蝶 の 舌 |
久しぶりにミニ・シアター系の映画を観た。それがこの作品、「蝶の舌」。観に行った映画館は予想以上に人が多く、観た人、観た人が絶賛していたのもうなずけそうな感じが上映前から、漂っていた。
ストーリーは1936年のスペインを舞台に繰り広げられる。主人公の少年、モンチョが生まれて初めて学校に行き、そこで出会った教師グレゴリオの言動によって、視野を広げていく。グレゴリオが教えるのは、学校の"勉強"というよりは、楽しみながら覚えられる"知識"といったほうがいい。ジャガイモはアメリカ原産だとか、"ティロノリンコ"という名前のオーストラリア産の鳥はメスに蘭の花を贈ることだとか、"蝶の舌"が何故、渦巻き状になっているのか?といったこと。体罰は決してしない、権力者の贈り物を受け取らないなどの姿勢を見ていくうちに、モンチョはグレゴリオに惹かれていく。
ここら辺のストーリー展開は一見、地味のようではあるが、なかなか見応えのある展開になっていた。得に"ティロノリンコ"、"蝶の舌"の2つの単語はこの映画の核とも言うべきキーワードになっている。
一方、モンチョの兄アンドレアスはサックス奏者として地元の楽団に入り、外国で演奏することになり、訪れた土地で出会った中国人女性に一目ぼれをしてしまう。実はステージの上では演奏しているふりをしていただけのアンドレアスだったが、ダンス会場でその女性を見つけ、突然立ち上がり、素晴らしい演奏をする。その演奏に涙する女性だが、夫が連れ去っていき、2人の恋は叶うことはなかったが、スペインに戻るバスの中で、追いかけてくる女性を見つけ、ただ手を振るだけの彼女に涙を流し続けたアンドレアだった。
ダンス会場での演奏シーンはこの作品の中で3番目に好きなシーンであり、恋の力はすごい、というのがすぐにわかる、単純な展開だが、男であれば誰もが共感できるシーンだと思う。
では2番目と1番目はどこのシーン?ということになるが、2番目はモンチョが親友の妹、アウローラと森の中で出会うシーン。グレゴリオと一緒に森に虫取りに出掛けたが、たまたま水浴びをしている女の子達がいて、その中にアウローラがいた。なんとなく、モンチョの気持ちに気付いたグレゴリオはモンチョに白い花を渡し、「ティロノリンコのようにしなさい」と言う。その花を受け取った彼女はモンチョにキスをし、恥ずかしそうに友達のいるほうへと去っていく。まるで、「マイ・ガール」のキス・シーンのような、ピュアなキス・シーンだった。
そして1番はラスト・シーン。内戦が勃発し、共和派による取締りが始まり、グレゴリオもその犠牲になり、車で連れ去られていく。モンチョの母親が、「アテオ(裏切り者)」と叫び、モンチョにもそれを強要する。「アテオ!」モンチョは叫ぶ。車を追いかけながら「アテオ!」を連呼するが、最後に出た言葉は"ティロノリンコ、蝶の舌"だった。
このラスト・シーンの別れ方、今までにも何度か同じようなものを他の映画で見たことがあるけど、その中で一番良かった。"ティロノリンコ、蝶の舌"この言葉がこの映画の語りたかったことを最後にすべてまとめている気がする。何度も何度もキー・ワードとして使われてきて、最後に再び使うことで、観客の心にも響く。この攻め方というか、導き方というか、とにかく脚本の展開の仕方がうまい映画。
また主人公の少年が2500人の中から選ばれたというだけあって、メチャクチャうまい!!一度ハーレイ君と競演でもしてくれないだろうか?喜怒哀楽の顔の表情がとても素晴らしい。なんとも言えない笑顔に、なんとも言えない悲しそうな瞳。監督もよくこの少年を見つけたと思う。
やはり、ミニ・シアター系の映画で売れる作品というのは良作が多い、改めてそう感じた作品でした。