名探偵コナン 戦慄の楽譜 |
シリーズ第12弾。
高名な元ピアニストの堂本一揮が創設した堂本音楽アカデミー。その門下生3名が死傷する爆破事件が起こった。
一方コナンたち一行は堂本一輝が作ったコンサートホールを訪れ、そこでコナンは数日後のこけら落としコンサートに出演するソプラノ歌手・秋葉怜子と知り合う。実はこのコンサートの出演予定者の1人も音楽家連続殺人事件に巻き込まれ、重傷を負っていた。そして数日後の講演当日、コナンと秋庭はホールの外を歩いている途中、何者かに襲われてしまう―――。
前回「紺碧の棺」がシリーズ最低の駄作だったため、そこまで期待していなかったことが逆に功を奏したのか、かなり面白いと思えた作品。
思い返せば、いつの頃から作品にテーマが設けられるようになったこのシリーズ。飛行機、豪華客船、海賊船・・・。そして今作のテーマは音楽。しかもクラシック。とても子供向けアニメが扱うテーマではない。逆に前作が大人はしらけてしまうが、子供は好きそうな題材だったと考えるべきか?いずれにせよ、今作は完全に大人を対象とした作品になっている。
劇場版コナンは大きく分けると2つに分かれる。
1つは推理・謎解き中心の探偵もの。もう1つはアクション中心の冒険活劇。前者は映画初期の作品に多く見られ、最近の作品は後者のものが多い。わかりやすく実写で例えるなら前者は「刑事コロンボ」、後者は「インディー・ジョーンズ」か「ナショナル・トレジャー」か?
そして、今作は久々に前者に意識が戻ったと言える作品。その証拠に今回は阿笠博士の秘密道具はほとんど出てこないし、少年探偵団の活躍もほぼゼロである。
ただし、結論から言うと、そこまで複雑な謎解きではなかった気がする。これは作品の謎解きのレベルが下がったのか、それとも「古畑」や「金田一」、そして「コナン」を見続けることで自分のレベルが上がったのか?あるいは「容疑者Xの献身」のあまりにも華麗すぎる謎解きと比べて見劣りするからなのか?いずれにせよ、すべての謎解きが終わった後の鮮やかさが物足りなかった。
とはいえ、コナンの基本とも言うべき、人間ドラマという点においては、過去最高レベルの仕上がりかもしれない。というのは、ソプラノ歌手、秋庭怜子、この女性の存在がコナン映画史上、最高レベルのキャラクターとして成り立っているから。
登場時はとても嫌な女として描かれていて、子供に対しても、壁を作ってしまうような人物として描かれていたのだが、物語が進むにつれて、その壁が徐々に崩れていき、物語中盤からはコナンと2人で作品を動かしていく。この音楽をテーマとした作品の中で登場する3人の絶対音感の持ち主の1人であり、その絶対音感を元に謎解きにも関わってくる彼女。
レギュラーではないキャラクターがコナンとコンビを組んでここまで活躍するなんて、ある意味、非常にもったいない。怪盗キッドや服部のように今後も定期的に出演してもらいたいとすら思えるほど、本当に素敵なキャラクターであり、名コンビです。
"憎さあまって可愛さ100倍"とはよく言ったもので、最初憎らしいキャラとして描かれていたこともあって、コナンとコンビとなってからの彼女は本当に素晴らしく、コナンのために一肌脱ぐ彼女、そしてそんな彼女の行動・そして隠れた優しさに応えるコナン。なんとも言えない絶妙なコンビネーションなのだ。
また作品中で新一と蘭が些細なことからはじめたケンカの仲直りのきっかけとなるのも、この秋庭という設定も憎い。
そんな名コンビを中心にして、周囲の人物を描くことで、物語は進んでいくのだが、こいつ、怪しい!と思える容疑者の候補を次から次へと登場させるわけではなく、最後の最後まで誰もが怪しいという状況で物語が進んでいくため、二転三転はしない。
ここがこの作品の弱いところである。というのは犯人の目星がついてしまった人からすると、二転三転がないため、"あれ、こいつじゃないの?"という感覚がないのだ。イコール、やっぱりコイツか!で終わってしまうから・・・。
この点がもっと二転三転するような展開であれば、コナン史上最高傑作にもなり得る要素は持っていただけに惜しい。あるいは二転三転しなくても、誰もが怪しいではなく、誰も怪しくはないのに、どうやって殺したんだ?という犯人ではなく、殺人方法に注目させる展開にしていてくれても面白かったかもしれない。
あと今回は音楽がテーマとなっており、アニメでありながら、楽器の演奏シーンはとても丁寧に描かれている。中でもパイプオルガンは素晴らしい。鍵盤の上を走る指の動きとパイプオルガンの音がとてもマッチしていて、よくぞアニメでここまでシンクさせることができたものだと感心させられた。
ただし、バイオリンに関してはそこまでシンクしていなかったのが、残念ではある。が、それこそ本来のアニメの姿であり、アニメにそこまで要求するのも酷であり、パイプオルガンが良い意味での例外なのだ。
そして何より音のクオリティーが非常に高い。パイプオルガンやバイオリンなどの楽器の音はもちろんのこと、ソプラノの独唱も素晴らしい。しかも歌っているのが「アメージング・グレース」だから、たまらない。DVDでこのクオリティなのだから、映画館で聴いたら、感動するに違いない。
できることなら、映画館で見てみたかった作品であり、その場合は点数も上がっていた可能性も非常に高い。
そして音楽と言えば、今回は劇中でコナンのテーマ曲が流れなかった辺りにもセンスを感じます。映画のお約束である「ラーン」、「新一ーーー!」の掛け声もいつの頃からか、シチュエーションはあるのに、台詞自体はなくなり、作品にセンスを感じるようになりましたが、今回テーマ曲を流さなかったのも同じような感覚で受け止められました。
とはいっても、作品によってはテーマ曲は流して欲しいとは思いますが、今回の作品に関して言えば、流さないで正解だったのではないか?と思います。
そして毎度おなじみのアニメだからこそ許せるシチュエーションもいくつかありました。湖の上から電話をかけるための名コンビの活躍。
ホールの外が爆発されていることにホール内の人間は誰一人として気付かず、さらに警察も中に入ることができないというシチュエーション。シチュエーション自体の説明が、完全防音だからとかいろいろあり、納得できる理由ではあるのだが、ただ映画としての見せ方という点において、やはりそこは警察を突入させるなり、ホール内部の人間が爆発の事実に気づくなりの演出はあった方が良かったのではないだろうか?
というのも、会場の周辺が爆発をしていても、会場の中にいる観客が爆発している事に気づいてないので、1つの作品として見た場合の映画としての緊張感・危機感がやや足りない。(無論ソプラノの独唱を見せたい、とかコンサートの壮大さを伝えたいといった作り手の趣旨もわかるが・・・)
要するにコナンと一部の警官が危機感を感じているだけでで、その他の登場人物は、蘭や少年探偵団(灰原は除く・・・)たちですら、事件がおきているなど知らないまま最後まで行ってしまうのです。
まとめると謎解き中心だが、謎解きそのものはそこまで難しくはないものの、歴代最高のキャラ秋庭と壮大なオペラによって、映画館ならではの楽しみ方をできる作品だと思います。