東京タワー |
「冷静と情熱のあいだ」の原作者、江國香織の小説を映画化した作品。
21才の学生、透と41歳の主婦、詩史は3年前に出会い、その瞬間に恋に落ちた。それから透は、詩史に誘われるままに彼女との密会を続けていた。
一方、透の友人である耕二はアルバイトで警備員をしている駐車場で、主婦の喜美子と出会い、それ以来、彼女とデートを続けていた。
しばらくして、耕二が高校時代に母親と関係を持ったクラスメイトの吉田から1度寝てくれないか?と頼まれる。そんな耕二の前に、本命の彼女、吉田、そして喜美子が一同に集ってしまった!!
一方、透は詩史に誘われ、彼女の別荘へ・・・。しかしそこへ詩史の夫がやってくる―――!!
日本では賛否両論のこの映画ですが、自分が見て思ったのは、確かに賛否両論が分かれる映画だということ。
学生と中年の不倫というテーマ自体は今までに何度もTVドラマや映画で取り上げられたものかもしれないが、この作品は女子学生と中年男性ではなく、男子学生と中年女性の不倫を扱っていて、ある種、現実離れしていると言えるし、今までに扱われたことがなく、見た人に免疫がなかったからとも言える。
そういうわけで、そういった経験をしたことがある人、想像力豊かで入り込みやすい人、出演者、あるいは原作者のファンの人たちが賛成、それ以外の人たちが反対といった具合に分かれたのではないだろうか?
自分的に、この映画で一番素晴らしかったのは、タイトルにもなっている東京タワーの四季折々の風景である。春なら桜、冬なら雪といった具合に変わる季節的な映像美だけでなく、監督のこだわりから生まれたと思われる、窓越しに見える東京タワーやガラスに反射して映る東京タワーや夜景の美しさは素晴らしかった。
内容的には「失楽園」のようなドロドロとした場面が多いのだが、それをそう感じさせない映像美は素晴らしい。ただし、全体を通して見ると、不必要な映像がないでもなかったが・・・(岡田のヌードとか・・・)。
ストーリー的には、まだ観客が物語に入り込めていない序盤からクサイ台詞が満載で、ちょっと引いてしまうような場面も多々あったが、中盤辺りからは、そういった台詞にも免疫ができたせいか、抵抗なく見ることができた。
この映画は不倫の話が2つ、同時進行で進んでいく。その2つの話を演じているのが、それぞれ演技派女優とジャニーズという組み合わせが面白い。黒木瞳に関しては、この役を演じられる魅力的なこの年代の女性という意味では、他にいないであろう見事なキャスティングである。その相手役の岡田准一もジャニーズらしからぬ、演技を見せてくれている。
一方の寺島しのぶは演技力という意味では悪くないが、それでもこの役としてはどうだろうか?20代前半の男がお金の見返りもなしに恋に落ちる人妻というからには、容姿が重要ではないだろうか?でなければ、若い女性に走れば良いし、他にいくらでも綺麗な人妻はいるわけだし・・・。作品中で突きつけられたお金を返しているわけだから、お金が目当ての恋をしているわけではないし・・・、クラスメイトの人妻とやってしまう位の行動力もあるわけだし・・・。
さて、この映画は普通に生きている人からしてみれば、あまりにも非現実的な話である。それでもある種の"現実"を感じる理由を考えてみた。
黒木と岡田の恋が、互いの身分を理解した上で、それでもなお、本気で恋してしまったパターンなのに対し、松本と寺島の恋は、本気の恋ではないが、人妻の肉体にはまった男と、若い男の肉体にはまってしまった女というパターンである。
今までの不倫映画やTVドラマが扱ってきたのは前者のパターンが多かったのに対し、この作品は現実世界においても、大いにあり得る"後者=ある種現実的な話"を盛り込んだことで、リアリティーを感じさせてくれているように思う。