涙そうそう
採点:★★★★★☆☆☆☆☆
2007年7月8日(DVD)
主演:妻夫木 聡、長澤 まさみ
監督:土井 裕泰

歌が原作という異色の映画で、同時期に「ラフ/Rough」で主演を努めていた長澤まさみが再び主演していたことでも話題となっていた作品。

いつか自分の食堂を開くという夢に向かい、沖縄本島で努力する兄のもとに、高校生となった妹が引っ越してきて、二人は一緒に暮らし始める。やがて、偶然知り合った男の協力でついに念願の店を出すことになった兄。だがしかし、その男は詐欺師で、長年貯めた開業資金を持ち逃げされ、借金を負ってしまう。
ある日、恋人の父親がお金を持って現れ、それがきっかけで恋人と別れてしまう兄。一方の大学受験を控えた妹は兄を助けようと兄には内緒でバイトを始める。だが、それを知った兄は激怒してしまう―――。

まずは主役の二人。
兄役の妻夫木は、持ち前のさわやかな笑顔で、この誠実きわまりない、人が良すぎる"にーにー"を見事に演じきった。何て言うのだろうか?人を疑うことを知らないとでも言うのだろうか?下手な役者が演じたら、そんなやつ世の中にいねぇよ!と言って終わるところが、世の中にはこんなやつもいるんだ、ということを実感させてくれる素晴らしい演技だった。
一方の妹役の長澤まさみは、TV画面よりもスクリーンでこそ映える女優だと、今回改めて思った。単純に役どころのせいかもしれないが、前半の島から都会に出てきたばかりの頃のはしゃぎっぷりは見事。そして大学進学を控えて、表情は明るく振舞うものの心の中で葛藤する演技も良かった。

それとエンドロールで写真を見せていくのもこの作品の色に合っていて、中でも最後に成人式の写真を持ってきたのは良かった。あと最後で、いつも無愛想なもやし売りのおばさんが、そっと楽器を弾くシーンも良かったかな・・・。

といった感じがこの作品の良い部分なのだが、全体的に見るとシンプルというか王道な感じで、ある意味期待を裏切らないし、前半の展開は文句ないのだが、後半の展開が薄いというか、なんというか、脚本があまり練られていない気がする。
例えば、兄の子役時代と現代とで性格が違っていて、同一人物と思えないくらいのことが多々あった。また妹が一人暮らしをするために引越しをする時も、「同じ沖縄本島の中で引っ越すだけ」のはずなのに、泣き崩れる妻夫木。演技そのものはOKなのだが、演出の問題で、ちょっと白ける。
そしてあれだけ大泣きしていたはずなのに、妹から「1年半の間、連絡もせずにごめんね・・・」という手紙が届いた時は、「なんだこの脚本?」と思わずにはいられなかった。まずそもそもお互いに別れを悲しんでいたのに、1年半も連絡取ってないのか?という点が1つ。そして、この作品は時代設定が現代で二人とも作品内で携帯電話を使っている。あれだけ仲のいい兄妹が、電話もメールもしないで、1年半ぶりに手紙を寄こすという脚本。もうちょっと考えろよ!
それならそれで、携帯のない時代設定にするなり、いくらでも方法あるだろうに・・・。

また、風邪から心臓の炎症で死んでしまう、と言う設定を使うのならば、もう少し間に話を盛り込んでいくべきではないだろうか?数回咳き込んだ後で、台風の話に移り変わるのは良いけれど、その移り変わったシーンですぐさま風邪を悪化させてしまうのは、ちょっと展開が急すぎる。しかも病院の直後に遺影が来た時は、"ちょっと待て!"と声に出してしまいそうだった。
これがホラー映画とか、スプラッター映画なら、主要キャラクターが一瞬で死んでしまおうが、まったく問題ないのだが、この手のドラマ的な映画で、主要人物の誰かが死ぬのであれば、死に至るきっかけから、実際に死に至るまでは、ある程度の時間がないと感情移入しにいくい。
どうしてもあの展開が必要であれば、「死」ではなく、「生」で話を終えても良かったと思うのはエゴだろうか?

「涙そうそう」とは「涙がとめどなく流れて止まらない」という意味らしいが、とめどなく溢れ出る涙ではないが、ちょろっとくらいの涙は出ました。

一口コメント:
涙は少ししか出ませんでした。

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