名探偵コナン 異次元の狙撃手 |
先月TVで放映されていた「ルパン三世 VS 名探偵コナン THE MOVIE」に引き続き、コナン劇場版最新作、かつ歴代最高の興行収入をあげた作品、そして名探偵コナン連載20周年記念作品ということで鑑賞した作品。
ベルツリータワーのオープニングセレモニーに参加していたコナンの目の前である客が狙撃される。コナンは射撃角から狙撃ポイントを割り出し、スケボーで現場に向かう。世良やFBIの助けを得ながら犯人を追跡するが、あと一歩のところで犯人を取り逃がしてしまう。
狙撃ポイントに残されていた薬莢とサイコロの意味を求め、すぐに捜査会議が開かれ、FBIの情報からティモシー・ハンターという男が容疑者として浮上する。ハンターはアメリカ軍のネイビー・シールズの元隊員で、狙撃の名手として名を馳せた人物だったが、規程違反の疑惑によって除隊させられていた。そのハンターはアメリカで執拗な取材をしてきた記者を狙撃した後、日本に入国したためFBIも彼を追っていたのだった。そしてハンターはさらに3人の人物を殺害する可能性が高いという情報も入ってくる!!!
久々に濃い内容の劇場版コナンだった。ここまで銃撃戦を描いたコナン映画がかつてあっただろうか!?そしてここまでシリアスなコナン映画がかつてあっただろうか!?
ここ数年恒例となっていた一般の子供たちの声優挑戦がなく、いつもならそこで映画の世界観から現実世界にどうしても引き戻されてしまうのだが、今回はそれもなく、またゲスト声優であるパトリック・ハーランと福士蒼汰も違和感なく、最初から最後まで映画の世界観に浸ることができたのも大きい。もう1つ、最近のコナン劇場版では犯人の動機と殺人の規模がかなりかけ離れていたのだが、その点においても前作で解消されたのに引き続き、今作も最後まで安心して見ることができた。
そして何よりFBIの登場によって物語り全体が引き締められたのが大きかった。作品の中で何度も出てくる英会話+日本語字幕のシーンはFBIが絡んだからこその演出であり、完全に子供向けアニメの域を脱している。
銃撃戦もFBIあってこそのものだし、今回のストーリーの中心とも言える秀(赤井)もFBI捜査官。特に銃撃戦のシーンは日本のアニメ映画においては、ここまでハードかつシリアスな銃撃戦は稀ではないだろうか?と思えるほどのレベル。ハードなだけ、あるいはシリアスなだけの銃撃戦であれば、他のアニメ作品でもあったが、その両方を兼ね備えた作品となると記憶にない。しかもそれが本来子供向けアニメであるはずのコナンの世界で行われているのだから、驚きだ!
この辺りの演出は歴代コナン作品の中でも群を抜いている。完全に大人向けの作品と言っても良い。例えば、無差別殺人のニュースが流れて、街から人が消えている中、コンビニの前の駐車スペースで爆竹を使って調子に乗っている馬鹿な若者の描写を入れたのは本当に秀逸だった。
それでいて子供向けの要素もきちんと残している。定番の駄洒落クイズを出すまでの流れと言い、「灰原が言うなら仕方ないか?」という少年探偵団の博士に対する冷ややかな目線など、笑える。それでいて出されたクイズが駄洒落にすらなってない。それを受け、今後は駄洒落クイズは灰原が担当する!という流れ、ギャグもシュールかつ秀逸だ!
冒頭でばら撒かれた伏線の回収もお見事。博士が用意する花火ボール、新しい探偵バッジ。どちらも見事に事件解決に役立った。中でもモスキート音が鳴る探偵バッジはどうやってストーリーに絡んでくるのか?と思っていたらクライマックスで綺麗にその伏線を回収。素晴らしい!の一言。
さらに犯人が毎回犯行現場に残す薬莢とサイコロ。目が減っていくサイコロに込められた偽の意味と本当の意味、「あぁ、そうきたか!」と偽の意味にだまされた自分だったが、こちらもお見事!の一言に尽きる。
そして何といっても原作やTVアニメでも明らかにされていないある謎の解明。その解明方法もまた秀逸だった。
世良が病院のベットで寝言で漏らした兄の名前・・・。
その脇においてあるお見舞いの花・・・。
コナンのファンなら奮えること間違いなしの演出。原作よりも先に謎を明かす決断をした作者の英断があってこその今作の質の高さ。コナン劇場版歴代最高興行収入も納得の内容となっている。
そして何より今作は久々に犯人側に濃厚なバックグラウンドを持たせていたことも大きい。
ここ数年の劇場版は、犯行そのものはスタジアムやダムを爆破するという大規模なものであるにも関わらず、犯人の動機がしょぼすぎて犯人側に感情移入できない状態が続いていたのだが、今作はその辺りも上手い!スナイパーという職業、勲章を剥奪された元軍人という立場、師弟愛、そして師匠から弟子に課された最大のミッション・・・そしてそのミッションにおける師弟の躊躇い。その躊躇いからコナンやFBIが真犯人へ至る道を切り開くという流れ。
この男たちの熱いドラマは本当に素晴らしい!
とはいえ、気になった点もいくつかある。
例えば冒頭のコナンのスケボー・チェイス・シーン。犯人を捕まえるために、他の車を巻き込んでしまう。今までの作品ではそんなことはなかったと思うのだが(もしかしたらあったかもしれないが、今までは気にならなかった)、今回はコナンの文字通りの暴走のせいで交通事故が多発し、巻き添えになった一般人が多数いると思われる。裏を返せばこうしたハリウッド映画的な演出があったからこそのシリアスな展開とも言えるのかもしれないが、この部分をもう少し日本の現状に合わせたリアリティのある演出になっていればなぁ・・・とも感じたのも事実。
何はともあれ、今回解き明かされた謎を踏まえると、コナンもそろそろエンディングが近づいているのだろうか?考えてみれば原作開始から20年も経っている。この20年の間に「ドラゴン・ボール」が終了し、「スラムダンク」が終了し、さらには昨年末、「NARUTO」までもが終了している。
原作は2015年2月現在85巻、1億5000万部を超える発行部数を誇っているのだから、もうそろそろ・・・という思いが芽生えても不思議ではない。今年の劇場版は久々に怪盗キッドが登場するらしい。今作のようなシリアス路線にはならないだろうが、期待したい!