オール・ユー・ニード・イズ・キル EDGE OF TOMORROW |
日本のライトノベル小説を原作に、ハリウッドで実写映画化された史上初めての作品。ただしハリウッド映画といってもピンキリある中、主演がトム・クルーズという超大作、そして公開に先駆けてヤンジャンにて、"DEATH NOTE"の作画担当の小畑健によって短期連載もされていて、それが非常に面白かったので見に行った作品。
近未来、ギタイと呼ばれる謎の侵略者により、地球は滅亡の危機に瀕していた。地球軍は歩兵用パワード・スーツの投入と"戦場の女神"の名で知られるリタの活躍によって、かろうじて踏みとどまっている状況だった。そんな中、軍の広報担当であったケイジは、将軍の反感を買い、最前線に送られてしまう。
ケイジが配属されたJ分隊の兵士たちは彼に非協力的で、武器の安全装置を解除する手順すら教えられないまま作戦に参加させられる。分隊の仲間や、英雄であるはずのリタも戦死、終にはイジも死亡してしまう―――。
ところが次の瞬間、ケイジは時間を遡り、前日に戻っていた。そして同じやり取りをして再度戦場に出向いたもののやはり死んでしまい、目覚めると前日に戻る―――そんなことを何度か繰り返されている内に、ケイジは戦場で生き残るために、敵の攻撃パターンを覚え、死ぬはずの運命だったリタを助けることに成功する。そして彼女から、彼女自身も以前タイム・ループに巻き込まれた経験があり、今はその能力を失っていること、そしてタイム・ループの秘密を知らされる―――。
今までにも「ミッション:8ミニッツ」のようなタイプ・ループの作品というのは何度かあり、どの作品も外れはなかったが、この作品も例に漏れず、傑作と呼べる作品に仕上がっている。
他の作品もそうだが、タイム・ループはメインではなく、あくまでも一要素であり、物語の中核は別のところにある。この作品で言えば、どうやってギタイを倒すのか?というのが中核であり、そのための要素がタイム・ループといった構図。
それに味を加えるのが、ケイジというトム・クルーズ史上最低の"チキン"男。実戦経験はなく、最前線への派遣を命じられた際には様々な言い訳を並べ立て、挙句の果てには脅迫まで行って命令を回避しようとするトム・クルーズなどいまだかつて見たことがない。しかも成長を見せる人間ドラマではなく、SFものでのキャラ設定ということで、最初から良い意味で観客の期待を裏切ってくれる。
そして当然のようにそこから鍛えられながら強くなっていくのかと思いきや(もちろん最終的には強くなるのだが・・・)、ガム・テープで口をふさがれたり、「未だ骨折してない、動ける!」と命乞いしたり、トラックの車列に突っ込んで轢かれたりと笑いのシーンが何度か続き、強くなる前にダメ男キャラでまだまだ引っ張る。しかもこの笑いが"死んだらやりなおし"というこの作品の世界観だからこそ成り立つ笑いになっているところが、さすがハリウッド!と思わされる見事な脚本になっている(漫画ではそんな笑いのシーンは一切なかった・・・)。
脚本という意味では、ギタイが所在場所に関して仕掛けたトリックも絶妙だった。ケイジが最初に到達した場所が罠ということ、そして本当の所在地の場所に続く手がかりを握っているのがケイジを飛ばした将軍だという設定はブラック・ユーモアもあり、こういった細かい設定までは日本の原作や漫画では描かれていないことを寂しく感じたシーンでもあった。
また脚本だけでなく、監督の演出と編集も素晴らしい 死ぬたびに同じ場面に戻り、同じことが繰り返される=見ているほうは飽きるはずだが、最初の一回で見せたものと同じシーンを都度省略し、少しずつ違うカットを入れ込んだりして、飽きの来ない映像に仕上がっている。
そしてこの作品の最も素晴らしいところがタイム・ループの能力をどうやって手にしたか?という理由付けと、その能力の気づきのきっかけとなったリタの存在。この設定が矛盾なく、しっかりとしていることでこの世界観にスムーズに感情移入できる。
そしてそれに輪をかけるのがタイム・ループの能力を失ってしまうという設定。これがあることによって作品に締りが出るし、最後の戦いの重みが増す。そして観ているこちら側にもその緊迫感が伝わってくる。漫画にはこの設定もなく、これまたさすがハリウッド!非常に上手い仕掛けだ。
しいて欠点を挙げるとするならば2.5点。
1点目は"死ぬ=リセット"があまりにも簡単に描かれていて、少しくらいは"リセット=死の連続=永遠に続く恐怖"といった描写を入れて欲しかったという点。特にまだ"チキン"状態のケイジが「殺さないでくれ!」と言っていた状態でこの描写があれば、よりリアリティが増していたのではないかと思う。
2点目は"戦場の女神"とも呼ばれたリタが最初にあまりにもあっけなく死んでしまう点。そこはリタってものすごく強い!けど、そんなリタでも複数で来られるとさすがに歯が立たないのね、的な演出は入れてほしかった。
そして最後の0.5点は最後のループの戻り先。終わり方としてはいろいろと妄想が膨らむ良い終わり方なのだが、それまでは非常に細かく設定されていたのに、何でこのシーンだけ、そこに飛ぶのか?という説明、いや説明はなくても良いけどその種明かしのタネくらいは見せておいてもらえると満点だったのに・・・と思わずにはいられなかった。
細かい部分に関してはさすがハリウッド!と思える良い意味での改定を加えられた史上初めての日本のライトノベル原作のハリウッド実写映画ということで、「Dragon Ball Evolution」とは正反対の日米合作優良作品です。