フライト / Flight |
日本永久帰国後、第一弾の映画はデンゼル・ワシントン主演、そして「バック・トゥ・ザ・フューチャー」3部作や「フォレスト・ガンプ」のロバート・ゼメキス監督12年ぶりの実写。
アトランタ行きの飛行機に乗り込んだ機長のウィップ。離陸直後の激しい乱気流も鮮やかに切り抜ける。だがしばらくすると機体が制御不能となり急降下が始まる。機体を逆さまにして背面飛行をすることで高度を水平に保ち距離を稼ぐ。そして草原地帯に不時着陸を試みる―――。
病院で目覚めたウィップは、元同僚のチャーリーから、102人中生存者は96人だったと告げられる。10人のパイロットが事故のシミュレーションをしたが、全員が地面に激突、全乗客が死亡するほどの大惨事だった。マスコミがウィップの偉業を称え、彼は一夜にしてヒーローとなったのだ。
ところがウィップの血液からアルコールが検出され、彼はアルコール依存症でコカイン常習者だったことが次第に明るみになっていく。
うーん。何だろう、このモヤッとした感覚。別につまらなかったというわけではないし、不快だったというわけでもない。俗に言う考えさせられる映画である。要約すれば、"アル中のパイロットの傲慢とも言うべき嘘の塗り重ね"の物語である。
予告編を見た限りでは、数年前に実際に起きたニューヨークのハドソン川への不時着の映画版+法廷サスペンスのようなものだと思っていたが、サスペンスの要素はない。というか、ひたすらデンゼル演じるウィップのアル中物語である。それはそれでどれだけダメな奴なんだ!?と憎らしい感情を覚えさせる彼の演技はさすがだし、そういうドラマとして見れば、かなり完成度は高い。
口のモゴモゴした話し方だったり、タプタプのお腹まわりだったり(役作りでそうなのか、実際そうなのかはわからないが・・・)、家のすべてのお酒を廃棄したにもかかわらず、翌日には別のお酒を買ってきたりする流れだったり、そして最後の審判ともいうべき日の前夜、それまで我慢していたお酒がひょんなことから目の前に現れた際のそれを我慢できるかどうかの演技・演出は心憎いほどで、思わず、"ヨシッ!"とか"あぁ"とか声が漏れるほどだった。
さらにアル中のウィップと傷をなめあう相手として登場するのがドラッグ中毒の女性というダメダメな関係は切なさすら覚える。
それが最後の公聴会でもう一度だけ嘘をつけば・・・というシーンがこの作品の一番の目玉なのだが、そこでウィップは嘘をつけなくなってしまう。最後にもう1つだけ嘘をつけば良い状況で、主人公が取った言動は、最後の良心とでも呼べば良いのだろうか?
とある人物の写真を見せられ、苦悩することになるのだが、正直良心の呵責にさいなまれるほどの場面描写がなく、ウィップに感情移入することができない。多分それがモヤッとした感覚につながっているのだろう。
飛行機の墜落シーンはさすがゼメキス!という演出。見ていて手に汗握る感じになったのは久しぶり。
また伏線の張り方と回収の仕方もゼメキス様々だ!ウィップが目覚めた病院の非常階段でのキリスト教的神についての会話。突然突拍子もないシーンが出てきたなと思っていたのが、終盤のウィップの言葉に結びつき、なるほど!このための前振りだったのか!?と納得させられる。
また酔っ払ったまま前妻の元を訪ねるシーンも要らないのではないか?と思っていたが、これも終盤に向けての前振りで最後の最後の台詞に結びついてくる。その台詞は「Who are you?(あなたは誰?)」、その問いに対してウィップは「Good Question!(良い質問だ!)」とだけ答える。観客に答えを考えさせる定番といえば定番の方法なのだが、この作品に関しては明確な回答を出して欲しかった。まぁ余韻のある終わり方ではあるのだが・・・。
しかしいくつか見逃せない点もある。中でも一番大きかったのが、パイロットのアルコール検査はしないのか!?という点。地方の小さな空港でセスナのような小型機を運転するならまだしも、乗客を乗せ、しかもタラップを通って搭乗するような飛行機で、そういうことってあり得るのだろうか?
この作品の肝は、飛行機の墜落原因が整備不良なのにもかかわらず、パイロットがアルコールとドラッグをやっていたことで事態が複雑になる点。この部分を最後までどちらが本当の原因かわからないような脚本・演出にしていれば、また違った感想になっていたかもしれない。