ライアーゲーム
ザ・ファイナルステージ
採点:★★★★★★★★★☆
2010年10月30日(DVD)
主演:戸田 恵梨香、松田 翔太
監督:松山 博昭

フジテレビの深夜枠(しかもその枠からは別の作品も前後編の2部作の作品として映画化が決まっている)のTVドラマから始まり、ゴールデンタイムのドラマへ昇格、と2クールのTVドラマを経ての映画化。ドラマ放送時から期待していた完結編ということで見た作品。

ライアーゲーム最終戦に、神崎直、秋山深一らプレイヤーが呼び戻される。決勝戦のゲーム"エデンの園ゲーム"は、金・銀・赤の3色のリンゴから各プレーヤーが1つずつ選ぶという単純なもの。全員が赤を選択すれば、参加者全員が1億円を獲得できる。しかし、もし金・銀に手を出した者がいた場合、赤を選択したプレイヤーはマイナス1億円となり、金・銀を選んだものは更なる高額を得られるチャンスが与えらる。しかも赤を選んだ人間が1人だけだった場合は、特別ペナルティーとしてマイナス10億円となる。
全員が赤を選択し続ければ、全員が賞金を得られるが、それを裏切り、金・銀を選んだものはより高額の賞金を得られ、裏切られたものは賞金を得るどころか借金を背負うことになる、つまり、裏切り=高額賞金、正直者=借金という構図だ。それを13回繰り返すという単純なルールだが、賞金を巡り参加者11名の心理戦・頭脳戦が繰り返される―――。

以前「g@me.」でも同じことを書いたが、この作品もハリウッドでリメイクしたら、全世界で大ヒットするレベルの脚本である。
言うなれば「ライアーゲーム」という名のブランドをなくしても、すさまじいまでの面白い内容であり、キャラ設定や舞台を変えるだけでどこの国のどんな映画にもアレンジが可能な作品である。同名漫画原作のTVドラマの映画化ではあるが、映画化に関しては漫画とはまったく異なるオリジナルの脚本らしい。正直、日本でここまでの完成度の高い映画オリジナルの脚本が登場するとは思いもしなかった、というかハリウッドに持っていってもおそらくアカデミー賞脚本賞を狙えるレベルではないだろうか?

誰もが知っているようなゲームではなく、映画オリジナルのゲームではあるものの、ルールが非常に単純で、11人それぞれが3色のリンゴから1色を選び、その組み合わせで賞金を得るか失うか、それだけのルールである。
単純なルールだからこそのゲーム参加者同士の言葉の駆け引きが面白いし、単純なルールだからこそのグレーゾーンを使った裏技に登場人物だけでなく、見ている自分もだまされる。13回戦の1回戦ごとにドラマがあり、ただの1回も手抜きがないし、ネタも切れない=1回戦ごとに伏線が張られ、また回収されていく。中でも途中、秋山が退場させられる敵キャラXの心理戦+頭脳戦は見事。心理的に直を追い込み、その直の心理を使って秋山を退場させるそのアイデアはお見事。そしてもちろん復活後の秋山の手際も見事。Xを追い込んでいく際のリンゴと焼印の使い方も、これまたお見事である。
とにかくスピード感が凄くて、中弛みがなく、2時間を超える上映時間が本当にあっという間だった。人間の心の奥にある人を信じる心を欲望と不信感を用いてかき回しながらの頭脳戦を、スピーディーかつスリリングに見せてくれる。

例えば、TVドラマの映画化には欠かせないオープニングにおけるドラマ版の解説は主人公のキャラ紹介以外は皆無で、いきなりゲームが開始されるため、正直ドラマを見ていない人には、この映画の世界観はわかりにくい。というか、こんな世界あるわけない!という始まりである。そりゃ優勝賞金50億円を巡って、1億円単位でゲームをするなんて世界あったら、日々働くのがアホらしい、ってなもんだ。
しかしそれこそがこの作品の醍醐味であり、その他のTVドラマの映画化作品とは大きく違う点である。ドラマから見ている人には繰り返しのキャラクター説明がなく、ダラダラ感がなくなるし、初見の人にとっては、何だこれ?の感覚が、逆にこの作品のテイストにピタリとはまる。こうしたある種ファンタジーな作品は、ダラダラと世界観を説明されるよりも、意味不明なオープニングのほうが、物語の世界観には入り込みやすい。

そしてただのキャラ紹介だと思っていたオープニングが、実はエンドロール後に綺麗に回収される伏線だったというくだりは素晴らしいの一言。ライアーゲームはまだ続く!と思わせておいて、観客全てを裏切り、映画のテーマである"人を信じる心"を最後の最後に感動という形で結びつけてくれます。

とまぁ、ゲームの内容そのものは比類なき脚本の完成度を誇るのだが、正直TVドラマのスペシャルでも良かったのではないか?感がないわけでもない。
というのは、まず決勝戦の舞台である島にボートで行っておきながら、映画のシーンは全て室内で島である必然性がない。いや、島かどうかというところはどっちでも良くて、最初から最後まで1つの室内でゲームが完結しているというところに映画ならではのスケール感がないと言うべきだろうか?
ただしこれは「SAW」シリーズのように最初から最後まで1部屋で終わる映画もあるのだから、ここが重要な問題ではないのかもしれない・・・。
最も大きなマイナス面としては、ファイナルステージまで生き残ったのにしては頭の冴えないキャラクターが多すぎた点だろうか?とはいえ、これもTVシリーズを見ているからこの意見であり、映画単体として見る分には問題ない・・・のか?

いずれにせよ、そんなマイナス面を補って余りあるだけの内容が詰まった作品であることは間違いない。ドラマを見た人も、そうでない人も単純に楽しめる作品であることは間違いない。そしてこうした質の高い映画オリジナルの脚本が日本映画にも現れたことを喜ぶべき作品ではあるが、それと同時にこうした作品が欧米では上映されない日本映画の現状を嘆くべきかもしれない・・・。

一口コメント:
アメリカのアカデミー脚本賞を狙えるレベルの完成度の高い脚本ありきの映画です!

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