ワンピース エピソード・オブ・チョッパー 冬に咲く、奇跡の桜 |
先週に引き続き、今週も見てしまったワンピース劇場版。今回はチョッパー編の原作からの劇場版カット。
航海中に病に倒れたナミを救うため、医療大国と言われるドラム王国に降り立った麦わら海賊団。早速医者を探すが、なぜか王国にいる医者は"ドクターくれは"という、雪深い山の城に住む魔女ひとりだけと聞き、ルフィはナミを背負い、雪山の城へ向かう。いろいろな困難を乗り越え、山頂に辿り着くが、そこで力尽きてしまうルフィたち。それを救ってくれたのが、その弟子であるトナカイのチョッパーだった。
しかし、国を捨てたはずの国王ワポルが兄のムッシュールとともに、王国を自分のものにすべく戻って来る・・・。
上映時間が前作の時間不足を考慮してか、90分から大幅に伸びたこと、そして原作そのものもアラバスタ編に比べて短いこともあり、ダイジェスト的要素はそこまでなく、サブキャラの活躍シーンも多い(とはいえ、各キャラクターの説明は不足しているが・・・)。
というわけで、今作は1つの作品としてかなりの高いレベルに仕上がっている。
登場していないはずの人物が登場していたり、映画オリジナルのキャラクターが登場していたり、原作とはかなり違った設定になっているが、ストーリー展開は原作そのままで、最も重要なチョッパーとヒルルクの回想シーンはほぼ100%残っていて、それがそのままこの作品の完成度につながっていると言っても過言ではない。
人化してしまうトナカイとして、トナカイ・人間双方の世界において疎まれ続けてきたチョッパーが初めて心を開いた男、ドクター・ヒルルク。
チョッパーに名前をつけることで、最初に彼の心を開き、チョッパーとケンカをし、仲直りした最初の相手もヒルルク。病気が完治したことで、追い出されそうになったチョッパーが自分でケガを負ってまで、残りたいという意思を示したにも関わらず、頑なにチョッパーを追い出すヒルルク。その裏には心を開いた人間の死を見せたくないという自らの死期を悟ったヒルルクの優しさがあった。
そんなヒルルクを助けるために、決死の思いでアミウダケを取りに行ったチョッパーのドクロマークに纏わるエピソードは、涙なしでは見られない。この回想シーンに関しては、原作よりも泣けた。
そして名言の連発。
「お前はこんなに優しいじゃねぇか...」
「優しいだけじゃ、人は救えない!」
「人はいつ死ぬと思う?・・・人に、忘れられた時さ、、、」
どの台詞もそれまでの前のシーンとのつながりがあってこその大きな意味を持ち、一つ一つの台詞に泣ける。
そして何より孫悟空の声を演じる野沢雅子のドクター・くれは、彼女の存在が大きい。理想を語り、理想を追いかける男ヒルルクに対し、現実をしっかりと見定める女くれは。
「この世に治せない病気はない!」と理想を語るヒルルクと「この世に万病薬はない」と現実を語るくれは。そんな2人の医者に育てられたチョッパー。理想を追い努力する大切さ、そして優しさだけでは誰も救えない現実を知り、医術を身につける大切さを学んだチョッパー。
ヒルルクの理想を口では否定しながら、チョッパーに医術を教え、桜を咲かせたくれはの存在なくして、この物語は成り立たない。理想と現実という相反する要素を友情を通して結びつけたストーリー展開は秀逸です。
そしてそれらの背景を元にチョッパーが麦わら一味に入る気持ちの軌跡も素晴らしい。
といった感じで中盤はこれでもかというくらいに泣けるのだが、最後がそこまで盛り上がらない。それは悪役が前作ほど悪に徹しておらず、描写もそこまで深くないため、主人公であるはずのルフィ(主役は完全にチョッパーだが・・・)と悪役の戦いに関して、そこまでの思い入れがないため。それでも海賊旗をルフィの思いと、チョッパーの思いにかけて戦っている点はさすがに上手い。
前作が善対悪という非常にシンプルな構成の上に、感動の要素が成り立っていたのに対し、この作品は感動の回想シーンが物語の中心になっている上に善対悪の要素が配置されているので、こうなることは必然といえば必然。
これで悪役が前作のクロコダイルのような徹底的な悪なら、満点だったかもしれない・・・。
そして原作ではこのチョッパー編の3倍近い長さのアラバスタ編を、三部作として見たいと、改めて思わされた作品です。