スラムドッグ $ ミリオネア
Slumdog Millionaire
採点:★★★★★★★★☆☆
2009年2月28日(映画館)
主演:デーヴ・パテール、フリーダ・ピントー
監督:ダニー・ボイル

劇場公開なしのDVD販売のみの予定だった作品が、トロント映画祭で観客賞を受賞したことがきっかけとなり、その後のありとあらゆる映画賞を受賞し、劇場公開も決まり、その劇場興行収入も1億ドルを突破!そしてついにはアカデミー賞作品賞まで受賞という、これぞまさにアメリカン・ドリーム!というべき成功を成し遂げた作品。

インドのスラム街の貧困を生き抜いてきたジャミール。世界的な人気番組「クイズ$ミリオネア」に出演し、20億ルピーを手にするまで残り1問のところまで彼はたどり着いた!
しかし、スラム街で育った無教養の少年が、なぜクイズの答えを全問知っているのか?と疑われ、警察に連行され、尋問を受けることになってしまう・・・。

ここ数年で一番面白い演出だった2009年アカデミー賞。そのアカデミー賞、作品賞を獲得した作品。
見終わった直後の感想としては、「ショーシャンクの空に」のように妙な爽快感を覚える作品だった。作品の色というか、雰囲気も実は"ショーシャンク"に似ている。
どちらの作品もとても重くシリアスな内容("インドのスラム街の残酷な現実"と"無実の罪で捕まり何十年という長い年月を刑務所で暮らした過酷な現実")であるのに、見終わった後の爽快感と言ったら・・・。どちらの作品もこれだけ重い内容を、よくぞここまで爽やかな作品に仕上げたものだと感心します。

クイズを1問答えるたびに、スラム街で過ごした幼少期の回想と、警察でのイカサマ容疑の尋問が繰り返されるという、TVスタジオ、スラム街、警察署という3つの場所で、過去と現在を行ったり来たりするという展開。いくつかの違う場所をもとに時間の流れをごちゃ混ぜにするという、ここまではよくある映画の展開理論なのだが、通常、こういった展開理論というのは観客を置き去りにしてしまうことが多い。
というのも、作り手は最後の行き着く先を見据えて作品を作っていく一方で、観客は何も知らない状態で作品を見る。この答えを知っている人たちが作った作品を、答えを知らない人たちが見るというのが映画の常なのだが、このギャップが大きすぎると作り手の伝えたいことが受け手である観客に伝わらない。そして時間軸を行ったり来たりする作品にはこのギャップが大きいものが多いのだ。
ちょっと話がそれたが、この作品はこのブレがない。むしろ1問ずつクイズの答えに対する人生の答えとでも言うべき回想シーンを、文字通り"回答"を1つずつ見せていくという展開が今までにない展開となっており、観客の興味をひきつけることはあっても、観客を引き離してしまうようなことはない。
クイズ番組の進行と主人公の人生の進行が交錯しながら物語が展開されていくという構成がこの作品の一番の肝といっても良いだろう。

そしてこれを成し遂げる上で欠かせないのが、やはりクイズ番組、ミリオネア。日本ではみのもんた司会、「ファイナル・アンサー!」という台詞でおなじみの番組。ライフラインという番組おなじみの技が、最後の最後で非常に有効に使われていたり、上述したようなクイズの回答と人生の回答をうまく絡めたり、また「ファイナル・アンサー」という名台詞そのものが、作品の中で実に上手く使用されていたりと、あげればきりがない。
クイズ番組と人生を絡めた構成と合わせて、この番組自体を絶妙な調理法で、最高の味を引き出した脚本家は本当に素晴らしいと思う。
中でも、幼少期、"三銃士"ごっこをして遊んでいたジャミールと兄とラティカ、それが最終問題になるという構成、そして失明した少年との100ドル札をめぐる再会のシーンは、メチャメチャ心奮えました。

そしてこの作品の中で描かれているインドの現状(と言ってもインドに行ったことすらないが・・・)はとても過酷である。それでもなぜかすごく"爽やか"な、そしてすごく"懐かしい"感じがする。
過酷な現状としては、コーラ1本で見知らぬ大人についていく子供達を筆頭に、電車の中の食事を奪うために屋根からロープ1本で宙吊りになったり、何ら罪悪感を感じることすらなく(むしろ楽しんでいるように見える)、観光客に窃盗を働いたり、挙句の果てに車上荒しどころか、車のタイヤまで盗んでいく。
またボットン便所に飛び込んだり、同情から金を得るために、子供の目を無理やり失明させ、路上で歌を歌わせたり、といった感じで、次から次へとスラムの過酷な現実が描かれていくのだが、それでも映画がさほど悲観的にならない。それはおそらく子供達のたくましさによるものだろう。
子供達の純粋さと言っても良い。"純粋=爽やかさ"と置き換えるのならば、"懐かしさ"はどこから来るのか?多分自分の子供時代の思い出だろう。例えば、コーラ1本で見知らぬ人についていくシーンは、学校の先生に見知らぬ人についていっては駄目だと言われた記憶が無意識の中で蘇っているのかもしれないし、電車から食事を盗むシーンは駄菓子屋で万引きした過去が・・・、といった感じで自分の思い出に少しずつかぶっているのではないか?と思う。

そしてキャスト陣。
まず、ジャミールの兄。こいつがまた悪いやつで、途中いろいろと悪さを働き、ジャミールの初恋の相手ラティカすら道具のように使ったり、切り捨てたり・・・。しかし、実はすべてが弟のためにしてきたことだって最後にわかる展開がとても良いし、また演じた役者も素晴らしい。
そして、ヒロイン!
6ヶ月にも及ぶオーディションを勝ち抜いたそうで、中国の13億に次ぐ11億近い人口の中から選ばれたのだから当たり前と言えば、当たり前なのかもしれないが、このキャスティングをした人はすごい!
美人は美人だが、数多いハリウッド女優の中で、群を抜いた美人といった感じではない。やや悲壮感漂う顔で、親しみのある美人とでも呼べばいいだろうか?それがこの作品にとてもマッチしている。
物語全体を通して、テーマが重いにも関わらず、爽やかな印象を受けるのはもしかするとこの女優のおかげかもしれない。

そして最後、日本映画ならまず間違いなくアン・ハッピー・エンドにして悲壮感を漂わせながら芸術的価値を高めようというところをさすがはダニー・ボイル。わかってます。

映画の冒頭、主人公が2000万ルピー獲得まで残り1問までたどり着いた理由は何か?との4択クイズが出題される。選択肢は以下の4つ。

A:ズルをした
B:幸運の持ち主だった
C:天才だった
D:運命だった

応えはもちろん○○だが、この演出がまたこの上なく、素晴らしい!
自分がこの映画と出会ったのは?って質問も同じ答えになるのだろうか・・・?

一口コメント:
2009年度アカデミー賞作品賞、さすがです!

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