そして3つ目が人間ドラマ。
1つ目の謎解きが今回は正直イマイチだった。黒の組織との絡め方は良かったのだが、謎解きそのもののレベルは「おぉ、なるほど!」ではなく、「それはちょっと強引すぎだろ?」といった感じで、シリーズの中でも下のレベル。
2つ目のパニックあるいはアクション的要素はクライマックスの銃撃を除けば皆無。3つ目の人間ドラマはさすがに黒の組織の登場もあり、濃厚なレベルと言える。
総合的に見ると謎解き、アクションのレベルが低いため地味な作品だが、それでも濃厚な人間ドラマのおかげである程度のレベルは保たれているのではないだろうか?

一口コメント:
予告編によって期待値がかなり高めになっていたせいもあって、そこまでの満足感は得られなかった。

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