インシテミル
7日間のデス・ゲーム
採点:★★☆☆☆☆☆☆☆☆
2010年11月13日(DVD)
主演:藤原 竜也、綾瀬 はるか、石原 さとみ、北大路 欣也
監督:中田 秀夫

ホリプロ50周年記念映画ということで、藤原竜也、綾瀬はるか、石原さとみ、北大路欣也、さらに2時間ドラマの女王片平なぎさといったホリプロのそうそうたる面子がそろい、「リング」の中田監督ということで期待していた作品。

フリーターの結城は、コンビニで出会った女性に紹介された時給11万2000円のアルバイトに参加する。その内容は、暗鬼館という密閉空間で、男女10人が7日間暮らすという心理実験。午後10時以降は部屋を出てはいけないなどのルールがある中、2日目の朝、参加者の1人が死体で発見される―――。

久しぶりの駄作です。

"究極の心理戦"とチラシに書いてあるにも関わらず、どこにも心理的駆け引きは出てきません。ただ人が死んでいくだけ。それもホリプロ内での格付けにしたがった順序で死んでいくので、つぎはコイツが死ぬなと思っている人間がその順序に従って死んでいく。
どうせなら主人公の藤原竜也は無理だとしても、せめて綾瀬はるかや北大路欣也を最初に殺すくらいのひねりがあっても良いのでは?あるいは集められる"ホリプロ"の10人を藤原竜也、綾瀬はるか、石原さとみ、北大路欣也の他に香椎由宇、深田恭子、和田アキ子、鹿賀丈史、妻夫木 聡、松山ケンイチの6人にして、格付けの格差がより少ない設定にしてもらえると、見ている側としても最初に和田アキ子が死んで、次に松ケン?とハラハラしながら見れるのに、残念だ。ホリプロ出資のホリプロ・キャストの映画だから集められないこともないと思うのだが・・・。
サスペンス映画は誰が殺され、次に誰が殺されるのかわからない設定が面白いのだが、この映画においてはそれはまったくない。悪い意味で観客の期待を裏切らない映画である。

話は戻って"心理戦"。密閉空間で人が死んだのだから、通常誰がどうやって殺したのか?犯人が誰なのかを論理的に推理していくのだが、この作品は今までになかった方法を取る。それは多数決。コイツが怪しいと思った人間を多数決で犯人かどうかを決める。推理の"す"の字の横棒すら書かない。
さらにその多数決というルールも最初の1回きりで後は人が死んでいくだけ。そのどこに心理戦があるのだ?

そもそもこの映画の設定はおかしな点が多すぎる。
まず暗鬼館へ入る前に私物をロッカーに預けるシーン。あんな自己申告な預け方で誰もチェックしないのはありなのか?そもそも預けてくださいと言われて10人が全員あんなに素直に預けるものなのか?1人くらい隠れて携帯を持ち込んで、それがその後のストーリー展開上重要なアイテムになるとかの展開が欲しい。
そして心理実験の内容が説明される段階で、まだ何をするかわかっていないのにも関わらず、参加者が恐怖感を募らせているシーンは何だコイツら?と思わせるだけで、何の感情移入もできない。何に怯えているんだ?
登場人物という意味では1人1人の背景描写がないため、まったくもって誰にも感情移入できない。唯一、北大路演じる人物だけは背景描写があるが、禁酒をしているが酒が飲めなくて苦悩するシーンがないため、その設定も真実味がない。
さらに既に殺人が起きているにも関わらず、小説の続きが読みたいからと一人で夜中に部屋をでるというなんとも間延びした設定、殺人の方法が天井落下によるものだとわかっているにも関わらず、その天井のある部屋で何の備えもなしにノンビリと話し続ける描写などサスペンス要素ゼロである。
また扉を閉め切ると外の音が聞こえない完全な防音となっているはずが、最初の殺人が起きた時に悲鳴が大きく響き渡って全員がかけつけるというのにも興醒め。結城の部屋は来客があったので、扉が開いていたとしても、その他全員の部屋の扉が開いていたとは思えない。
そして最大の設定ミス。この密閉空間で行われている殺人ゲームをネット中継し、その課金による儲けを賞金にするという設定。わからなくはないが、何百、何千万という人間が見ていて、今回のゲームが2回目以降の開催であるにも関わらず、10人集まって誰もその番組を見たことがないという設定はどうなんだ?そもそも殺人映像をネットで有料公開して、大多数の人間が見ているにも関わらず警察が出動しないなどあり得ない。これをするならもっとファンタジーの世界設定にする必要がある。例えば2100年、殺人が合法化された世界になっているとか・・・。

この映画のジャンルをどう表現すべきか非常に迷うところだが、宣伝方法を見る限り、サスペンス・スリラーと位置づけるのが適当だろう。しかしサスペンスの醍醐味でもある心理戦は上述のように皆無。またもう1つの醍醐味である謎解き要素も残念な結果に終わっている。
例えば、せっかくの高額時給11万2千円という設定を活かしきれてない。どうせならもっと金に困った人物ばかりを集めるなり、10万ではなく、15万でもなく11万2千円という中途半端な金額にした理由も最後まで明かされることはない。ここに何らかの理由や意味があると話のメリハリが聞いて面白くなったと思うのだが・・・。ひょっとしたら原作にはその意味があるのかもしれないし、原作にはきちんとした心理戦が描かれているのかもしれないが、残念ながら映画には描かれていない・・・。

そもそも中田監督は何をしているんだろう?ホラー映画の巨匠として、「リング」で世界中を恐怖させたあの演出はどこに行ってしまったのだろう?欧米のスプラッター映画ならいざ知らず、日本映画における"恐怖"というのは見えないからこその"恐怖"あり、リングでは"貞子=超能力/念力"という目に見えないものを通してあれほど見事な"恐怖"を演出していたのに、この作品では見せすぎだ。
石原さとみが片平なぎさを殺害するシーンをあの段階で見せたのがその最たる例で、本来なら不気味な存在であるべき世話係のガードも、最初に見せるべきではない。あるいはもう1つ別のガードがいるなどの設定がないと怖くないし、そもそもガードのデザインが怖くない。
でもって上にも書いたように登場人物の背景描写がないから感情移入できない。感情移入してないから、心理的恐怖に共感することもない。そして映像的に怖がらせようとしても本来怖いはずのものを見せてしまっているために怖くない。
要するにサスペンス映画としてもホラー映画としても、中途半端なのである。もっとどちらかを追求した演出を心がけるべきだったのだろうが、残念な結果に終わってしまった。

正直、よくこの脚本でホリプロは50周年記念の映画を作ろうと思ったなと感心してしまう。そもそもこれだけのメンバーでなぜ50周年をサスペンス映画にしようと思ったのだろう?どうせなら中身のあるドラマとかすれば良いかったのに・・・。
さてボロクソに書いてきたが、もう1つおまけに書かせてもらうとすれば、藤原竜也の演技。以前見た「カイジ」という映画のキャラクターとまったく同じ演技で驚いた。演技派として名を馳せていたはずなのに、2つの違う作品で、ここまで同じ演技ができるとは良い意味でも悪い意味でも驚きです。
逆に良かったのが石原さとみと武田真治の2人。石原さとみは今まで演じてきた清純派や明るいキャラとは異なり、影のある謎めいた女性を演じている。その凛とした表情が実に良い。今後、冷酷な天才犯罪者という役柄も見てみたいと思わせてくれる演技だった。
そしてこの作品でもっとも輝いていたのが、武田真治。始まってすぐに監獄に投獄されてしまうのだが、予想通り最後に美味しい場面を持っていく。その土地狂ったバットマンのジョーカー的演技が絶妙。作品全体の内容が薄いだけにその輝きは素晴らしいものがある。

全体を通して見ると、最近見たばかりの「ライアー・ゲーム」の心理戦が歴代日本映画の中でも1、2を争う心理戦を描いていただけに、この作品の"究極の心理戦"とは名ばかりの中身のなさには興醒めさせられた。
間違っても続編の製作はしないで欲しい。

一口コメント:
"究極の心理戦"とは名ばかりの、中身のない、ただのホリプロ格付け殺人映画です。

戻る