交渉人 真下正義 |
「踊る大捜査線」シリーズの番外編第一弾ということで、帰国する前から、いや、公開前から日本に帰って一番最初に見たいと思っていた作品。
2003年11月24日、レインボーブリッジを封鎖して解決した「台場連続殺人事件」。その事件直後、真下は、湾岸署の前で、報道陣に取り囲まれ、警視庁初の交渉人として、事件解決の経過を説明していた・・・。
1年後。
2004年12月24日、雪乃とクリスマス・イブのデートの約束をしていた真下は、その日の午後、突然、室井管理官から呼び出しを受ける。
東京の地下鉄の最新鋭実験車両(通称:クモ)が何者かに乗っ取られ、その犯人が直接交渉相手として真下を指名してきたのだった・・・。真下を
迷走する地下鉄全車両にも、時間的限界が迫りくる。
事件発生から謎解きの過程までは非常に面白い。特に地下鉄の中に伏線と呼ばれる路線図には載っていない政府官僚たちの緊急脱出用線路という考え方はリアリティーがあり、その証拠として、乗換駅の地下における高さの違いを用いるなど、裏づけもばっちり。
謎解きについても、映画好きの犯人から出される難問をデータベースを用いたコンピュータを利用し、次々と解いていく過程は見ていて面白かった。
更に通称"クモ"と呼ばれる新型車両について、伏線を利用して隠れたり、前を走る車両に追突しようとしたりすることによって、その怖さ(外見だけでなく、存在そのもの)を非常に上手く実感させられるようにできており、映画の冒頭ですぐに観客をストーリーに引き込んだと思う。
だがしかし、クライマックスがいまいち。最後まで犯人が分からない落ちというのがよくあるのだが、分からないにはわからないなりの理由というのがあるはずなのだが、この作品に関してはそれがない。そのため、見終わった後にモヤモヤ感が残る。
それとクライマックスで真下が犯人の車を追い詰めるのだが、犯人は追いつかせては逃げ、逃げては追いつかせる、という行動をするのだが、これもまた意味がない。犯人のミステリアスさを出すための演出だと思われるが、最後の終わり方を考えると無意味な演出だ。
本編を通して、「踊る大捜査線」シリーズらしいコミカルな演出というのが、されており、従来のファンにはたまらない作品として仕上がっているように思う。ここで笑いを取りにくるのか?というような場面での笑いというのが、いたるところに見られる。
また、それぞれのキャラクターについては「踊る大捜査線」シリーズならではの巧みな人物描写がされており、脇役といえど、光るものがある。所轄の刑事として木島、TTR(東京トランスポーテーション・レールウェイ)の指令長片岡、広報担当の矢野など新キャラだけでなく、SAT隊長の草壁、真下の部下として働く小池、そして番外編第二弾の主役である室井。
それぞれのキャラクター設定が、しっかりできており、情熱的な部分は木島が一手に引き受け、コミカルな部分は矢野、そして片岡の二人が受け持つ、といった感じだ。
だがしかし、これだけ個性の強いキャラクターが描かれているが故に主役である真下の存在感が今ひとつ薄い。とはいうものの、「踊る大捜査線」の主役である織田裕二扮する青島刑事は、同じ条件でありながら、主役としての存在感を示している。これはひとえにユースケ自身のキャラクターに起因しているのだろうか?
エンドロールの終わった後に、「容疑者室井慎次」の予告編があるので、最後まで劇場を出ないようにしてください。