GODZILLA ゴジラ |
1998年にローランド・エメリッヒ監督によるハリウッド・リメイクが公開された際に酷評されたがそれから16年の時を経て、再びリメイクされるということで見に行った作品。
1999年、日本。突如として発生した異様な電磁波がきっかけとなり原子力発電所がメルトダウンを起こし、そこで働いていたジョーは同僚の妻を亡くしてしまう。15年後、ジョーの息子フォードはアメリカ軍爆発物処理班の隊員となり、医師である妻とともにサンフランシスコで暮らしていた。ある日、日本で父が警察に逮捕されたという電話があり、日本で暮らす父を訪ねることに・・・。
父は原発崩壊事故の原因を調べようと侵入禁止区域に侵入して逮捕されたのだった。しかし2人は実家に残されたデータを回収するべく再侵入し、実家でデータを回収するも、パトロールに見つかり、原発跡地内に建造された研究施設に連行される。そこで15年前と同じ電磁波が計測され、巨大生物ムトーが動き出した。
研究所の芹沢博士によると2億7千万年前のペルム紀末の生物で、放射能濃度の低下とともに地中深くへと隠れていたのが、第二次世界大戦をきっかけとする核実験により地表の放射能濃度が高まり、再び地上へと戻ってきたらしい。核燃料を好物とする翼を持ったこの巨大生物はハワイに上陸。それを追うかのようにもう1つの巨大生物がムトーの前に現れる―――。
個人的にはローランド・エメリッヒ版の素早っしこいトカゲ型GODZILLAも嫌いではなかったが、今回のリメイクを見ると確かにギャレス版ゴジラは日本人に対して訴える力がある。
まずは何よりそのデザインが日本のゴジラに似ている。背中にある背ビレや筋肉隆々とした外見はもちろんだが、その動きもゆっくり、ずっしりとしていて、着ぐるみ文化で育った日本人にはおなじみの、ある種の懐かしさと共に"怪獣感"を感じさせてくれる。
その一方でムトーなる敵キャラのデザインは"怪獣"ではなく、あくまでも"巨大生物"であり、日本の着ぐるみ文化では絶対に描けない造型となっていて、ゴジラとムトーが戦うシーンはさながら「日本の怪獣 vs ハリウッドのCG生物」の様相を呈している。特にラスト・シーンのゴジラがムトーの口を強引にこじ開け、口から口へ放射能噴射はエグかった。この辺りの描写はハリウッドならではと言えるかもしれない。
怪獣映画ということでどうしても暗くなりがちなスクリーン(青空の下で戦う巨大怪獣ってのは恐怖感を煽るという点においてはマイナスでしかない)で、ムトーが最初からスクリーン上で暴れまわる一方で、ゴジラはなかなかその姿をスクリーンに見せない。タイトルにもなっているこの映画の主人公なのに全然登場しなくてもどかしい・・・と言う人もいれば、緊迫感があって登場した瞬間の待ってました!感が良い・・・など見る人によって感想は様々だとは思うが、個人的には後者だ。
監督のあえて"見せない"演出だと思うのだが、最初は海面の上に見える背ビレのみを映し、海面を波立たせ戦艦さえも揺することでその大きさを間接的に伝え、ハワイでのムトーとの第1回戦はムトーは全景を描いた一方でゴジラに関してはTVでのニュース映像のみ。サンフランシスコでも主人公の妻が地下に逃げる直前にムトーがゴジラに襲い掛かる場面で扉を閉めて、後を見せない演出。そしてパラシュート降下中も巨大すぎて視界に収まりきらない。この辺りの演出は非常に上手い!
これで最後までその姿を見せなければスピルバーグの名作「激突!」と同等のレベルにもなりえたかもしれないが、怪獣映画でそれはできないため、「クローバーフィールド」と同じ手法をとった。そしていよいよ登場したと思ったらあの咆哮!ゴジラ・ファンなら歓喜の瞬間だったのではないだろうか?
それを補うかのように基本的には人間の目線を意識したカメラワークとなっている点も見逃せない。この監督、期待感の煽り方というのを良く分かっている。ゴジラ映画を監督するくらいだから、おそらく監督自身ゴジラのファンなのだろう。
また脚本上、上手いなぁと思ったのが、1954年のビキニ環礁での水爆実験。あれが実はゴジラを倒すための攻撃だったという設定。この設定がこの作品にある種のリアリティを与えている。"原爆実験における放射能の影響"という日本版の設定も良いが、この攻撃説はさすがハリウッド、非常に上手い設定。リアリティを与えるだけでなく、水爆ですら倒すことができない神=GODという英語タイトルにもつながるキャラ設定にもつながっている。
そしてゴジラの敵となるムトーが核燃料を主食としている設定は斬新で面白かった。ハリウッド映画において"核"は宇宙人や未知の生物に対する人類の最終兵器であり、それを食べる生物がいるという設定は新しい。ゴジラも核をエネルギーとしているのだが、それを"食べる"という設定ではないし、口から入れるシーンもない。しかしムトーは文字通り核を"食べている"。
この作品の中で日本人である自分が最も驚いたのが、渡辺謙演じる芹沢がアメリカ軍の将軍に対して、1945年8月6日の広島への原爆投下を責めるような描写があったこと。日本映画であれば、スルーしていたかもしれないが、これはゴジラとはいえあくまでもハリウッド映画であり、アメリカのスタジオが作った映画である。そんなアメリカが作った映画の中で、とてもセンシティブな原爆問題をアメリカが非難される描写を入れるとは・・・驚き以外の何ものでもない。しかもその台詞を言っているのが、"アジア人"ではなく、正真正銘の"日本人"なのだから、すごい!
このシーンがあるだけでも日本映画であるゴジラがハリウッドでリメイクされた意義があると言える。
そしてフィリピンに始まり、東京、ハワイ、サンフランシスコ、ラスベガスとフィリピン以外は見慣れた光景がスクリーンに映し出されることもあり、自分にとっては懐かしい映像が展開された。中でもラスベガスとサンフランシスコは両都市ともに10回以上訪れていることもあり、感慨深いものがあった。特にラスベガスのトレジャー・アイランド・ホテルからなめての破壊されたストリップ沿いの映像は衝撃ですらあった。
超A級の俳優は出演していないものの、モンスター映画としての必要最低限な人間ドラマも織り込まれていて、よくある物語とはいえ、これぞハリウッドのパニック映画という王道的な展開も踏まえた上で日本の怪獣映画の要素も上手く取り入れた見事なリメイクと言えるのではないだろうか?