鋼の錬金術師
採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2017年12月23日(映画館)
主演:山田 涼介、本田 翼、ディーン・フジオカ、松雪 泰子
監督:曽利 文彦

月刊少年ガンガンにて連載され、アニメ版映画も2回作られ、更にはアメリカでも劇場公開されている原作の実写化ということで、悪い意味で話題になっていた作品。

死んだ母親を復活させるべく錬金術で禁忌とされる人体錬成に挑戦したエドとアルの兄弟。錬成は失敗に終わり、エドは左脚を、アルは体全体を喪失してしまう―――。 その後エドは心理の扉を開け、自分の右腕と引き換えにアルの魂を鎧に定着させることに成功する。エド自身も失った左足と右腕にオートメイルと呼ばれる機械鎧を装着し、史上最年少で国家錬金術師となり、鋼の錬金術師と呼ばれる存在となっていた。そしてエドとアルは失ったものを取り戻すため、賢者の石を探す旅に出る―――。

良くも悪くも(どちらかというと悪い方が大きかったか?)評判になっていた作品だが、個人的には悪い意味での前評判のおかげでハードルが下がっていたせいか、意外と楽しむことができた。
とはいえ、物語に入り込めるかどうかを決める最初のオープニングが違和感満載だったため、世界観に入り込むまではかなり厳しいものがあったのも事実。日本人の子役2人が金髪にして、母親に接するシーン、違和感あり過ぎて興醒め。そこは外国人の子役をキャスティングしても良かったのではないか?主役の山田涼介とは違い、この2人の子役で客を呼んでるわけではないのだから・・・。
もしかしたら「日本語を話せないとダメなので」的な理由があるのかもしれないが、それならその後に続く、人体錬成のシーンでの2人の演技力の無さときたら、TVドラマであっても許されないレベルなので、2人の子役は無言で演技をさせて、山田涼介の声をナレーションとしてかぶせた方が良かったのではないか?と心の底から思った。

・・・とまぁ、オープニングは史上稀にみる低レベルな幕開けだったこともあり、世界観に入り込むのに苦労をしたのだが、その直後のイタリアの街中での神父との錬金術バトルのシーンは「三丁目夕日」の山崎貴監督と並ぶ、日本を代表するCG監督・曽利さんの力もあり、かなりのレベル。いや、このシーンを盛り上げるためにわざとオープニングのレベルを最低にしたのかもしれない?と勘ぐってしまうほどの出来栄えだった。
錬金術を使ったバトルとその直後のアルの説明を通して、この世界観に入るために必要な最低限の情報がすべて伝わる。日本映画だとこのあたりを言葉で説明することが多いのだが、この作品はそこを絵で見せるという本来の映画らしい伝え方で、文字通り"見せて"くれる。

このシーンを見て、テンションが上がり、ラストにはもっと壮絶な錬金術バトルが待っているか?と思いきや、この作品の一番の見せ場はここで終わってしまう。そもそも錬金術同士のバトルはこのシーンしかなく、後は人造人間であるホムンクルスとの闘いばかり。
エドやマスタング大佐は錬金術を使うのだが、ホムンクルスの戦闘手段は錬金術ではないため、結果神父との戦闘シーンほどの盛り上がりには欠ける内容となってしまった。

マスタング大佐と言えば、原作もそうなので仕方ないと言えば仕方ないのだが、強すぎる。最後の戦いなんてエドとどっちが主役かわからないくらいの大活躍で、作品を締めくくってしまう!
焔の錬金術師という設定は原作と同じなのだが、描き方はかなり異なる。原作では爆発が主なのだが、今作では火炎放射器のような描き方をしている。映画という特性上、それはそれでありだと個人的には感じた。

原作がしっかりしていることもあり、この作品もストーリー展開そのものはかなり良い内容。
ヒューズ中佐とマスタング大佐の友情であったり、合成獣キメラの錬金術師ショウ・タッカーの娘すら犠牲にしてしまうほどの苦悩だったり、賢者の石に隠された秘密であったり・・・。1つ1つを深く描くだけでも1本の映画になるほどの内容だ。
しかしそれを詰め込んでしまったため、1つ1つの要素がやや薄くなってしまっている。特にヒューズ中佐とマスタング大佐の友情については、もう少し時間をかけて丁寧に描くか、あるいは思い切って「ヒューズの敵」という怨恨風な描写は捨てて、単純に正義(錬金術師軍団) vs 悪(ホムンクルス軍団)という描き方にして、他の要素に時間を回すなどの工夫があっても面白かったかもしれない。

ホムンクルス軍団に関していえば、松雪泰子演じるラストはものすごかった。批評として"ものすごかった"という言葉を使うのもどうかと思うが、とにかく"すごかった"のだ!!「容疑者Xの献身」の際はミスキャストだと思ったのだが、こういうキャスティングもあるんだ!と素直に感心させられるほど、"ものすごい"キャスティングであり、演技だった。
内山信二演じるグラトニーは見た目はナイスキャスティングだし、「食べていい?」のセリフも良いのだが、実際に捕食するシーンはもう少し描き方がなかったのか?というのが率直な感想。牙が出てくるところまでは良いのだが、その後あのスピードで追いかけられても怖くもなんともない。マスタング大佐の炎の描き方を原作から改変しているのだから、ここもスピードを変えるなり、ダイソンばりの強力な吸引力を足すなりして、恐怖感を煽る演出をしてほしかった。

キャスティングという意味では、とにもかくにもイタリアの街にオール日本人で金髪のカツラを付けて青い軍服を着ているのはやはり違和感しかないのだが、エキストラレベルの役者は現地調達ではダメだったのだろうか?仮に日本で撮影しているとしても、主要キャストはイタリアまで撮影に行っているのだから、そこで一緒に撮影してくるくらいの予算もあっただろうに・・・。
ヨーロッパ風舞台のファンタジー作品を日本人キャストで実写化という点では、「テルマエロマエ」と比べるとどうしても見劣りしてしまう。後者はそもそもコメディだったから許されたとはいえ、キャスティングに力を入れていたことは一目瞭然だ。
本田翼演じるウィンリィと本郷奏多演じるエンヴィーについては敢えてノーコメントで・・・(お察しください)。

全体的には前評判ほどの悪印象ではないものの、盛り上がりの見せ方、ストーリー展開の順番などにもう少し工夫が見られれば、より良い作品に仕上がっていたと思われるだけに残念ではある。
エンドロールの終わった後に、続編を暗示するようなシーンがあるが、果たしてどうなることやら?

一口コメント:
錬金術バトルの内容は期待以上で、西洋風ファンタジーのオール日本人キャストという部分に関しては前評判通りの作品でした。

戻る