L change the WorLd |
ハリウッドでのリメークも決まり、いまや世界的に有名になった「DEATH NOTE」のスピンオフ。ということで、企画が決まった段階から非常に楽しみにしていた作品。
タイのある村で新種のウイルスが猛威を振るっていた。しかし軍隊のミサイルによって、ウイルスは村ごと消滅してしまう。
一方、キラ事件を解決したLは残された23日を今まで通り、パソコンのモニター越しに見解決事件を解決していた。そこにタイの村でただ1人生き残った少年からワタリ宛ての電話がかかってくる。さらにワタリを訪ねて別の少女がやってくる。
謎のタイの村の消滅、テロ集団の存在、そして新種のウイルス・・・。
これらがすべて1つの糸でつながり、Lは最後の事件解決へと動き出す―――。
これはひどい。
まず最大の欠点、Lが動きすぎ。自分の姿を世間には決して見せることなく、警察やFBIなどを動かして、事件を解決してきた世界一の名探偵L。キラ事件の時にLが動いたのは夜神ライトという自分と並ぶ大天才の存在があってこその、やむを得ない状況下での選択。
それが、Lが動くための動機付け(例えばライトに匹敵する天才の存在とか・・・)があれば、Lが動くのも納得なのだが、それもないまま、いきなりFのギフトといって、空港にLが出迎えに行ったあたりから(要するに最初から)、あれ?と思っていた。
しかももう1人の鍵を握る少女に対しては、自分で「Lです」って、名乗ってるし・・・。そこは竜崎という偽名を使うべきだろ!と思わずにはいられない。
走ったり、自転車こいだり、動いているからなのか、推理らしい推理はまったくなく、Lという超天才的頭脳を全く持って活かしきれてない。簡単に言ってしまえば、推理のないLを主人公にした映画など、Lというキャラクターだけで、売っている映画であり、Lを主人公になどせず、それこそ「相棒」や「踊る大捜査線」といった他の警察映画でも問題ない。
スピンオフだから、デスノートが関係ないのはまったく問題ないのだが、"デスノートの世界観=天才同士の頭脳戦からくる壮絶な心理戦"だけは守って欲しかったし、やはりLというキャラクターを主役に添えているのだから、Lの天才的頭脳を活かす部分だけは守ってほしかった。
この点において、このスピンオフではまったくもってLの推理がないし、他の人が見せる謎解きも、他の推理モノで見たことのある何とも安っぽい推理ばかり。この時点で30点は減点である。
今回はL以外にもFやらKといったほかのアルファベットもいくつか登場しているのですが(Kにワタリの死を知らせるかどうかで一瞬、躊躇するLの描写は良かったが・・・)、FにしろKにしろ、Lと同じアルファベットを与えられた人間とは思えない。
Fに関してはあっけなく死にすぎだし、Kにしても、ちょっと頭の良い人間程度で、あのKにテロリスト集団が従っている理由がわからない。テロリスト=悪の描写をしたいのであれば、その悪が従う何かをKが持っているはずなのだが、その辺りの描写が薄く、Lと同列の頭脳を持ち、かつテロリストを従えているという究極の設定を活かせていないのが非常に残念。
またナンチャン演じるFBIが登場するのだが、これは突っ込みどころ満載である。まず存在そのものが特に必要ないし、存在したとしてもFBIである必然性がない。これならキラ事件の日本警察関係者、例えば松田を登場させればいい。
ましてや、FBIが1人だけでLの前に登場するのもおかしな話だし、どうやってLのアジトを突き止めたのか?の過程もなく、LがFBIに簡単に所在を突き止められてしまう存在という描かれ方にも取れ、ここでもまたLという天才の希少価値を低めてしまっている。
タイの村の描き方といい、このFBIの描き方といい、もう少し丁寧に描いて欲しかった。タイの人、あるいはFBIの人が見たら、かなりの批判を受けるだろうし・・・。
そして今回の話の主題ともなっているウイルス。このウイルスもかなり都合の良い設定になっている。タイの村では村を全滅させなければいけないほどの威力を持っていたのに、Lにはまったくもって感染する気配がないし(デスノートに書かれた23日後の設定のためか?)、かと思えば、少女の父親がホラー映画か、これは?というような壮絶な死に方を描いている(無駄に長い)。また最後の飛行機のシーンでは明らかに空気感染しているにも関わらず、その感染力を知らないかのように、病原体を持っている少女を電車に乗せたするL。この設定も天才Lの存在を落としている。実際、教授のもとを訪れた際に怒鳴られてましたしね・・・。
他にも突っ込みどころは満載だ。
-自ら苦手と言っている子守をあのLが続けるのか?
-父親の仇にこだわっていた少女が、最後の最後で犯人を殺さなかった理由が薄い
-電車の中で少女が見ているノートの内容に気づかず、タイの少年がそれを解いてしまうという世界一の名探偵Lらしからぬあり得ない愚行
-今回の敵役となる工藤夕貴の頭脳の良さが全く見えず、こんな程度の頭脳の持ち主にLが苦戦するのか?というキャラ設定の薄さ
とはいえ、やはりLのキャラだけはよく描かれている。(原作の文武両道キャラは本編映画の時から武の部分が消されていたことを踏まえると、運動はあまり得意でないという設定も、漫画ではなく、あくまで映画のスピンオフという風に考えれば問題ない。)
本編と変わらない椅子の座り方、そのままの体制での電車での座り方。そしてスイーツの串刺し、今回初めて登場したパソコンの打ち方など、Lファンにとってはたまらない描写と言える。また猫背を強制的に伸ばそうとする描写が出てくるのも良かった。特に2回目の描写。ワイミーズハウスから帰っていく時に、猫背を伸ばそうとするが、すぐに元に戻ってしまう描写が何とも言えない哀愁があって、Lというキャラクターをこのシーンだけで語っているとも言えるシーンになっているのではないだろうか?
そしてなにより、デスノートに自分の名前を書き込んだ時に死を覚悟したであろうLが「もう少し生きてみたくなった」というのも、人間味のないはずのLの人間味を示すという意味においては、欠かせないシーンである。
全体を通すとやはり頭脳戦のない"L"の映画は、"L"の作品ではないというのが、率直な感想です。