モ テ キ |
TVシリーズを見ていたこと+セカチューの2人が7年ぶりに共演ということもあり、制作決定段階から楽しみにしていた作品。
藤本幸世、31歳。金・夢・恋、三拍子揃って彼にはないものだった。
派遣社員を卒業すべく、サブカルを扱うニュースサイト企業の面接を受けた幸世は、偶然そこの社長であった知人の墨田のコネで入社することができた。好きなサブカルの世界で働ける喜びを感じながらライターの仕事を覚えていく。
Twitterを通して知り合った編集者ミユキと朝まで飲み明かし、良い感じになるのだが、ミユキには彼氏がいることを知ってしまう。
またミユキの友人で年上のOLルミコからは告白され、墨田に連れられて行ったガールズ・バーの愛とも一夜限りの関係に・・・。
突然やってきた"モテキ"に翻弄されながら、幸世は真実の愛にたどり着けるのだろうか?
宣伝では、主人公がいかにも4人の女性からモテモテになるような感じがしたが、実際に見終わって見ると、真木よう子との恋愛はゼロ、仕事の上司以外の何者でもない。仲里依紗にしても別の上司に連れられていったバーの店員で酔いつぶれた上で一晩を共に過ごす(関係は持たない)のみ。麻生久美子がようやく幸世のことを好きになるのだが、ミユキに関しては基本的に幸世の片思い。
ということで、"モテキ"では全然ない・・・というのが実情なのだが、TVシリーズの映画化ということでタイトルと作品の中身の不一致に関しては目をつぶりましょう・・・。
この作品、テーマも面白いのだが、なんといってもキャスティングが素晴らしい。
ここ数年、日本のTV・映画業界で最も知名度の高い20代女優が誰か?となると、綾瀬はるか、長澤まさみ、新垣結衣、北川景子、戸田恵梨香、堀北真希あたりになるのだろうが、さすがにモテキの対象となる女性全員をこの中から選ぶことは事務所同士の大人の関係(?)的に難しいのだろうが、その中から長澤まさみをこの作品のヒロインに選んだキャスティングは見事。
作中で描かれるミユキは明るいキャラでありながら、エロスを感じさせる女優でなければならず、その点において、綾瀬・長澤の2人は群を抜いている。掘北真希の明るいキャラというのは想像しにくいし、戸田恵梨香にエロスを求めるのも難しい。そして主人公を演じる森山との相性という点において、共に"世界の中心で、愛を叫んだ"長澤以上の相手がいるはずもない。
そして"清純派女優"の代名詞的存在でもあった彼女が胸を揉まれたり、口移しで男性に水を与える"子悪魔キャラ"を演じ、今までの役柄とのギャップが大きく、新しい"長澤まさみ"を見せられた作品と言える。それでありながら飲み会の別れ際に「ドロンします!」と言って、手裏剣を投げる仕草で見せた笑顔は今までの"清純派女優"の一面を保っているのだから、今後は"清純派"と"子悪魔"の二面性を持った役柄を演じられる女優として更なる活躍を期待したい。
また事実上、モテキの相手となる唯一の女性・麻生久美子に関しては、30を過ぎた美人でありながら、一人身である=どこかに結婚できない原因があるイタイ女+サブカル好きのダメ男を好きになるという女性像を見事に演じきっていて、別れのシーンは笑える演出なのに、とても真に迫る演技で、個人的には映画史上に残る名演技だとすら、感じた。
また彼女を語る上で欠かせない名場面がもう1つある。麻生久美子演じるルミコは幸世の上司である墨田と寿司を食べ、高級ホテルに泊まり、エッチしたものの、翌朝ホテルの朝食を墨田と2人で食べるのを避け、女1人で吉野家の牛丼をかっ食らうシーン。ルミコの心情を深くえぐったシーンではないだろうか?脚本家のセンスを感じると共に彼女の演技力を見せ付けられたシーンでもある。
そして何より主演の森山未來。30過ぎたサブカル好きな冴えない男を良くぞまぁ、ここまで見事に演じたものだと感動すら覚えるし、彼以外の役者がこの役を演じる姿は想像できない。長澤にしろ、森山にしろ、「世界の中心で、愛をさけぶ」のキャラとは180度違うキャラであり、あの2人が7年後にこんな姿に成長するとは誰が想像できただろうか?
そんな森山が、雨の中を長澤のマンションに駆け付け、最後に言うセリフ「一回だけ・・・」もダメ男の極みとして実に上手い。そしてもう1シーン、幸世がルミコと一晩を共にした後に、とあるライブ会場で去り行くミユキに声をかけたら一緒にいたルミコも振り返り、2人の軽蔑するような視線が幸世に突き刺さるのだが、その情けなさといったら、もう・・・。
もう1人だけ忘れてはならないのが、TVシリーズからのキャラでチョイ悪親父的なリリー・フランキー演じる墨田。幸世とは違う意味でのダメ人間なのだ。例えば、社員全員で幸世のTwitterアカウントをチェックして、バカにするシーンの面白さときたら、もう・・・。しかし、そんな彼が名言を言うところがチョイ悪親父の真髄でもある。
「彼氏がいない女は、世界中の男がライバルだけどな、彼氏がいる女なら、ライバルは1人だけだ。」
なんか妙に説得力のある台詞だ。
さて、その他のところに目を向けるとサブカルを扱っていることもあり、音楽の使い方も非常にサブカル的。邦画としては珍しいミュージカル調な演出はその最たる例。しかもそれがミュージカルに適した曲じゃなく、テクノ系のPerfumeだったりするから面白い。さらに本人も登場し、映画を盛り上げる。
そしてそれをカラオケのPV風に見せたり、道路にテロップを表示させたり、マンションの壁に映像を投射したり、その演出法も斬新である。TVでも同じような演出はあったが、モノローグが多かったのを映画版ということで、少し違う見せ方をしている点も好感が持てる。しかも最近のPefumeが流れたかと思いきや、90年代前半の大江千里の「格好悪いふられ方」が流れる。さらにスチャダラパーも流れ、サッカーに例えるならカズと中田と本田が同じユニフォームを着てグランドに立っているかのような歴代オールスター的選曲だ(ちょっと言いすぎ?)。
また最後のエンドロールも黒バックに白い文字が流れていくだけのそれではなく、サブカル臭がプンプンするクレジットとなっていて、最後の最後まで飽きさせない演出になっている。
しかし肝心の物語は中盤までの他の作品とは良い意味で一線を画していた役者の演技のバランスとテンポの良さが、終盤に行くに連れトーンダウンというか、テンポが悪くなっていき、最後の終わり方は平凡というか他の作品と変わらない終わり方になってしまっているのは残念だった。
同じTV東京で放映されていた「鈴木先生」の映画もぜひぜひ期待したい。