寄生獣 完結編
採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2015年5月23日(映画)
監督:山崎 貴
主演:染谷 将太、橋本 愛、深津 絵里

人気漫画の原作、2部作公開、前作の公開から半年、公開直前にTVで前編放映という日本テレビの定番となった方程式に基づいて公開された後編。

自らの手で寄生生物に寄生された母親を殺すことになった新一は復讐心と人類を救うために、寄生生物を見つけては始末していた。その一方で寄生生物の集団は東福山市役に集まるようになっていた。彼らは仲間を殺し続ける新一を殺そうとするが、寄生生物を組織化し、広川を市長にした元教師・田宮良子がそれを止める。新一を教えていた過去を持つ彼女は人間と寄生生物の共存のため、新一とミギーをその希望として観察しようとしていた。そんな田宮を快く思わない3人が彼女を襲う―――。
そんな中、警察は市役所に多数の寄生生物が紛れ込んでいることをつきとめ、特殊部隊を送り込み、多くの寄生生物を殺すことに成功するが、1体に5つの寄生生物が同居する田宮が実験によって作り出した最強の寄生生物・後藤によって全滅させられてしまう―――。

なんというか、微妙な感じ。
基本的には原作の流れに沿っているのだが、肝心な部分が省略されたり、改変されていて、原作未読の人が見たら、薄い内容の映画に見えるんだろうな・・・と思ってみたり、原作既読の人にとってはそれ以上にがっかり感が満載の作品に映るんだろうな・・・と思ってみたりした。
例えば、冒頭に前編のダイジェスト映像を持ってきているのだが、そこに新一が他の人間とは異なる素晴らしい運動神経を持った理由が描かれておらず、銃を持った特殊部隊をたった1人で全滅させた後藤の攻撃を人間である新一が、なぜいとも簡単にかわせるのか?というのが伝わらない。もっと言えば、全滅させたシーンが描かれておらず、後藤の強さが伝わってこない。そして最後の後藤を倒すきかっけとなる"隙間"や"毒入り鉄棒"に関しては、描写がバッサリとカットされていて、後藤の圧倒的強さも、それを目の前にしてなお立ち向かう新一の心の奥底に秘めたる強さや、毒入り鉄棒に万が一の望みをかける切迫感、そしてその万が一の望みが軌跡をもたらすことによる感動、それらすべてが半減してしまっている。
この流れに関して言うと、新一が自分の右腕にミギーの細胞の一部が残っていて、それが感動のシーンとなるはずが、この実写版では「細胞が残っている=後藤が感知するから逃げろ!」となってしまい、せっかくの名シーンが台無し。原作を知らない人からしても、新一って情けないとしか映らないのではないだろうか?

原作では探偵だった倉森は記者と設定が変わっているが、この変更はなんだったのだろう?記者でなければいけない理由がないし、記者でありながらやってることは探偵という意味不明な設定変更。ましてや恋愛感情を利用された挙句に娘を殺されて、その復讐で田宮の子供を・・・ってどんだけダメ人間なんだよ!
映画においてダメ人間を描く大きな理由としてはダメ人間を描くことでその対比として主人公や脇役を際立たせる、あるいは主人公そのものが物語の後半ですごい人間になった時のギャップを描くなどがあるが、この作品においてはそのどちらもでなく、なぜ倉森の設定を変更して、ここまでダメ人間として描いたのか?意味が分からない・・・。

そしてラストシーン。最強の寄生生物・後藤との最終決戦を終えた後で、人間である浦上が登場し、ビルの屋上で里美と新一を前にこの作品の核となる言葉を語るシーン。なんかしょぼい。そもそもその直前のミギーとの別れから"何年後"のテロップもなければ時間経過の描写もなく、見方によっては翌日に見えなくもない。
そんな状態でミギーが出てきても何の驚きもないし、そもそも新一が浦上のことを認識していないという、これまた意味不明な設定変更+浦上の人物描写が後藤以上に薄いため、このシーンでの感動もない。というか感動すべき順番が逆になっている。
浦上とのラスト<後藤とのバトル<田宮との公園シーンといった感じで感動の度合いが大きくなるのだが、実際の順番はこの逆であり、尻すぼみ感が半端ない。

とまぁ、いろいろとダメ出しすべき点はあるのだが、良かった点も挙げてみたい。
なんといっても田宮涼子だろう。寄生生物の集団の軍師としての立ち位置、そして3人の寄生生物との対決も非常にスマートな倒し方で原作よりも実写版の方が良かったと思える唯一のシーンとなっている。
そして赤ん坊に対して、最初は「黙れ!」と言っていたのだが、時間とともに母親としての感情とまではいかないまでもそれに近い感情が芽生えてきて、それに合わせて表情の変化も見て取れる。そういった意味では他の寄生生物の異常なまでに下手な無表情演技がここでは対比となって生きてくる。
さらに赤ん坊の笑顔に喜んだ表情を見せたり、窓に写る自分の笑い顔を見て何とも言えない表情を見せる田宮、そしてその流れを受けて新一に伝えた最後の台詞・・・。この作品のクライマックスと言っても過言ではないシーンとなった。これは深津絵里の演技力の賜物以外何物でもない。やはり彼女はすごい女優だ。

里美を演じた橋本愛もまた思い切ったベッド・シーンを演じている。あのシーンそのものの必要性に関しては疑問を持たざるを得ないのだが、橋本の演技に関しては、「告白」で見せた片鱗を再び見せつけ、彼女もまた演技派女優なのだということを改めて思い出させてくれた。

そしてもう1つ市長・広川を演じた北村一輝市庁舎における演説のシーンもこの作品の核となるテーマを代弁しているという意味では隠れた名シーンと言える。「人間どもこそ地球を蝕む寄生虫・・・、いや虫ではなく、獣(けもの)・・・寄生獣だ!」の台詞は北村の演技もあって、全体的に薄くなってしまった作品の中でも濃厚なシーンとなった。
もう1つ個人的にはミギーが味噌汁を作るシーンは面白かった。原作通りのミギーなら絶対に行わないであろう行動が意表をついて、面白かった。

といった感じで、全体的には薄味、かつ消化不良な作品となってしまったが、深津絵里演じる田宮涼子のおかげでそれなりの存在意義を与えられたと言っても過言ではない。この2作の主人公はあくまでも新一だが、この完結編のみに関して言えば田宮涼子が主人公だったともいえる。逆に言うとそれ以外の人物描写やストーリー展開においてはこれといった秀逸なものはなかった・・・。

一口コメント:
影の主人公ともいうべき田宮涼子に救われた作品です。

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