リトル・ミス・サンシャイン |
友人の中で絶賛する人が多かったこと、そしてゴールデン・グローブ、アカデミー賞といった賞レースに多数ノミネートされていたので、気になっていた作品。コメディーのロードムービーと聞いていたので、「サイドウェイズ」のような映画をイメージしていた。
アリゾナに住むフーヴァー一家は、"リトル・ミス・サンシャイン"コンテストに参加することとなった娘オリーブを連れてカリフォルニアに向けて出発。父・母・おじいちゃん・兄・娘・母の兄である叔父の6人を乗せて、オンボロバス車は旅路を行くのだが、途中で車のクラッチが故障したり、クラクションが鳴りっぱなしで止まらなくなったり、道中いろいろなことがありながら、なんとか目的にたどり着き、娘はコンテストに参加する―――。
この作品の良いところは、まずなんといっても6人それぞれのキャラクタ設定がしっかりしている点。
父は人生は「勝ち組」でなければ意味がないと言い切る成功論提唱者。
母だけが、唯一まともな普通の働く主婦であり、家族のことをちゃんと理解しているしっかり者。
おじいちゃんは、ヘロイン常習かつ、エロ本愛読者。だが、可愛い孫娘には溺愛している。
兄は、パイロットになることを目指しつつ、ニーチェを尊敬し、決して言葉を発しず、会話はメモで行う。
妹は、美少女コンテスト参加を夢見て、日々おじいちゃんと練習に励んでいる。
そしてそんな家族に合流したのが、ゲイの恋人を奪われて自殺未遂を図ったばかりの叔父。
映画の中では実際には2日間という設定なのだが、本当にいろんなことが起こる。
例えば、父親の場合、仕事がうまく行かず、自己破産に追い込まれてしまうし、兄はパイロットの夢を絶たれるし、叔父は旅の途中で偶然にもゲイの恋人に再会する・・・といった具合だ。
この映画の冒頭ではバラバラだった家族が、これら1つ1つの難題を乗り越えながら、少しずつ1つにまとまっていく過程を描いていて、しかも1つ1つの難題が、かなりヘビーな内容であるにも関わらず、映画としてコメディー色に染まっているあたりは、脚本の良さと演出によるところが大きい。
例として2つ挙げるとすれば、1つ目は故障したクラクションが鳴りやまず、警察に止められた時の対応。トランクに積んである、とある"荷物"を見られてはまずい状況で、どう切り抜けるのか?と思っていたら、おじいちゃんの趣味である「エロ本」がこの危機的状況を救ってくれただけでなく、さらに叔父の趣味「ゲイ雑誌」を登場させたことで、笑いの陰陽を対比させている点。
そしてもう1つは映画の中盤のクライマックスで、悲しみにくれる母のために、兄が妹に「ママをハグしろ」と書いたメモを見せる。家族の誰も好きじゃないと言っていたはずの兄が見せる無言の優しさ。そしてそんな兄が悲しみに沈んだ時、再び妹がハグをするという設定。
1つ目の笑いとは逆に、家族の温かさ・家族の絆を台詞ではなく、見事な演出で観客に見せている。
ラスト・シーンで、オリーブがおじいちゃんに教わったダンスを披露して、それに家族全員が参加してしまうあたりがいかにもアメリカ映画らしいのだが、その後、他の観客もそのパフォーマンスに引き込まれて・・・といった展開にならずに、すごく常識的・現実的な終わり方となっている点が良い意味でアメリカ映画らしくなく、このあたりを周りの人たちは評価しているのかもしれない。
結論としては、「サイドウェイズ」が好きな人は気に入る、そうでない人にとっては退屈な映画だと思います。