15時17分、パリ行き
The 15:17 to Paris
採点:★★★★★★★☆☆☆
2018年3月10日(映画館)
主演:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン
監督:クリント・イーストウッド

近年「アメリカン・スナイパー」、「ハドソン川の奇跡」といった実話をベースにした作品を取り続けているクリント・イーストウッド監督の最新作ということで見に行った作品。

2015年8月21日、アムステルダムからパリへ向かう高速列車に銃で武装したイスラム過激派の男が乗り込むが、たまたま乗り合わせていた幼馴染で親友の米国人3人組が男を取り押さえ、テロは未遂に終わる―――。

見終わった瞬間・・・というか、見ている最中から思っていたのが、「完全に日本の配給会社の宣伝ミスだ!」ということ。電車内でのテロ行為に立ち向かう3人のアメリカ人というサスペンス映画として宣伝をしているが、実際には若者3人のロードムービー要素の方が強い。
なので、サスペンス映画と思って見に来た観客はがっかりするのではないだろうか?

作品は大きく3部構成になっている。
第1部が3人の幼少期~青年期。第2部がロードムービー。そして第3部が電車。これらが順番通りになっているわけではなく、第3部をベースに第1部と第2部を行ったり来たりすることで、作品全体を通しての緊張感みたいなものが保たれる。
自分はというと、ロードムービーで訪れた先が自分が訪れたこともある場所ばかりだったこともあり、単純に楽しむことができた。もちろんイーストウッドが単純なロードムービーなど作るはずもなく、平和な日常を描く中で、突然テロに巻き込まれてしまうという、日常の中の非日常を描くための前振りだ。しかもアメリカ人が旅先の外国でテロに巻き込まれるというかなりレアなケースなのだが、実話なのだから、そこに説得力がない!なんて野暮な突っ込みは不要だ。
また幼少期の描写もきちんと意味があると感じた。どちらかというと問題児であり、かつ落ちこぼれでもあった3人組が大人になり、人を救いたいと願い、2人は軍に入隊する。そしてそこでも落ちこぼれのレッテルを張られてしまう。こうした描写があってこそ、最後のテロ行為を防いだという事実が活きてくる。高低差というか、ギャップがあるからこそ・・・というよりはギャップを作るためにイーストウッドはこの幼少期を入れ込んだのだろう。

そして核心の第3部。描写としてはほんのわずか、数分程度のシーンしかないが、上述の2つの意図のある描写によって表面的な描写だけでなく、その裏側にある強い思いが伝わってくる。
幼少期で描かれたクリスチャン・スクールの描写、軍での訓練シーン、ヴェネチアで若いアメリカ人女性をナンパするシーン、そしてアムステルダムのクラブではじけるシーン、こうした細かいシーンの積み重ねがこのテロのシーンで結実する。
ここでこの作品はサスペンスではなく、もちろんロードムービーでもなく、イーストウッドが得意とするヒューマン・ドラマだということがはっきりわかる。
その後、フランス大統領から勲章を授与されるシーンが描かれるのだが、そこだけ画質が落ちる。実際のニュース映像を差し込んだもので、以前にもイーストウッド作品ではこういう手法があったが、ニュース映像に映っているのは本物のフランス大統領とこの作品の主役3人!?あれ、なんでニュース映像に俳優が映り込んでいるんだ?ハリウッド得意のCGか?と思いきや、すぐに謎が解き明かされる。エンドロールが始まると、主役3人を演じたのは俳優ではなく、実話の本人だということが分かったのだ!!
イーストウッドよ、なんて凄い決断をしたんだ!?後で調べて分かったが、列車の中の登場人物は犯人役以外の大半が実際にその列車に乗り合わせていた素人を再度集めて撮影されたらしい。ずっと見たことない俳優だな・・・と思ってみていたが、それもそのはずだ。しかしそこまで素人っぽさもなく、普通に見ることができたわけだから、イーストウッドの演出力たるや、なんと素晴らしいのだろうか?

考えてみればイーストウッドは既に85歳を超えているにも関わらず、アムステルダムのクラブで踊る若者を撮影したり、本人を俳優として起用したり、そして今作のメインの話は数分で終わるが、そこにつなげる大きなギャップ作りに大半の時間を費やす構成など、何ともチャレンジングなことばかりだ。
そして幼少期のスペンサーの部屋の壁に「フルメタル・ジャケット」のポスターが貼ってあり、将来実際に軍隊に入隊することを示唆する茶目っ気もある。3人の共通の趣味がサバゲーだったり、列車のシーンまでに描かれたたくさんのシーンの中に実はいろんな伏線が入っていて、それが回収された勲章授与式と地元サクラメントでの凱旋パレードのシーンでは感動が胸の奥からこみ上げてきた。
やはりイーストウッドはイーストウッドだ!!

一口コメント:
テロ映画でもなく、青春ロードムービーでもない、イーストウッド印の良質なヒューマン・ドラマです!

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