私は貝になりたい
採点:★★★★☆☆☆☆☆☆
2008年11月8日(試写会)
主演:中居 正広、仲間 由紀恵
監督:福澤 克雄

紅白司会コンビ主演の戦争映画+1959年の映画のリメイク作品ということで、今年の正月映画の中でも上位5作品には間違いなく入るであろう作品。

第二次世界大戦末期。高知県のとある町で理髪店を営んでいた豊松は、ある日赤紙が届き、軍隊へと召集される。豊松は新兵の訓練で上官に命令されて、アメリカ兵捕虜を銃剣で刺そうとするが、気後れして怪我を負わせただけにとどまる。
終戦後、豊松は召集前と同じように妻と子供と共に平和な日々を送っていた。そんなある日、捕虜虐待の罪により戦犯として警察に連行されてしまう―――。

だいぶ、粗が目立つ作品である。戦時中・戦後すぐの物語であるにも関わらず、時代背景が映像とマッチしない。
例えば、刑務所の囚人は全員が坊主なのに、豊松と同室になる囚人役の草彅だけ、坊主ではなく、なぜ?と思ってしまう。(SMAPファンへのサービスか?)さらに文字通り、"坊主"であるべきはずのお坊さん役の上川隆也も坊主でない。(もし役者サイドが坊主を断ったのであれば、坊主OKの役者を使うべきではないだろうか?)しかもポマードか何かで固めた髪が、すごく変。ズラのように見えて、彼がスクリーンに映るたび、そこに目が行ってしまい、感情移入できなくなってしまう。もしこのお坊さんが仏教徒ではなく、キリスト系のお坊さんという設定であっても、それを日本人が演じている時点でどうだろう?
坊主つながりで言うと、もう1つある。中居の丸刈りシーンは「V for Vendetta」のナタリー・ポートマンの丸刈りシーンを思い出したが、カメラアングルや照明、背景のせいか、ナタリー・ポートマンの丸刈りシーンと比べて、何か安っぽい。お金のかけ方が違うからと言えば、それまでの問題かもしれないが、何かすごく心にひっかかってしまったシーンでもある。

またキャストもいまいちぴったりこない。上述した草彅と上川は演技以前の問題として、中居もちょっとミスキャスト気味。演技そのものと役作りはとても良いのだが、2つ大きな欠点がある。
声に重みがないとでも言えばいいだろうか?
これはどうしようもないと言えば、どうしようもないのだから、やはりキャスティングの時点で他の選択肢を考えておくべきではないだろうか?
そして中居に関して、一番問題なのは、音を外すことで有名な中居が、「よさこい節」で音程を外した石坂浩二演じる上官に、音程を指導するシーン。これは作り手側はあえて、こうした演出にして、笑いを狙っているのだろうか?
とはいえ、家族に最後の手紙を書くシーンでは、役作りの一貫でダイエットしたと見られる努力の成果が際立っている。頬が痩せこけ、鬼気迫るような目、そして何とも言えない絶妙な表情で、死が目前に迫った極限状態の豊松を演じきっている。

また夫を助けるために、2人いる子供のうちの1人を近所の家に預けて、仲間演じる妻が署名を集めるシーンがある。どうせ子供を預けるのであれば2人とも預ければいいのに、なぜか小さい子供は預けない。そしてその小さな子供を背負ったまま、吹雪の中、山道を歩いたりしている。悲壮感を漂わせたかったのだろうが、子供が死んでしまうだろ?といった考えが頭をよぎってしまう。
もし悲壮感を漂わせたいのであれば、子供は2人とも連れて歩くべきだし、中途半端に1人は預けて、もう1人は預けないという意味不明な設定のため、ここでもまた感情移入がストップしてしまった。
ただし、署名を集める為に、村から村へと季節を越えて歩き回るシーンは、四季折々の風景描写が非常に美しく、映像の中ではあるが、久々に日本の四季を堪能させてもらうことができた。
しかし映画の中で月日が流れているのにも関わらず、子供がまったく成長をしていないので、そこでもまた冷めてしまい、作品に入り込むことができない。

そして最後の最後、タイトルにもなっている"貝になりたい"と言うシーン。言い換えれば、最も重要なシーンである。
"貝になりたい"理由を家族に宛てた手紙をモノローグ形式で読み上げるのだが、この理由にいまいち説得力がなく、心に響かない。"貝"じゃなければいけない理由がない。例えるなら、砂でもいいし、海草でもいい。
途中何度か、入り込んでいた物語の世界から現実に戻される演出を乗り越えて、ようやくたどり着いた最後の最後で、中途半端なタイトルの理由付けをされ、再び現実に引き戻されたところで、エンドロールという最悪の展開。
同じことをするなら、映画の冒頭に同じシーンを挿入しておき、最初と最後でつながるという演出にしておいてもらえれば、最初に謎を投げかけておき、最後にその答えを投げかけるという形になり、まだ救われたのだが、それをせずに答えだけを出されたところで、問題提起をされていないのだから、「それで?」で終わってしまう。

そしてこの作品の主題歌を歌うのはMr. Children。主題歌自体はものすごく良い曲で、聞きほれてしまうような名曲だったが、エンドロールの途中で中途半端なタイミングで映画のメイン・テーマからこの主題歌に変わってしまうという最近流行のパターンでした。

批判ばかりしてきましたが、ここからは良かったシーンについて書いていきます。
まず、軍事裁判の時に豊松がアメリカの裁判官たちに対して言った台詞。
「あなた達はどこの国の話をしているんですか?この国で二等兵は牛や馬と同じなんですよ!!」
これは非常に深く胸に突き刺さった。この台詞の前に、上官達と裁判官達とのやり取りが描かれていたこともあり、さらにこの台詞が持つ意味が大きくなる。そして戦場での映像を挿入することで、上官の命令と自分の両親の間で揺れる豊松の心の葛藤がこちらにも伝わってきた上でのとどめの台詞。本当に心の奥深い深い部分に響きました。

そして一番泣けたシーンは絞首刑になったことを知らせていなかった夫に会いに、子供を連れて、妻が高知から上京するシーン。
面会に訪れた家族と金網越しに対話するシーンで、一度も腕に抱いた事の無い、まだ幼い娘から差し出された指に愛しそうに口づけるシーンはとても切なくて涙がこぼれた。ここは中居と仲間の二人の演技力の賜物と言っても過言ではないだろう。

全体を通して見ると、上官の命令が天皇陛下の命令だった不条理な時代の不条理な判決に苦しんだ主人公とその家族の悲劇の物語と見ることができるが、上映時間が長いわりに(140分近い)、そういったものが、そこまで伝わってこなかった。2時間以内に収めて欲しい作品でした。

一口コメント:
紅白主演コンビ+ミスチル主題歌という豪華布陣の割には、内容に粗が目立った作品です。

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